第176話 ワイバーン討伐への話し合い
ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。
「おい貴様、その手に持ってるのはなんだ?」
狐の獣人の男が剣を抜き、剣先でこちらを指しながら言う。
「こいつですか? こいつはここに案内を頼んだとき、槍と剣で攻撃してきたんですよ。 なので返り討ちにしました」
俺は正直に告げる。
「嘘を言うんじゃねぇぞ。 お前の目的はなんだ? 俺達の仲間をどうする気だ」
狐の獣人の横にいるイタチの獣人の男が言う。
「どうする気もないです。 ただ、見捨てたら魔物に食べられると思い拾って来ただけですよ。 嘘言ってるかどうかは、一緒に来た彼に聞けばいいじゃないですか」
俺は、ここまで案内してくれた冒険者を指差し言う。
「ああ、この人は嘘を言っていない。 こいつが不意打ちをしてこの人に攻撃を仕掛けたんだ。 殺されたって文句は言えないぜ?」
案内してくれた冒険者が俺の意見を肯定してくれた。
「嘘をつくんじゃねぇ! 不意打ちを仕掛けられて無傷でいられるわけ無いじゃねぇか!」
イタチの獣人が前に出て剣を構える。
「別に戦うのはいいけど大声出すとワイバーンが来るのでは?」
「黙れ! ぶっ殺してや・・・」
「静かにしろ。 発言を精査し然るべき措置を行使してやる」
イタチの獣人の言葉にかぶせて、狐の獣人がこちらに言う。
イタチの獣人が止まったって事は、狐の獣人の方が立場が上なのか強さが上なのか、もしくは両方かだろうな。
無傷で捕らえた方が良かったか? いや、魔法がある世界なんだし肋骨の骨折くらい軽傷だろう。
「それで、ワイバーン討伐に加わると言う話でしたが拒否します。 不和を含んだPTなど使い物になりません」
狐の獣人が言う。
「そうですか・・・残念です。 討伐出来なかった場合は、こちらで狩っても良いですか?」
「おい、てめぇ・・・ふざけんじゃねぇぞ! 俺達じゃ力不足とでも言いたいのか! 今ここでブッ殺してやる」
イタチの獣人が、ハルバードを持ちこちらに走ってくる。
それを見た後ろの2人が武器を抜いて、こちらに走ってくる・・・後ろの1人は弓を持ち矢を射ようとしてくる。
「お、おい、そんな事をしてる場合じゃない」
狐の獣人が止めようとしたが、無視されてしまう。
俺は、射られた矢を掴み下に捨て走ってくる奴らを、顎に手を当ててゼロ距離の掌底をお見舞いする・・・もちろん、弓で射て来た奴にも掌底をしておいた。
きっちり顎にくっ付けて掌底を当てたので、脳が揺さぶられ危ない感じに崩れ落ちた。
この技は本来、相手の顎を掴んで2cm位の幅を開けそのまま掌底を打つ技なのだが、危険すぎるのでアレンジした。
このまま死なせても良いのだが、一生奴隷として色んな人のために働いてもらおう・・・そう思い少しだけ回復させておく。
「さて、5人も脱落者が出てしまいましたがワイバーン討伐はやりますか?」
「全部とは言わんが、半分は貴様のせいであろう。 しかし、どうするべきか・・・出直したほうが良いかもしれん」
狐の獣人がため息混じりに言う。
「巣に居るワイバーンの内、何匹倒せれば満足頂けるのでしょうか?」
「何を言いたいんだ? ・・・まぁいい、3匹の素材は欲しい。 だが、PT人数かけた状態だと同時に5匹に囲まれれば瓦解するだろう・・・出直そうと思っている」
「そうですか。 帰るなら、ワイバーンは全部貰って良いですか? 帰らないのなら、3匹はお譲りしますけど」
「だから、何を言っているんだ? 2人でワイバーン2匹を相手にするとでも言うのか? 頭がおかしいと言われても仕方がない行為だぞ?」
「そうですか? たぶんワイバーン程度なら余裕を持って倒せるはずですので、気にしないで頂ければと思います」
「だから何を言っていると言っているんだ! 人の話しを聞く気があるのか?」
「とりあえず証明としてこれをご覧ください」
俺は冒険者ギルドカードを狐の獣人に渡す。
「い・・・1級! 1級冒険者だと!」
