第185話 勝負の決着
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ギルドマスターは、前に飛び込み前転をしこちらに向き直る。
「俺はまだ怪我を1つもしてないぞ! そんな状態で負けを認められるか!」
「速度が違いすぎて、突っ込んだときにだいたいの位置しか認識して無かったのは解ってますよね? それなのに負けてないと言うんですか?」
「ああ、俺は負けない! 負けるのはもうウンザリなんだよ!」
ギルドマスターは、そう言うと速度を上げて攻撃して来た。
しかし、単調なヒットアンドアウェイの為、簡単に八角棍で武器を叩き逸らし続けることが出来ている。
接近戦の時の方が虚実を使った攻撃が出来てたな・・・まぁ、今の方が1撃が重いけど。
重い攻撃を八角棍で逸らし続けていると、キンッとなり右手のダガーの刃が折れる。
ギルドマスターは大きく後退し左手のダガーを右手に持ち替え、真っ直ぐ俺に向かってくる。
最後の攻撃って所かな? ギフトの能力を切っていても八角棍を扱えるようになったし、攻撃を受けたら終わらせるかね。
そんな事を考えたが、ギルドマスターが右足を地面に踏み込んだときに、体勢が崩れ地面を転がる。
俺は追撃せずに魔力眼を使い様子を見るため、少し離れて武器を構える。
ギルドマスターは苦悶の表情で、左足だけで立ち上がる。
「もう止めませんか? そんな状態では勝負になりませんよ?」
「ふざけるな! まだ戦える!」
「そうですか・・・残念です」
俺はギルドマスターへ走って行く。
ギルドマスターの右膝には古傷があり、右膝の部分の魔力が変な流れになっていた。
たぶんだが、骨が折れそのままにしていたら骨が変な風にくっ付いたんじゃないかと思う・・・そのせいで、神経も軽く圧迫してしまっているのではないだろうか。
普通に歩いていた所を見ると無理をしなければ大丈夫なのだろうが、今回の戦闘で限界が来てしまったという事なのだろう。
折角考えた返し技を使えなくて残念だ・・・そう思い、ダガーを八角棍で弾き右足の膝に向けて八角棍を振るう。
ギルドマスターは地面に倒れ、痛みを堪えているようだ。
俺達の回復魔法では古い傷は治しにくい・・・無理やり治すと神経が引っ張られ治している最中も常に激痛が走るらしい。
ならば、1度壊して回復させるのが1番の手となる・・・だが、もう1度骨折するのだから脂汗が出るほど痛い。
俺も骨折を1度経験してるので、どのくらい痛いのか解る。
今回は、勝つ為に骨折させなければならなかったのでちょうど良かった。
俺1人の回復魔法では治せる可能性は2割といった所だろう・・・筋や筋肉・軟骨色んな物が既に、変な形に対応してしまっている。
ミズキさんに手伝って貰っても良い所4割・・・看護師だったユカさんがサポートを受けてやるなら7割近い気がする。
少し前にも骨の位置を直してたりしたし、何より回復魔法の経験が段違いすぎる。
膝が折れたまま王都へ来て貰うのは駄目だろうし、なによりも俺の練習になる。
俺とミズキさんしか居ないことを不運に思ってもらうしかないかな。
俺とミズキさんは、回復魔法で応急処置だけされていた冒険者達をきちんと回復させていく。
「冒険者達の皆さん、回復はサービスでいいですよ。 皆さんは金貨1枚を払わない限り借金奴隷になってしまいます。 金貨1枚をすぐ渡せる人が居たら手を上げて下さい」
誰1人も手を上げない・・・そりゃそうだな。
仕方ない、ギルドマスターを治療するか・・・そう思いギルドマスターを見ると、足を抱えて呻いていた。
アドレナリンの分泌が止まったようだな、さっきまでは唸っていて近づきたくなかったけど大丈夫だろう。
そう思いギルドマスターに声をかける。
「負けを認めますか? それとも戦いを続けますか?」
「参った。 すまん、興奮してた様だ。 回復をたのむ・・・泣けてくる位、いてぇ」
