冬の間(9)
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☆ ゴブリンとオイルと競争
冬の間は、余りモンスターが出ない・・・逆に言うと冬しか出て来ないモンスターもいるらしい。
この国の近辺で年間を通して元気なのは、ゴブリンだと言う。
ゴブリンは寒くても熱くても動きに違いはないようだ。
つまり、何らかの機構を体に備えているのか、単に体が丈夫に出来ているからなのか・・・
もし、ゴブリンの体液が不凍液並なら色々と使い道がありそうだ。
さっそくゴブリンを捕まえて、色々試してみよう。
ユカさんに手伝って貰いゴブリンに血液や細胞間液等を雪の上に置きどうなるのか経過を見る・・・完全に凍らないが粘度は増す。
雪の冷たさで粘度が増すって事は、雪のカマクラの外では使えないってことか・・・
一応、筋肉も実験して見たが収縮してしまう。
最後に本命の脂肪で実験をしてみよう。
結果は、脂肪は雪が降ってる現在でも液状・・・どんなに寒くてもゼリー状になる程度。
たぶん、この脂肪分が冬でも動きが鈍らない原因なのだろう・・・だが、これだと防寒にならない気がするんだが・・・ファンタジーって事なのか?
皮で断熱をして、脂肪を消費して熱を作り出しているって事か? どうなんだろう?
必要になればそれも調べるって事で、今は脂肪を確認してみよう・・・脂肪って言うよりもオイルや燃料に近い気がするな、てことは、燃料として使えなくはないか?
そう思い、実験に火にかけてみる。
すると、すぐにゼリー状の脂肪が溶けていき液状になり燃え始める・・・が、物凄い臭い。
臭すぎて、燃料としては使えないか・・・しかし、不凍性がここまで高いのなら自転車のサスのオイルに使えそうだ。
でも、道が整備され始めてるからいらないかな? いや、いつか使うかも知れないし、色々残していくのが1番だろう。
しかし、このサスの構造とサスの付け方はモ〇キー(50ccバイク)と一緒なんだよなぁ・・・出来ればマウンテンバイクの構造を調べたい。
そんな事を考えていると、セードルフが俺を呼びに来た。
「カナタ様、また王城内で騒ぎが起こったようです」
「またぁ? もしかして、今回も首謀者はヴォルスト様とオルトウス様なの?」
「はい、今の所2人のようです。 いかがいたしますか?」
「止めにいくしかないでしょう。 全く子供じゃないんだから、1回注意されたらおとなしくしろっての・・・」
今回呼ばれたのは、大将軍のヴォルスト様とオルトウス様が、自分のデコ自転車で王城の中をレースしているためだ。
雪が降って外で乗れないから王城の中で走り回っている・・・どっちの自転車の方が凄いかを言い争うまでは良い。
しかし、言い争いの末にレースで勝負する流れは止めて欲しい。
止めにいく俺の身になってくれ・・・
何故俺がとめにいくのかというと、競技会を手伝ってくれた兵士や文官達に「本当に困った事があったら相談しに来て良いから」と言ってしまったためだ。
まさか魔物の脅威とかじゃなく、おじいちゃんとおっさんの2人を止めるのを相談されるとは・・・
2人だけのときならまだ良いのだが、フランソワーズ様と陛下、ボルディン殿下が参加するときもある。
確かに5人を物理的にも止められるのはソメイヨシノの誰かだけなのだが、本当にめんどくさい。
王城に行く前に、オルトウス様の家へ寄り孫娘のオルムニームをお菓子で誘い出し王城へ・・・決して誘拐ではありません!
