第144話 同じ穴の狢
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その後、大盛況だったパーティが終わり俺は陛下と応接室のようなところで話す事になった。
お酒と簡単な乾き物をマジックバッグから出し、カクテルを作る。
お酒と言っても、スクリュードライバー(ウォッカ+オレンジジュース)とビッグアップル(ウォッカ+リンゴジュース)の2つだけ。
陛下はデザートが結構気に入っていたようなので甘いお酒にしてみたが、好評だった。
「酒まで用意してもらって済まんな・・・しかし、甘い酒というのは美味いもんだな」
陛下はスクリュードライバーを飲むとホッとした様に言う。
「ええ、今回のは酒精の弱い物にしていますが、飲みすぎには注意して下さいね」
「ああ、解っておる。 そなた達は、魔法の腕も一流だと聞いている・・・暑い日に氷も作れるのは何ともうらやましい限りだ」
「そうですね、まだ昼間は暑いですもんね。 夜は少しずつ寒くなってきましたが」
「ああ、冬の間は兵達の訓練等が滞り無く出来そうだ。 感謝しておる」
「いえいえ、ユカさんが好きでやったことでしょうし、回復魔法の練習にもなりましたから」
「そうか、ならば時間がある時に頼むと言っておいてくれ」
「はい、解りました」
「カナタよ、この国のスライムパウダーが誰かによって買い占めされたというのは知っているか?」
「そうなんですか? しかし珍しい方もいた物ですね。 私の聞いた話では、他国のスライムパウダーを行商人に買い集めるように言った国王もいると聞いていますよ?」
「がっはっはっは、我等は同じ穴の狢と言うわけか!」
「あっはっはっは、その様ですね、全く同じ事を考えているとは思いませんでしたが」
俺は、ペニシリンの製造法を陛下に売った後、アカネさんに頼んでスライムパウダーを全部購入してもらうように言っておいた。
次の日には錬金屋の伝手で、大量のスライムパウダーを手に入れることが出来た・・・お金云々もあるが、もし死病に誰かかかったときスライムパウダーが売って無かったら困ると言う思いからだ。
それを知った陛下が、他国から行商人を使いスライムパウダーを買い占め持って来る様に言ったのだろう。
お金の為にもう少しスライムパウダーを買おうと思い行商人と話したときには、もう手遅れだったのだが・・・
「褒美の金を受け取ればよかったんじゃないのか? 今からでも遅く無いぞ?」
「金なら自分でも何とか稼げます。 ですが、子供達の未来までは私一人の力で何とかなるとは思えませんでしたので」
「しかし、農奴の子供だろう? そこまでしてやる義理もないのではないか?」
「確かにその通りです。 ですが、大人になる時間まででも夢を追いかけられるようにしてあげたいのですよ。 私は、お金が無く自分の行きたい先まで行けなかったので」
そう、俺はお金が無くて大学に行かなかった・・・働きながらとか奨学金とかもあっただろうけど、奨学金で苦しむ内容のTVを見てから勇気が出なかった。
いや、絶対にそこに行きたいと言う意思も無く、ただ就職を先延ばしにしたい、働きたくないと思っただけなのではないか・・・
そんな風に感じて、資格のとれる専門へ進んだ・・・それはそれで良かったと今では思っている。
ただ仕事を止めざるを得なくなり、もう1度就職活動した時に大学に行っておけば良かったとひたすら後悔したが・・・
「なるほどな、自分の歩めなかった道を子供達に託すか・・・しかし、上手くいくか解らんぞ?」
「いいんですよ。 失敗の無い人生は、人生そのものを失敗する・・・そう思っていますから」
「うむ、失敗を教訓に出来るように導かなければならんな・・・子供に教える教本とやらを楽しみにしておるぞ」
「はい、ありがとうございます」
その後2人で、色々な話をして楽しく過ごした。
この世界に来て1番嫌な事は酔うまでに物凄いお酒が必要だと言う事・・・元からお酒に強かった訳だから肉体が強化されたらお酒に強くなるのも仕方ないのかもしれないが。
