第142話 褒美の行方
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「まず、ファウストよ、そなたに男爵の地位を与える。 本日よりファウスト・エルバと名乗るがよい」
陛下が、跪くファウストさんに言う。
「はっ! ありがたき幸せ」
ファウストさんは頭を下げながら言う。
「そなたにも土地を渡したいが・・・すぐに渡しても難しかろう、オルトウス・ザルツサーレを教師としてつける故、多くを学ぶことを期待する」
「はっ! 勿体無きお言葉、必ずやご期待にこたえましょう!」
陛下は、くるりとこちらを向き頷く。
「さて、ソメイヨシノの他のメンバーから聞いているが、リーダーであるカナタに1度報酬を全て渡し分配したいと言うことであったが相違ないか?」
ん? そう言うことになってるの? でも、お金や魔道具や素材なら俺が1度貰っても分配は出来るんだしそれでいいかな?
チラッと皆を見るが、半数以上の人は意味が解っていないような表情だったが、頷いている。
「はい、その様に聞いています」
俺は、そう言い頭を下げる。
「そうか・・・では、そなた達にも爵位と土地を与えようと思う! 土地は、逃げた者達の土地全てを授ける!」
おいおい・・・まじかよ・・・断ってもいいのか? あぁ・・・どうする!?
あ! そう言えば、勇者になるのを、勇者になりたいと思っている者を妨げてはならないって言って無かったっけ? 大丈夫だよね?
「お断りします」
俺がそう言うと、周りが大きくざわつき、陛下は少し残念そうな顔をする。
「理由を聞かせてもらえぬか?」
「私たちは、勇者を目指しております。 ですので今の所1国に留まろうとは思っていません」
「なるほどな・・・しかし、勇者になると言うのは魔物との戦いの連続であろう? 危険があるのではないか? この国におれば、自分のしたい事も出来よう・・・何故勇者に拘る?」
「危険は承知の上です。 我々は1度故郷に帰り親、兄弟、姉妹、友人に会いたい、無事を知らせたいと思うからです。 我々の故郷は、現在どこにあるのかすら解らず、探し出すには神の力に頼る以外に道は無いと思いますので」
「1度・・・か?」
「はい、1度です。 私は全部終わればここに戻り、報告しようと思っておりますので」
ちらりと皆を見るが、何となく察していたのだろう苦笑しただけだった。
「そうか、ならばその時にまた誘うとしよう」
陛下は、一安心したような表情で微笑み言う。
「ありがとうございます、陛下」
もしかしてだけど、陛下は俺達に残って欲しくて言ったのかも知れないな。
王とは孤独な者・・・誰が傍にいても孤独感や謀略に警戒しなければならない。
対等に話せる者は、そうそう居ない・・・友人なんて皆無と言っていいかもしれない。
そういえば、ヨシさんが陛下のつまみ食いを怒ったって聞いたときは驚いた・・・陛下が素直に謝ったらしいが・・・おっと話が逸れた。
もしかしたら、陛下は俺達のことを友人だと思ってくれているのかもしれないな・・・そうだったら嬉しいが。
「では、冒険の邪魔にならぬ金を渡そう・・・しかし一気に支払う事は出来ぬゆえ、冒険者ギルドを通じて毎月渡そうと思うがよいか?」
「お待ち下さい陛下、その金額を我々に渡すより現在計画中の学校に使用していただけ無いでしょうか?」
「何? 金も要らぬと申すか」
「いえ、子供の教育に回して頂きたいのです。 無償で学校に通わせれば様々な人材が育ちます。 知識を育てれば魔力を使わないポンプのような物が出来上がるかもしれませんし、体を鍛えれば魔物からの脅威が減るかも知れません」
「そうだな・・・しかし、それではお主らに1レティアも入らないのではないか?」
「いえ、陛下はこのあとの立食会の食事をご存知のはず・・・あの料理を食べれば、他の食堂にはいかないと思います。 その食堂を現在建設中です」
