王都騒乱(1)
ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。
サブストーリーですが、時系列的に近いので入れました。
-ユカ視点-
カナタさんがミズクサの街へ買い物へ行った後、私はショウマさんと一緒に治療院へ来ている。
最近は治安もよくなってるし1人で出掛けても良いと思うんですが、何かあってからじゃ遅いという事で未だに2人で行動してたりするんですよね。
男性なら1人でもいいというのに・・・・こう言うときは男性が羨ましいですよね。
さて、書類の整理等をやっちゃいませんと・・・
最近は大怪我する方が居なくなりましたし、回復軟膏のおかげで回復がずいぶんと楽になりました。
もっと早く回復軟膏を作っていれば、死ななくてもいい人が救えたのかもしれないですよね。
もっと早く・・・そう、もっと早く・・・ここに来るのももう少し早ければ、怪我等に苦しむ人をもっと救えたのでしょうか・・・
少し前の事を思い出す・・・それは、回復魔法を使い聖女などと言われ始め貴族の方も訪れるようになった頃。
◇
「聖女様、息子を! なにとぞ息子をお願いいたします」
身なりの良い獣人の女性が、息子さんの亡骸を前に祈るようなポーズで言う。
「申し訳ありません。 亡くなっている方を生き返らせる事は私にも出来ません」
私は、女性に向かって頭を下げる。
「息子は亡くなってなどおりません。 怪我もありません・・・体が冷たくなっているだけです。 お願いします、どうかどうか回復させて下さい」
「申し訳ありません。 息子さんは既に・・・」
「なんで・・・なんでなの? 他の子達は治してあげてたじゃない! なんで駄目なの! お金? お金が欲しいのならいくらでも渡してあげるわよ! だから助けて! 回復させて! お願い!」
女性は、怒りながら近づき私の肩を掴んで揺すりながら言う。
「すみません、本当に無理なんです!」
「なんて酷い・・・あなたは聖女じゃなくて悪魔だわ!」
そう言うと泣き喚きながら崩れ落ちる。
そんな時、扉がノックされる。
「すみません。 あの~指を折ってしまって治していただけますか?」
扉の隙間から、カナタさんに木工を教えていたミミリさんが顔を出す。
「あれ? ミミリさんですよね? ソメイヨシノの・・・カナタさんの仲間のユカです」
「あ! ユカさん、痛いんでお願いしますぅ。 助けて下さい」
ミミリさんが、涙目になりながら言う。
「ユカ様、ここは私達に任せて回復を続けていただけますか?」
治療院で一緒に働いてるチッチルイさんが言う。
「でも、チッチルイさんは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。 行って下さい」
「解りました。 ミミリさん、すぐに治しますので、別室に良いですか?」
「はい、お願いします~」
私は、ミミリさんと一緒に隣の部屋へ行く。
ちっちゃくって可愛い、動きもチョコチョコしてて可愛いなぁ・・・っは! そうじゃない、すぐに回復させなくちゃ。
手を出してもらい、痛みが余り出ない様に骨を治していく・・・
「あの、ユカさん。 先ほどの方は大丈夫だったんですか?」
ミミリさんが、心配そうな顔して言う。
「大丈夫ですよ。 最近は結構多いんですよ・・・あのような事が」
私は苦笑しながら言う。
「大変なんですね。 でも、大切な人が亡くなったら私もあんな風になるかも」
「そうですね。 私もそうなると思います。 ですが、死者を生き返らせるなんて出来たとしてもやりたくはないですね」
「何でですか? 生き返れるなら幸せになりそうなものですけど」
「本人の意思で生き返れるなら良いですが、犯罪奴隷の方達は戦争等により無理やり戦わされ、何度も何度も、死ぬ痛みと恐怖を繰り返し味あわせる事になるでしょう?」
「うわぁ、それは嫌ですね・・・でも、罪を犯した人なら仕方ないのでは?」
「そうかもしれません。 ですが、犯罪奴隷が生き返れ無くなったら、次は誰の番かお解りでしょう」
「嫌です! 死ぬほどの痛みを何度もなんて・・・」
