第183話 賭け事
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「カナタ様、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」
サブギルドマスターが、頭を下げ言う。
「ええ、ここで待ってます。 皆も良いですか?」
周りで見ている皆を見るが、特に異論はないようだ。
それを見ていたサブギルドマスターが、入ってきた若い冒険者達の方に行く。
待ってる間に、皆から質問攻めに合うが・・・出来る限り小声で話すように言い、カウンターから少し離れる。
質問にあったワイバーンやグランドエクビスの討伐の話を小声でしながら、若い冒険者達の話を聞いてみる・・・どうやら駆け込んで来た原因は、俺の様だ。
ワイバーン討伐のときに俺を攻撃して来た冒険者PTは、いつも5人で仕事をしていた。
その時にスラムや身寄りのない子供に荷物運びをやらせていたようで・・・もちろん安いがちゃんと金は払っていたみたい。
そんな事もあり、若い冒険者にちょっと人気があるようだ・・・プライドが高く傲慢だが、面倒見が良いタイプだったのかもな。
しかし、いきなり襲ってきたのだ、正当で止むを得ない理由がない限り罪は償ってもらうしかない。
サブギルドマスターは、ちゃんと話しを聞き何が起こったのかを説明している・・・現場にいた冒険者はサブマスターと一緒に帰っていたので説明してくれたようだ。
説明してくれた冒険者に会うことがあればお礼として何かをあげても良いかもな・・・
若い冒険者達は、嵌めた人は誰だ? ワイバーン討伐に残ったPTメンバーを全員教えろ! 頼むから減刑をしてくれ・・・とか言っていたが、サブギルドマスターは聞く耳を持たず首を横に振る。
結構時間がかかりそうだな・・・そんな事を考えていると、奥からお金の袋を持った職員が現れた。
「カナタ様、ワイバーンとグラントエクビス、オーク等のクエスト報酬と討伐報酬でございます」
職員は、大声でそう言い満面の笑顔で革袋をカウンターの上に置く。
俺は、やられた・・・と思いながら、若い冒険者を見る。
案の定、完全に睨まれている・・・サブギルドマスターは頭を抱えて下を向いている。
若い冒険者達を手で押さえてリーダーと思わしき犬の獣人が話しかけてきた。
「なぁ、あんた。 なぜワイバーン討伐報酬を貰ってるんだ?」
「もちろん、ワイバーンを討伐したからですよ」
「サブギルドマスターは、討伐を断念し後から来た冒険者PTを残して帰ったと言っていた。 状況だけを見ると、あんた達が漆黒の牙を罠に嵌めた様に見えるが?」
「罠に嵌めた事はないですけど、奴隷に落としたのは俺ですよ」
そう言うと、一瞬の間があり怒号を叫んで武器を抜こうとする。
武器を抜こうとするのを見て、サブマスターが若い冒険者の方を見て叫ぶ。
「この場で武器を抜けば犯罪者として警備兵につき出す!」
叫んだ声は大きく他の冒険者達にも聞こえたらしく、面白そうにこちらの様子を窺がっている。
さて、どうしたもんかな? 全員を倒すのはたやすいが、壁や床等を壊す可能性があるしな。
「おい、おまえ。 訓練所に来い! サブマスター、訓練所を使います」
若い冒険者のリーダーが、サブマスターに向けて言う。
「待て、訓練所の使用は構わないが、使用の際は刃を潰した武器を使うこと、申請書に使用目的をかくこと、使用者全員のサインをすること、いいな?」
サブマスターは、若い冒険者と俺を見回して言う。
一瞬止めてくれるのかと思ったがそうじゃないらしい・・・まぁいいけど。
さて、面倒なことになったな・・・若い冒険者を倒しても俺達に利益はないしな。
そうだ! 利益が無いなら作ればいい。
「それなら、お金をかけないかい? 賭け事は禁止されていないはずですよね?」
俺は、若い冒険者達に提案してからサブマスターを見て問いかける。
「はい、賭け事は両者の同意がなされていたら禁止されていません、ですが・・・」
「賭け試合だと? お前ら舐めているのか?」
サブマスターは困った顔をしながら言うが、若い冒険者のリーダーが怒りに震えて言う。
お前らじゃ俺に勝てないと、俺に言われているようなもんだからな・・・過半数は意味が解っていないのか、お金が儲かるのではないかと思って喜んでいるのだが。
「いや、舐めてるとかではなくお金を賭けた方が楽しいでしょ? しかも破格の条件で、俺1人対そっち全員、武器もいつも使っている物を使って良いよ」
「何をふざけたことを! お前は馬鹿にして・・・」
「待てよ、それでいいじゃねぇか。 金をくれるって言ってるようなもんだろ? 俺は賭けに賛成だ」
若い冒険者のリーダーの言葉を遮り、PTメンバーの1人が言うと他の4人も賛同して来た。
うん、あと一押し・・・さてと、金額はいくらにしようかな?