「そうだな、かのような料理がある等私も知り得なかった。 ひとたび食べれば虜になろう・・・うむ、そう言うことならば学校の運営等は私が責任を持とう」
「ありがとうございます。 教える物等についてあとでまとめて提出させていただきます」
「うむ、頼んだ。 しかし、何も無しと言うのも寂しかろう。 少しばかりであるがあとで与える故、フランと共に宝物庫にいくがよい」
「ありがとうございます、陛下」
「これにて、表彰を終わりとする」
陛下がそう宣言する。
すると、大きな拍手が鳴り出入り口の扉が大きく開く・・・出入り口に向けて各国の姫達は優雅を装い、出来るだけ早く外に向かう。
たぶん、自国に知らせの馬を走らせるのだろう。
そう思っていると、陛下から声が掛かる。
「すまんなカナタ、約束を果たせず開発者にしてしまった」
「いえ、大きな功績があった方が守りやすいとお考えだったのでしょう? 仕方の無いことだと思います」
「それもあるのだが、ファウストから褒美として共同開発にしていただきたい、出来ないのなら引退させていただくと手紙で陳情されてな・・・なので、裏リーダーとやらも使えんかった」
なるほど、だから男爵だったのか・・・薬の開発だけでも、公爵とかに祭り上げることになるはずだもんな。
「仕方の無いことですよ。 でも、ブラッディルビーワイバーンのことも言われるかとヒヤヒヤしました」
「ここまで来たら言うかと思ったんだが、楽しみを先に伸ばすのも一興であろう?」
陛下は、笑いながら出入り口に向かっていった。
やれやれ・・・また振り回されるのかな? そう思いながら、全員が出入り口へ向かう。
その後、休憩室で休むことになったのだが、俺とタダシさん、ヨシさん、リョウタロウさんは、厨房に向かい手伝いをすることに・・・
厨房では誰も彼も必死に鍋やフライパンを振ったり、パンを成型し窯に入れたりと忙しそうに動いている・・・だが、タダシさんヨシさんが料理するときに動くスピードに比べると、素人に毛が生えたような物に位に見えてしまう。
「師匠、奥方様、味見をお願いします。 昨日の物よりもスパイスを効かせて見たのですが」
料理長が、今回出すお肉にかけるソースの1つを持ってきた。
タダシさん、ヨシさんはスプーンで少しとり舐める。
「これなら出して構わないぞ。 他のソースと一緒に並べてくれ」
タダシさんがヨシさんを見て頷き、ヨシさんもタダシさんに微笑むと料理長に言う。
「よっしゃぁぁぁ! ありがとうございます」
料理長が、本気のガッツポーズをして嬉しそうに去っていく。
「カナタは、串揚げを頼めるか? 揚げていない物がまだあるんだが」
「了解です。 揚げ物の魔道具はどこに置けば良いですか?」
「そこのテーブルの後ろ側を使ってくれ、儂は歩いて皆の作業を監督する。 ヨシはデザートを頼む」
「「はい(あなた)」」
リョウタロウさんが、串揚げの衣までを付けた物を物凄いでかいトレーに置いていく・・・驚くほど山盛りの揚げる前の串揚げ・・・
一応タダシさんに習ったように、140℃ほどの油で1度揚げ、次に180℃の油で揚げる・・・だが、時間大丈夫なのかな?
そんな事を考えながら揚げていくと、1度揚げが終わったときに呼ばれてしまった・・・
「ただしさん、1度揚げまでしか終わってないんですけど、大丈夫ですか?」
タダシさんに声をかけると「大丈夫だ」と返ってきた。
詳しく聞くと現在調理中の物は、大半が兵士や料理人達やこの国に従者として来た人にお土産として配られたり、もしもパーティの食事が足らなくなってしまったときの予備・・・お替り要因だということだった。
なんでも陛下から、食べたときに足らなくなる可能性があるからもっと作れと緊急勅令が下ったらしい・・・こんなことで緊急って・・・
褒美や表彰(叙勲)は、陛下とカナタの口上戦にしようかと思っていたのですが、かなり長くなってしまいそうだったので穏便な話し合いにしてみました。