「そうですよね。 ですから、生き返らせることが出来たとしてもやりません。 もちろん、生き返らせる事は出来ませんけどね」
回復が終わったのだが、カナタさんの話で盛り上がり笑いながら過ごした・・・
◇
「ユカ様? ユカ様? お疲れですか?」
「あ、ポーとしてました。 チッチルイさん、何かありましたか?」
「はい、兵士の方より屋敷に戻るようにと託を預かりました。 お疲れのようですし、お休みになって下さい。 ユカ様の作られた回復軟膏があれば私達だけで何とかなりますし、書類も後は任せて下さい」
「解りました。 何かあればすぐ呼んで下さいね」
ショウマ君と一緒に屋敷に戻り、皆の待つダイニングへ移動する。
ダイニングでは、いつも通りまったりした空気が流れていた。
「すみません、遅くなりました。 何かあったんですか?」
「私から説明しよう。 まずは、いきなり全員に集まってもらってすまない。 ミミリの工房に火を放った者が判明した」
フランちゃんが、そう言うと頭を下げる。
「それだけの為に呼んだわけではないんですよね? ただの放火犯なら全員を呼び出す必要は無い筈です」
ケイタ君がメガネの位置を直しながら言う。
やっぱりメガネを調整した方が良いんじゃないのかな? いっつも落ちそうになってるし。
それとも、あのメガネになんか思い入れでもあるのかな?
「あぁ、放火の実行犯は捕らえたのだが・・・そいつの言う限りでは何者かが裏で動いているようだ」
フランちゃんが、頭をおさえて言う。
「もしかしてだが、最近食堂で起きた異物混入騒ぎや販売している服の切り裂き事件等もそいつらの仕業か?」
タダシさんが、腕を組みしかめっ面で言う。
「ああ、本当はソメイヨシノ自体が狙われているが、強さが知れ渡って来ている。 それで、嫌がらせをしているんだと思われる・・・まだ確証が無いがな」
「てことは、ガキ共が見知らぬ冒険者に襲われたってのも?」
ショウマ君が、首を傾げながら言う。
「その可能性が高い、依頼を受けて襲ったと言っていたからな」
フランちゃんが、悔しそうな顔で言う。
「ならば、僕達が無闇に動くと周りが襲われる可能性があるかも知れませんね」
ケイタ君が腕を組んで言う
「ああ、十分あり得る。 しかし、ここに通っている子供達は異常なほど強い。 PT単位で行動するように注意喚起すれば、早々やられる事はないだろう」
フランちゃんが腕を組んで頷きながら言う。
「カナタさんは、この事態も見越していたのか? 襲われた場合に対処出来る力を・・・って言ってたしな」
ショウマ君が腕を組み頷きながら言う。
「流石にそこまで見越していたわけではないと思いますが、僕達を頼らなくても自分の事を自分で守れるというのは大きいですね。 それで、フラン様。 事件の全容は、どこまで解っているのですか?」
「そうだな。 金を払っている者の存在はつきとめた。 彼女は元伯爵夫人だ。 今回のウェーブで夫と息子を全員亡くしている・・・明日の朝に屋敷へ踏み込む手はずとなっている。そこで協力してもらいたい事がある」
息子さんを無くした女性? まさか・・・いえ、そんな偶然があるのは物語の中だけですよね。
「捕縛の協力ですか? それとも退路を封鎖することですか?」
「いや、魔道具の警戒を頼みたい。 調べたのだが魔石を大量に買っているようなのだ。 その魔石を攻撃用の魔道具にしていると予想されている。 一緒に来てもらえるか?」
「ええ、もちろん行きます。 ですが、全員で行けば他の方が襲われる可能性が出てきてしまうので得策ではないと思います。 この場所に残り皆を守る人と、犯人を追う人の2手に別れましょう」
話し合いの結果、ショウマ君、ケイタ君、タクミ君、私、アカネちゃん(ペットのオモチちゃんも)の5人が屋敷に突入する事になった。
タクミ君は行きたくなさそうでしたが、私とアカネちゃんの護衛について来てくれるようです。
私は残った方が良いと言われたが、やっぱりその女性の事が気になって一緒に行くことに・・・
もちろん、皆が怪我をしたときにすぐに治せると言うのも理由の1つです。
思い過ごしであって欲しい・・・何もない事を祈ります。