そう思いワイバーン討伐報酬の革袋を開けてみる。
大銀貨が5枚と銀貨7枚他銅貨数枚が入っていた・・・素材を売らないとこんな物か。
マジックボックスから金貨を6枚取り出しカウンターの上に置く。
「俺は金貨6枚をかける。 君達は1人金貨1枚をかけて貰う、もちろんすぐに払えとは言わない。 しかし、負けた場合借金奴隷になって貰うそれでいいかな?」
「ああ、もちろんいいぜ? ただ、約束は守ってもらうぞ?」
先ほどリーダーの言葉を遮った子が、ニヤニヤ笑いながら言う。
「ええ、もちろんですよ。 サブギルドマスターに金貨6枚を渡しておきます。 審判等もお願いしても良いですか?」
「ふぅ・・・同意の上なら仕方がありませんが、ギルドマスターへ報告へ行ってもよろしいですか? もちろん止める様な事はいたしません」
「はい、もちろんいいですよ。 じゃあ、訓練所に移動しましょうか」
訓練所に移動し準備運動していると、ナショウから声をかけられる。
「あの、6対1じゃ危ないんじゃ無いですか? いくら強くても怪我をすると思うんですけど」
「いや、それは無いよ。 あの6人は動きに隙がありすぎるし、服もピタッとしているのを着ているから暗器などを隠してないだろうしね。
もちろん、あの6人が実力を隠している可能性も考慮してあるよ。 でも、心配してくれてありがとう」
「い、いえ、大丈夫です。 信じてますから」
ストレッチをしていると、サブギルドマスターと昨日の虎の獣人が訓練所に来た。
やっぱり昨日の虎の獣人がギルドマスターだったのか・・・
「あ~、賭け試合だったな。 一応殺したら反則負けだ。 後は勝手にやってくれ」
ギルドマスターが俺達の前でそう言うとやる気なさそうにしている。
やる気がないな・・・最初会った時は、魔物の処理や防衛のために残った職員だと思っていたが違ったのか。
まぁ、俺には関係ないし好きにして貰おう。
サブギルドマスターに金貨を渡し、訓練場の中央へと移動し直径20cm位の穴を作る。
その中に木刀を5本入れておく。
「今見て気づいたかもしれないけど、俺は魔法も使える。 だが、魔法は使わないことを約束するよ。 あと、俺の武器はこれね」
そう言うと、俺は右手に持った木刀見せて言う。
この木刀は、かなり柔らかく本気で振るわれた鉄の剣を受け止めることなど絶対に出来ない。
しかし、かなりの速度で武器を振い鎧を殴れば昏倒させることくらいは出来る。
おかげで子供達との組み手で怪我をさせることが少なくなったが、1度使うと折れて使えない。
若い冒険者は、厚手の服しか着ていないので骨を折るくらいで助かるだろう。
それを見た若い冒険者達は自分の武器を持ち怒りに振るえていた。
バカにされていると思ったのだろう・・・バカにしている気はサラサラないのだが。
「ぶっ殺してやらぁ! オルァ!!」
大声で叫び1人が駆けて来ると、遅れて全員突っ込んでくる。