サブギルドマスターに勝利宣言してもらうと、ミズキさんに筋肉の弛緩と痛み止めをかけて貰い魔力の流れが滞らないように気を付けながら回復させる・・・
うん、完全に失敗だな・・・ユカさんは良くこんなの成功させられるな。
何回か戻してみたけど骨がずれた所に移動して固まっちゃうんだよな・・・うん、諦めるか。
「ギルドマスター、膝の古傷は治せませんでした。 ですが、仲間なら治せるかもしれません。 連れて来ることが出来ませんので、王都へ行った際に治療院に行ってみて下さい」
「おい、マジで治せるのか? 高名な治療師に頭を下げ、高額の治療費を払っても治らなかったんだぞ?」
「もちろん、確実に治せるわけじゃありませんよ? 治せる可能性があるってことです。 心配なのでしたら紹介状でもかきましょうか?」
「ああ、頼む。 それと治療費はいくらだ? 蓄えはそれなりにある方だと思うが、大金なら払えないぞ?」
「金額までは解りませんが、紹介状を持って行って貰って【ソメイヨシノ】のカナタからの紹介と言って貰えれば・・・」
「おい! おまえが【ソメイヨシノ】だったのか! いや、失礼。 ソメイヨシノの方だったんですね」
「ああ、喋り方は特に変えなくても大丈夫ですよ。 でも、良く知ってましたね」
「そりゃ、国内にいる唯一の1級PTで、金銭での不正も無く実力で1級になった奴らだと教えられたからな」
「金銭での不正が出来るんですか?」
「そりゃあ出来るぞ。 いくら強くても複合PTだけじゃ倒せない敵が出るだろ? 周りの雑魚を掃除させたり物資を運搬をさせたり、魔法によりサポートさせたり様々だな」
「そのくらいじゃ不正じゃないんじゃないんですか? 軍隊でもそういう事が行われているでしょうし」
「おいおい、軍隊と冒険者は違うだろ? 創意工夫してこその冒険者だ。 それとな、犯罪奴隷のPTに毒を飲ませて魔物に食わせるって奴らもいるんだぞ?」
「それは・・・何とも言えませんね」
「だろ? まぁなんにしろ【ソメイヨシノ】ってのは桁違いの強さだと解った。 報告だと全員魔法使いだと言われてたのに、ほとんど魔法を使ってなかったろ?」
「そうですね。 魔法は広範囲殲滅に適していますが、手加減が難しいので手合わせでは余り使えないんです」
「なるほどな・・・ところで、冒険者ギルドサブマスターのベントゥラ君。 今気付いたのだが、何故1級冒険者が来ていることを報告しなかったんだ?」
「いえ、昨日のグラントエクビス討伐の報告書とワイバーン討伐の報告書に記載されてるはずです」
ベントゥラが、引きつった顔で答えた。
「報告書はほとんど読まないのを知っているはずだ。 まぁいいさ、お前の読み通り【ソメイヨシノ】の強さを知ってやる気が戻ってきた。 そういう事で、今朝の口頭での報告があった、王都への犯罪者共の護送の任務は俺がやるがいいな?」
「いえ、しかしそれでは冒険者ギルドが回らなくなります」
「そこは何とかなるだろう? 今までも俺は何もしてなかったんだからな」
「あの~、話についていけなくなったんでとりあえず移動しませんか?」
俺が手を上げ手言う。
訓練所の片付けをすると、ギルドにある応接間のようなところに移動する。
ギルドマスターの計らいで、冒険者達の借金はギルドが肩代わりして冒険者ギルドの奴隷冒険者となった。
なんでも、雑用系の依頼が物凄く溜まっていて消費させるために欲しかったようだ。
その後は領主に売り、小麦等の刈り取り等をさせていき、借金が返し終わったら開放されるとの事だった。
少なくても50年ほどはかかるらしいので何とも言えないが、冒険者達もこの街から出たくないと言っていたのでちょうど良いだろう。
魔物の間引き等の冒険者としての仕事もするようなので、上手く行けば早めに開放される可能性もないわけじゃないようだし・・・