第170話 ビアス子爵と会談
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「相談なんですが、これをもう少し譲っていただきたいんです」
ビアス子爵は、壷をテーブルの上に置き蓋を取る・・・中には液体が入っている。
壷を渡されると、ほんのり臭いのが漂ってくる。
「これは肥料ですか?」
「その通りです。やはり、ご覧になるのは初めてですか?」
「え? やはり、ですか?」
「すみません、師匠よりカナタ殿は忙しく畑仕事は余りやらない・・・とお聞きしていたので」
「なるほど、そういう事だったんですか」
「話しを戻しますが、餞別として師匠から一樽頂いたのですが、こんなに素晴らしい物を使わない手はないです。 この肥料を使えば2週間ほどで小麦が収穫出来るんですから・・・もちろんタダでとは言いませんよ。 この肥料を使ったときの収穫量の25%・・・いえ、30%をお渡しします。いかがでしょうか?」
かなりいい取引だとは思うんだけど・・・なんでタダシさんは1回分しか渡さなかったんだろう?
畑に関しては全部まかせっきりで関わってなかったのが痛いな。
肥料について何か重要な事を言われた気がしたが、話し半分で聞いてたから覚えていない。
「肥料についてタダシさんから何か注意されていませんか? 収穫量が増えるだけと言うなら、1回分しか渡さなかったのはおかしいと思います。 1回分しか渡さなかったというのには、理由があると思うんですよ」
「え? いえ・・・あ! そうです! 収穫が早くなるので収穫時期に気をつけるようにと・・・」
ビアス子爵が、汗をハンカチで拭きしどろもどろになりながら言う。
明らかにおかしい・・・何か注意点があるんだろうな。
「すみません、少し失礼します」
俺はそう言うと通信端末を取り出し、タダシさんにメールする。
「あの、それは何でしょうか? 初めて見る物なんですが・・・」
「これは遠方の仲間と通信する為の魔道具です。 タダシさんに肥料についての注意点について聞いているところです」
「すみません、師匠より注意をされていた事があります・・・栄養が減ると仰っていました。 栄養は体を作る為に必要な物だといわれたのですが、目に見えないので大丈夫だろうと思いまして・・・出来れば言わないで頂くわけにはいきませんでしょうか?」
栄養が減る? 土地の栄養は減らないと言ってたって事は、収穫物の栄養が減るって事か? というか、タダシさん栄養価まで見え始めてるのか? 本当に凄いな・・・
俺は栄養が見えても何がどのくらい必要か解らないから、今までどおりの料理しか作れないけど、タダシさんは栄養のバランスを考えて料理を作ってるのかもな。
そんな事を考えてると、タクミ君からメールが入る・・・内容は肥料についてだった。
メールの仕方を頑張って覚えるって言ってたのに、諦めたな・・・後でまたメールを送って、返してもらおう。
やはり収穫した野菜の栄養が連作する度減っていくらしい・・・最大1回の連作で1割も栄養が無くなるという事だった。
連作後に肥料を使わず収穫した物も栄養が減っているか調査中だと言う。
「タダシさんから連絡が来ました。 やはり栄養が減るというのは看過できませんよ・・・子爵が思っているよりも大変なことです。 この話しは、タダシさんには伝えませんので大丈夫ですよ」
俺は未だに頭を下げている子爵に言う。
「はい、申し訳ありません・・・あと1つ聞きたいのですが、この豆も収穫したのですがどのようにして食べるのですか? 家畜の餌として栽培はされていたのですが・・・」
テーブルの上に大豆がおかれる。
収穫して既に乾燥まで終わってる・・・て事は枝豆として食べる事は出来ないな。
というか、収穫して乾燥まで終わってるって早くない? ファンタジー効果か? まぁいいや。
「大豆ですか・・・炒ってそのまま食べても良いのですが、少し抵抗がありそうですね。 う~んと1番簡単に調理した物は、豆乳と言われる飲み物ですね。 少しなら持ってますので飲んでみますか?」