王城に着くと1人のメイドに話しかけ、メモ紙を渡し大将軍の奥さんのフロフリール様を呼んでもらう。
何故2人を呼んだかというと、暴れ回る2人にお灸をすえる為だ。
2人を捜して周りを見ると、立ちこぎをしたおっさんとおじいちゃんがデットヒートしながら入り口の前を通り過ぎ、キキィーとブレーキ音がなり2人がどっちが勝っただのなんだの言い争っている。
そして入り口に立つ、俺を見つけ話しかけてくる。
「おい、カナタ! 勝ったのはどっちだ? 見ていただろう?」
ヴォルスト様が、指を指して言う。
「もちろん、儂じゃな。 この紅蓮参式改には勝てぬだろう」
オルトウス様が、腕を組んでニヤリと笑い言う。
「なんだと! ジジィ! 俺のグレートヴァスライアンの方が速いに決まってるだろう!」
なんだこの不毛な会話・・・しかも、自転車に名前付けてるのかよ・・・
「あの、2人ともいい加減にして下さい。 他の人の迷惑にならないようにしないと次は怒りますよって言っておきましたよね? 周りを見て下さい、タイヤの跡とか色々付いてしまってますよ?」
2人は、周りを見て青ざめ始める・・・ようやくやった事の大きさに気が付いたのか。
しかし、立場的には2人を咎められる人は陛下くらいだ・・・が、ヴォルスト様は奥さんに頭が上がらないし、オルトウス様は孫の事を溺愛している。
この2人を使い反省してもらおう。
「オルムちゃん、オルトウスおじいちゃんが家の中をグチャグチャにしちゃったみたいなんだけど、どう思う?」
「皆に迷惑かけるジージ、嫌い!」
オルムニームは、腕を組んでプイッとそっぽを向くそぶりをする。
オルトウス様は、嫌いと言われたのがこたえたのかアワアワしながら「違うんじゃ~」とか言っている。
良し、お菓子でつって連れて来て良かった。
そうしている間に、大将軍の奥さんのフロフリール様が階段から降りてくる。
フロフリール様は、物凄い大激怒しているのが傍目にも分かる・・・あれ? 予想していたよりも怒ってる?
俺の味方になって貰おうと思い、メイドにメモ紙を渡したのだがやりすぎたかな?
メモ紙には・・・
『ヴォルスト様が王城で競争等をし色々な人に迷惑をかけています。 もちろん、ソメイヨシノ製の服やアクセサリー製作にも支障が出ているので注意をお願いします』
と書いてある。
フロフリールは、降りてくるなりヴォルスト様を殴り飛ばした・・・物理的に注意するのかよ!
その後、ヴォルスト様が土下座させられていた・・・
「オルムちゃん、オルトウスジージがね。 ちゃんとお片づけして帰るから、おやつが無くなったりしないよ。 ジージにお片付け頑張ってねって言って帰ろうか」
「うん! ジージ、お片付けやってね」
オルムニームは、笑顔でオルトウス様に手を振って入り口へ向かって行く。
よし、これで片付けで困る事もないはずだ。
オルムニームを送り届けた際に、積み木で一緒に遊ぶことになってしまい、結局自分がやろうと思ったことが出来なかった・・・
そして気付かされる・・・子供の体力って、俺達より多いんじゃない? と・・・
☆ 実験の成否 -? 視点-
危険があるため自国から遠く、ウェーブの被害で実験出来る死体が多い事からここで実験する事となった。
人の死体を人の知識や理性を失わせずに魔物に変える実験なのだと言う・・・そんな事はどうでもいい。
実験が終わったら錬金術の重鎮を、無事に帰さなくては・・・あの子達が・・・
追撃部隊の特徴や様々な問題等を調べ上げる・・・追撃部隊は臭いに敏感な獣人が多いようだ。
◆◇
「じゃあ、ちゃんと逃げられたんですね?」
「ええ、報告にあった通り雨の日を選んだので、そこまで苦労せず他国へ移動出来ました」
「そうですか、ギリギリだったので危ないかと思ったんですが良かったです」
「ええ、そうですね。 それで、この防具が新素材を使った防具という訳ですか・・・見た目じゃ全く分かりませんね」
「それはそうですよ。 魔鉄でコーティングされていますから・・・使い方は紙に書いてありますので」
「そうですか、ご苦労様です。 では、これは手紙です」
手紙を受け取ると、中身を見る・・・筆跡は2人の物ですね、隠し文字もちゃんと書いてあります。
良かった・・・妹と弟は無事みたい・・・実験の経過も良かったみたいだし、あと5年頑張れば・・・