第190話 屑野郎と冬
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「何? 他に欲しい物があるとか?」
「いえ、そうではないんです。 話しを聞いた後に、私達5人と両親を罰さないで下さいませんか?」
「罰するわけないでしょ? 魔法契約書でも書こうか?」
「いえ、少しの間ですが一緒に過ごして、嘘をつかない人だという事は解っていますので大丈夫です」
え? 俺ってかなり嘘つきなんですが・・・
「それじゃあ、聞かせてくれる? 何で俺が避けられているのか」
「はい、解りました。 じゃあ、最初から順をおって説明しますね」
最初から順をおって? 何? 俺って最初から嫌われてたって事?
「私達は盗賊に捕らえられて慰み者になってました。 その時に皆で励ましあって、皆で隙を見つけて街まで逃げようといつも話してたんです。 その時にカナタ様が私達を助けてくれました。 街まで連れてってもらえれば何とかなると思ってたんですが、考えが甘くて路頭に迷うところだったんです」
ルーリンは、木で出来たコップにお茶を入れると軽く飲む。
「そんな私達を宿に泊めて、食事をご馳走してくれました。 その時も私は、気に入らないことをしたら見捨てられたら借金奴隷にされるんじゃないかとビクビクしてたんです・・・たぶん皆も一緒だと思います。 でも、お酒が入って安堵感が一気に噴出してきてしまい、ナッチンが皆にキスし始めたんです」
なるほど、そんな風に考えていたのか・・・そんな事するわけないのに・・・
「うん、いきなり抱きつかれてキスされたね」
「はい、ナッチンは仲のいい友人とお酒飲んだりすると、抱きついたりキスしたりしちゃうそうなんですよ。 それは置いといて、助けていただいたカナタ様に見捨てられたら、皆も見捨てられちゃうかも・・・そう考えると、酔っていなかったとしても、拒否が出来ないと思いませんか?」
なるほど、つまりは皆を盾にし脅し体の強要をしたのと同じだって事か・・・真っ直ぐな下衆野郎で屑野郎だな。
「ああ、何となく解った。 俺が皆を盾にして、襲うような屑野郎で下衆野郎だったって事だ・・・凹むなぁ」
「いえいえ、そこまで酷くはないですよ。 あれはナッチンにも責任があるんですから。 それと、私がナッチンだとして、襲われなかったら『私って魅力ないんですか?』って言って怒ると思いますし」
「うわ、何それ? 襲っても襲わなくても屑野郎って事? そりゃどうすることも出来ないじゃん」
「ですから、屑野郎って事はないですってば。 カナタ様が襲ったのは、ナッチンが誘ったからなんですから! あと、王都で頑張っている姿を見たら絶対に屑野郎なんて言えませんよ。 働いている皆のために色々考えてくれているのを解ってますし、本当に有名人で人気者だって解りましたし。 だから凹まないで下さい」
「ありがとう。 でもなぁ、やっぱり凹むよなぁ」
「カナタ様はナッチンの事が好きだったんですか?」
「好きだったと思う。 けど、う~ん・・・まだ、全部見たわけじゃないから何とも言えないかも」
「そうですか・・・難しい性格ですね」
「面倒な性格だと言う自覚はあるよ。 話は変わるけど、俺はナショウに何をしてあげれば良いと思う? お金とか?」
「それは無いですよ。 お金を渡したら、お前はこの金額で体を売ったんだと言われているみたいに感じると思いますよ? なので、今回は距離をとるってのが最善なんじゃないですか?」
「そっか・・・じゃあ、それとなく言っておいて貰える? 俺が言うと拗れそうだし」
「はい、解りました。 あ、後溜まってるんでしたら私とします? 後腐れなく出来ますよ?」
「はぁ? 今の会話の流れで抱けるわけないでしょう?」
「そうですか? 私は、カナタ様の子供なら産んでも良いですよ? 両親も応援してくれると思いますし」
ルーリンは思いっきり笑顔で言う。
笑顔なんだけど、何となく怖いんですが・・・
「はぁ・・・俺が好きってことじゃないんでしょ? その真意は何か教えてくれる?」