「よろしいのですか? 秘匿される物なのでは無いのでしょうか?」
「タダシさんは、解っている通り弟子達に技術の全てを教えています。 なので、大豆が大量に手に入れば教えることになると思いますので気にしなくていいと思いますよ。
私が作った豆乳でよろしければ飲んでみて下さい。 栄養があって健康にもいい物ですよ」
「それでは、いただいてみたいと思います」
錫のコップを2つだし、中に豆乳を入れ好きな方を取って貰い、余った方を一気飲みにする。
その様子を笑顔で見ていた子爵は、コップに注がれた豆乳を一気飲みにする。
「なるほど、牛の乳とは違った味でサッパリしておりますな・・・しかし、信用しておりますのでお気遣いは不要です」
「一応念のためですよ。 この豆乳の癖が嫌だという人がいますがいますが大丈夫のようですね」
「ええ、しかし飲むだけなのでしょうか? それだと余り需要がないかと思うのですが・・・」
ビアス子爵は、困ったように言う。
「そうかもしれません。 次にこれを食べてみて下さい。パンとシチューです」
俺は、豆乳シチューと豆乳パンをテーブルに出す。
パンを千切りシチューに付けて食べる。
1口食べると一心不乱に食べ始め、すぐに皿は空っぽになった。
「ふぅ、さすが美味しい・・・シチューには豆乳が使われているって事ですね! この味ならば需要が大きく見込めそうですね」
「実は、パンにも豆乳が使われているんですよ。 どうですか?」
「なんということだ・・・桜食堂のパンよりも美味しいこのパンが豆乳で出来てると仰るのですか。 これならば大量に作ったとしても、すぐに無くなってしまいそうですな!」
すみません、俺が作ったからギフトの効果で美味しくなっただけだと思います・・・とは言わなかった。
「簡単に言いますと豆乳は牛乳の代わりになるんですよ。 牛乳はブラックビーフを討伐しないと手に入りませんが、豆乳は畑で栽培し取る事が可能です。 その価値がお分かりいただけましたか?」
「それは・・・教えていただきましてありがとうございます。 この大豆があれば、この国に新たな名物を作る事も可能ですな! 安定した収穫が出来るようになった際には教えを請いに伺ってもよろしいですか?」
「それはもちろんですよ。 しかし、子爵様本人ではなく料理人を送っていただいた方がいいのではないですか?」
「それもそうですな。 その時はよろしくお願いします」
「はい、畏まりました」
その後、家族にも料理を食べさせたいと言われ晩御飯は俺が作る事になった。
こう言う時に何を作ればいいのやら。
好き嫌いだけでも料理長から聞いておいた方がいいかな・・・いや、折角大豆があるんだからそれを使った料理を出すのはどうだろう?
この街の名物料理になるかも知れない大豆料理の味を、先に知っておくのが良いのかも知れない。
よし、方針は決まった・・・が、レシピが解らない。
タダシさんにレシピ送ってくれるようにメールしておこう・・・あと厨房の素材も見ておかないと。
厨房でストックされている野菜等を見ていると、メールが届く・・・どれを作るのかメールくれ、と書いてある。
下の料理名を見ると、大変な数の名前が・・・手間がかからなそうな物を選ぼう。
選んで送った物は・・・子供に人気があるであろうオカラハンバーグをメインに、豆乳パン、豆乳ジャガイモポタージュ、味噌マヨドレッシングでサラダも作るか。
とりあえず豆乳パンはあるし、豆乳とオカラも持ってる。
なら、珍しい果物や野菜がないか確認しないと・・・1番偉い風な執事さんに買い物行くことを告げ外に出ようとする・・・と止められた。
帰って来た時にスムーズに出入りが出来るようにと、羊皮紙を2枚くれた。
羊皮紙の内容は、子爵直筆のサインと家紋のような印が押してあり、俺の名前が下に書いてあった。
もう1枚も同じ内容で、ミズキさんの名前が入っていた。
宿屋に泊まる盗賊に捕らえられてたナショウ達5人の事が気になるが、泊まるしかないだろうな・・・
流石に5人を連れて泊めては貰えないだろうし。
それを伝えるのも込みで、すぐにでも出発しないと・・・