そんな事を考えながら1人でプラプラとしながら帰る・・・折角だし、花街の方へも歩いてみるか。
少し遠回りだが、視察ってことで・・・
花街の酒場のような店と見るからに汚い宿屋は明かりが燈っている
奥の方では女の人達が路上に立って客引きをしているようだ・・・女の人は、シャツだけだったり外套を着ていたり様々だ。
俺はフラフラと奥の方へと歩いていく。
服が綺麗だからなのであろう、色んな女の人が代わる代わる声をかけてくるのだが・・・何となく惹かれる人がいない、お酒飲んでるからストライクゾーンが広くなってるはずなのに・・・
そうして花街の勧誘道? を抜けてしまい、興が冷めたので帰って1人で・・・そう思ったときに声をかけられる。
「あ、あの! そこの貴族様! 私を買って下さい」
振り返るとそこにいたのは茶色の髪の犬の耳? 女の子がいた・・・年齢的には中学生か小学生くらいだろうか。
「先に質問。 身売りなの? ここがどんなところか解ってる?」
「はい、どんなところかも解っています! 初めてですので一晩大銅貨8枚・・・いえ5枚でどうでしょうか?」
「いいよ。 ただし聞きたい事がある、ちゃんと質問に答えてもらえれば、一晩銀貨1枚出すけど・・・どうだい?」
「え? え? え? わ、私、一生懸命頑張ります! 何でも聞いて下さい!」
「うん、じゃあ俺の家に来てもらえる? ここらへんじゃ話しにくい・・・もしくは君の家に行ってもいいかな?」
「駄目です駄目です! ウチは駄目です!」
「じゃあ、俺の家にいこうか。 少し遠いけどいいかな?」
「え? は・・・はい! お願いします」
歩きながら少し質問する・・・まず名前はユリ、年齢は12歳になったばかり、種族はドール(アカオオカミ)だそうだ。
話しているとき、お腹がぐぅぅぅと大きな音でなったのでサンドイッチを渡す。
パーティのときの残りを少し貰っておいて良かったと思った。
だが、一向に食べようとしないので何故かと聞いたら母に食べさせたいと告げられ、皿に乗ったままのサンドイッチを皿ごと見せ、後であげるから食べていいよと言うと、ようやく食べ始めた。
屋敷の前に着き、ここだと言うと驚きで振るえ始め、土下座しユリは言う。
「王族の方だったとは知らずに失礼をいたしました。 出来れば家族には責が及ばぬようにお願いいたします」
「立って立って、俺は王族じゃないから大丈夫。 でも、何で王族と間違えたの?」
「え? え? そうなんですか? 良かったです・・・あ、えっと、このお屋敷は、ウェーブの時に大将軍様や将軍様が過ごされた場所ですので」
ユリは、立ち上がりながら言う。
なるほど、と返事をして無理やり引っ張って一緒に中に入る・・・するとメイド・執事が全員玄関でお出迎えしてくれた・・・いつから待ってたんだ? 早く帰ってくれば良かったかな?
「カナタ様お帰りなさいませ、陛下との会談お疲れ様でございます」
セードルフが代表して言う。
「うん、ただいま。 ずっと待っててくれたんだ。 ごめん、真っ直ぐ帰れば良かったね」
「いえ、我等が好きでしたことにございます・・・こちらのお客様は、どちら様でございますか?」
「酔い覚ましに歩いてたら、声かけてくれてね。 ちょっと聞きたい事あったから付いて来てもらったんだ」
「なるほど、でしたらお風呂にお連れすればよろしいですか?」
セードルフが、微笑みながら頷き言う。
「そうだね。俺も着替えたいから、お風呂から上がったらダイニングに連れてきて」
俺は、セードルフの考えを遮るようにダイニングを指定する。
「私室ではなくて、ダイニングですね。畏まりました」
セードルフは非常に残念そうにうな垂れながら言う。
ユリは何が何だか解らない様子でミランダに連れて行かれた。
流石に10代の子に手を出そうとは思わないよ・・・そういえば、奴隷の子って明日家に来るんだっけ? まぁ、ヨシさんアヤコさんに任せておけば大丈夫だろう。