「好きって言う感じじゃないにしても、カナタ様を尊敬してるってのもありますよ。 しかも、玉の輿ですし! 天才の子供の母親ってのも悪くないと思います。 どうですか? 私と一緒に家庭を作りませんか?」
ルーリンってこんな性格だったっけ? いい子だとは思うんだけどな・・・というか、お金欲しいんで結婚して下さいって言われても素直に喜べないんだよな。
いや、お金で結婚は有りだとは思う・・・でも、もてないにしてももう少し位は足掻きたいな。
「嬉しい誘いだと思うけど、止めて置くよ。 今結婚してもケツの毛まで引っこ抜かれて売られちゃいそうだし、勇者を目指しているから色んな所にいくだろうしね」
「あ~そうですか。 でも、昔の勇者様は子供を残してますし、お金さえ残してくれればちゃんと子供育てますよ? もちろん、お金さえくれれば浮気も許容します!」
「あっはっはっは。 そこまではっきりお金のために結婚しましょうって言われると、いっそ清々しいな。 覚悟が決まったらお願いするかもしれないから、その時はよろしくお願いするよ」
「そうですか。 じゃあ、待ってますね」
「いや、待ってなくていいよ。 好きな人ができたら結婚しちゃいなよ。 好きな人位居るんじゃないの?」
「そんなの居ませんよ! 私、つり目なのでポーとしてたら怒ってるように見られちゃいますし、盗賊に襲われてたわけですし・・・」
「でも、仲のいい人が居るってオモチから聞いてるけど? あの人との仲はどうなの?」
「あぁ、一緒に働いてるネルミッツの事ですか? 同じ所で働いててよく話しますけど、お金持ちじゃないので難しいですね。 ほら、新薬の開発とかってお金かかりますし」
ルーリンは焦りながら言う。
嫌いって訳じゃないんだろうけど、未だに恋愛感情はないって感じなのかな?
「そっか、愛よりお金か・・世知辛いな」
そんな話しをしてルーリンと別れると、ユカさんに呼ばれる。
ミズクサの街のギルドマスターの膝の回復に呼ばれる・・・なんでも、ゆっくりと位置を動かしていき元の場所に固定するらしい。
魔力眼で見るとほんの少し動いてるのが解る程度だが、ギルドマスターが涙を溜めて痛がっている。
ギルドマスター曰く、こんなに痛いのなら治さなくても良いかもって思うほど痛いらしい。
でも、頑張ってもらうしかない・・・というより、俺の練習に付き合って貰おう。
ギルドマスターの治療が終わったら、私室に帰りメモを書き出す。
冬の間は、雪が降るって言ってたし色々とやっておかなきゃいけないことがある。
まずは道の整備、アスファルトは無いのでコンクリートで舗装したい。
コンクリートの方が寿命が長いが、養生の期間が必要になってくる・・・しかし、魔法で固めてしまえば特に期間は必要なくなるし、クラック(ヒビ)が入る事はない。
次に学校の整備、学校自体はもうすぐ出来上がるのだが、運動場を作り上げなきゃ・・・たしか、普通の運動場とアスレチック、体育館を作るんだったな。
あとは、貴族街のお店を作り変える為の木材を確保して、そのついでに薪もとって来た方がいいだろう。
あとは、羊毛が欲しいから捜しに行くのと食料確保もしなくちゃ。
蟻も倒してスケールメイルを作る練習もしてもらわないと・・・
はぁ・・・情けない、現実逃避か? やる気が無くなるよりはマシかな。
冬の間は、魔道具の開発や薬の開発、生徒達の指導等色々忙しくなるのだろう。
春になれば、エルフの国へ出発する・・・その前に教員を捜し指導しないといけないな。
学校の様々な物の準備もやっていかないと・・・
そろそろ、食堂もタダシさんとヨシさんの手を離れるだろうし、学校で短縮授業をやってみよう。
奴隷もかなりの数が入ってくる予定だし、計算や読み書き出来る奴隷は教員として活躍してもらおう。
貴族の子が入る予定はないし、今いる平民の子は元奴隷の子や奴隷の子を分け隔て無く接しているし大丈夫だろう。
最近の不満と言えば、王城の近衛兵が組み手に参加しているところだ・・・子供達に武器の扱いを教えてるので強く言えないが運動場の広さが足らないんだよなぁ・・・