「あの、声大きいですけど大丈夫ですか? ワイバーンに気付かれません?」
「失礼しました。 私はここのギルドのサブマスターをしております・・・」
「緊急! 緊急報告! 現在ワイバーンの群れが到着合流し、10匹程度の群れになりました。 軍の要請をした方がいいと思います」
サブマスターの言葉を遮り、斥候のような格好の格好の男が走りながら報告する。
「なんだと! 緊急退避だ。 全員撤収準備を始めろ・・・1級冒険者殿も至急離れて下さい」
「おい、報酬はどうなるんだ?」「今から倒しませんとなるなら、違う事やっておきゃ良かったぜ」
「まじかよ・・・ただ疲れただけじゃねぇか」「命あっての物種か・・・」
冒険者達が文句を言いながら、片付けをする。
「皆には、クエストを受けてもらってすまないと思う。 保障は何らかの形で行うので安心してくれ」
サブギルドマスターが、片付けをしている全員に告げる。
「その保障は全額じゃないっしょ? なら、意味ないね」
鹿の獣人が、呆れたようにサブマスターに言う。
「命が大切なのは解っているはずだろう? それとも1PTで戦ってみるか?」
「そんな事言ってないっしょ・・・従いますよ」
「うむ、それならいい。 1級冒険者殿もお早く」
「いえ、皆さんが帰るって事は、全部貰っちゃって良いってことですよね? 報告は、後で冒険者ギルドに寄ったときにしますのでお願いしますね」
「なんでそんなに落ち着いていらっしゃるのでしょうか? まさか・・・ワイバーンが10匹居ることをご存知だったのでしょうか?」
「ええ、飛んでくるのは解っていました。 しかし、合流するって所までは解っていませんでしたよ」
「言っていただければ・・・いえ、今言っても仕方のない事ですね。 しかし、その言い方ですと2人で10匹のワイバーンを討伐するように聞こえるのですが」
「もちろん、そうですよ。 3匹だけお渡ししましょうか?」
「あり難い申し出なんですけど、安全を考えると止めておきたいと思います」
サブマスターが、こちらに頭を下げる。
「サブマス! 美味しい誘いだと思うんっすけど、駄目なんっすか?」
鹿の獣人や他の冒険者達はやる気になっている様だ。
「ああ、ただのワイバーンじゃない可能性も否定は出来ない限り許可は出来ない・・・と言っても、冒険者は基本自由なので自己判断でいい。 しかし、我等ギルド職員は手伝えないと思ってくれ」
「おっしゃ、1級さん3匹譲って貰って良いか? 俺達の複合PTは全員無事だしな」
「それは構いませんが、魔法使いがいないように見えるんですが大丈夫ですか? 空飛ばれたら何も出来なくなるんじゃないですか?」
「あ・・・サブマスター、魔道具を貸してもらいないか? 料金も払うし紛失保障も払う」
「それは出来ない。 今直ぐに金を渡してもらえれば貸し出してもいいが」
「なぁ、後払いで頼むよ。 ドワーフの所までグランドワイバーンを捜しにいかなくて済むチャンスなんだ。 この通りだ」
鹿の獣人が土下座をする。
「とにかく駄目だ。 この乱気流の石は余りこの領内へ入ってこない貴重品だ。 おいそれと渡せない」
サブマスターがポケットの中から直径2cm位の石を手のひらに置きながら言う。
「乱気流の石って何ですか? ちょっと見せてもらっても良いでしょうか?」
乱気流の石は、綺麗な石に銀で魔法陣が刻まれているような物で魔力を感じることから魔石も粉にして銀に混ぜているのではないかと推測される・・・研究の為、後で1個売ってもらおう。
結局、冒険者達は1匹だけ譲ってくれと言ってきたので了承し、ワイバーン討伐をすることになった。
作戦的には俺が近づき首を落としていく、ミズキさんは飛ばれないように魔法をかけてもらう。
同時に冒険者達には1番端っこの1匹を倒してもらう・・・この1匹は俺達が絶対に手を出さず、魔法でたたき落としたりしない。
作戦と呼べるような物ではないが、1匹だけ残すのは無理だと判断し同時に攻撃してもらうことにした。
10匹の内1匹だけでもレアとか上位種がいたらいいな~と思いながら森を進む。