第141話 表彰式
ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。
馬車に揺られ王城へ向かう・・・なぜか農奴の人達が左右に分かれ拍手や声援を俺達に送る。
慕われている感じがして何となく嬉しい、皆左右に手を振っていた。
一般街に入ると声援がやむと思ったが、大きな声援で出迎えられた・・・と言ってもほとんど聖女ユカさんの声援なのだが・・・
未だに大きな怪我等をした人が来たときにユカさんを呼ばれることが多いらしい。
死んでしまった人を生き返らせてくださいと言う輩は居ないらしい・・・というか、受付で弾かれてるのかも知れないが・・・
さすがに貴族街では・・・と思ったが、ユカさんの人気はここでも凄い物だった。
これは、握手会とか開いてお金が稼げるのではないだろうか・・・もしくはポーションの容器にユカさんの印を入れたら儲かりそうな気がする。
まぁお金が現在余ってるからそんな事はしないけど・・・お金が余るって日本にいる時に言ってみたかったなぁ。
王城へたどり着く、異世界ファンタジーでお馴染みだが馬車の乗り心地は最悪だった。
主人公達がこぞって乗り心地の改善をしようとした意味が本当に良く解る・・・椅子は硬いし振動は凄い。
これだけの振動なら、スプリングにオイルショックアブソーバーがいいだろう・・・だが、オイルは何がいいのだろう?
食用油で試してもいいだろうが、摩擦による熱劣化や温度変化等によるオイルの粘度変化等様々な不具合が生じるだろう。
日本にいたときのように売ってる物を買って付けて終わりって訳にはいかないのだから・・・
そんな事を考えてると、アヤコさん達が用事があるといい部屋を出て行った。
たぶんだが、王妃様の着付けやヘアセットなんかをしてあげるのではないだろうか?
用事が済んだのか、全員戻ると本番の表彰式が始まる。
謁見の間の門の前に立ち、待っていると・・・
「クラン・ソメイヨシノの皆様のご入場です!」
という声が中から聞こえ扉が大きく開く・・・
いつもはただ広い空間の奥に玉座があるだけなのだが、真ん中に赤いカーペットがありその左右に兵士が並び、その後ろにも人が整列している・・・見事に全員が獣人だ、人族やエルフ・ドワーフはいないのか・・・
玉座には陛下が座りその隣には大将軍立っている、その隣の椅子には誰も座っておらずその脇にはボルディン殿下が立っている。
兵士の後ろを見ると、左側にはオルトウス様を始め厳つい人達、右側はほとんど全員が女性と言うか女の子だ。
中には5歳くらいに見える女の子もいる・・・その女の子も真っ直ぐに立ち静かに待っている。
農奴の子供達はワキャワキャと動き回ってるからギャップが凄い・・・しかし、無理して立ってるように見えるから強制はしたくない。
そして、入った瞬間から、あの服は何? どこの物なの? とか 綺麗・・・この国の物ならどこかで売ってるはず探しなさい など様々な驚きの声が聞こえてきている。
当たり前だろう、姫達の服は簡単なワンピースで色が付いているだけ・・・いや、均一に色がついているわけではないのでなんとも言えない。
その中を進み、陛下の前にある階段の下に進み一礼する・・・すると、もう1度ザワザワし始める。
当たり前だ、普通はここで跪くはずなのに礼をするのにとどまったからだろう。
「クラン・ソメイヨシノよ、よく来た! 私も嬉しく思う」
そう言って、無理やり話しを陛下が進める。
「ありがとうございます。 ティンバー・ウルフローナ陛下、私もお会い出来た事を光栄に思います」
俺も話に乗り、また礼をする。
その頃にはざわつきも収まり、どうなるのか固唾を飲んで見ている雰囲気が伝わってくる。
「クランのリーダーカナタよ、階段を上がりここへ来い、近くで話をしようではないか!」
陛下はニヤニヤしながら、俺を呼ぶ。
陛下は心から楽しんでやがるな・・・階段の上に上がらせるという事は、同じ立場だと他国に忠告するためなんだろうが、かなり露骨だな。
そう思いながら、数段の階段を上がると、いきなり握手して来た・・・少し驚いた顔をすると、陛下はものすっごい楽しそうな顔をし、その脇に立つ大将軍は、顔を逸らし肩を揺らしている・・・笑ってやがる!
「そなた達の功績に私は感謝をしている。 まずは、礼を言わせてくれ、ありがとう!」
いきなり陛下が頭を下げたことに、また会場がざわつく・・・大将軍なんて吹き出しやがった。
「感謝の言葉は身に余る光栄です」
俺は一礼すると、握手の手が離れる
「この者達がなしたことを私の口から伝えよう。 いや、その前に見てもらった方が早いだろう。 扉を開けよ!」
扉が開くと、ファウストさんが前輪が2輪の手押し車を押して登場する・・・ここでファウストさんが登場するってどういうこと? いやな予感しかしない・・・
手押し車の上には布がかぶさっているが、何らかの物が乗っているのだろう。
ファウストさんの後ろからフランソワーズ様と王妃様達、王子様や姫様と思われる子供達が登場する。
思い思いにポーズをとりながら進む姿は、まるでファッションショーのようだった。
王妃様達と姫様の衣装は綺麗に何色も色が付いていて、悪く言えば派手、良く言えば花がある・・・こういう社交場ではいい意味で目立つ。
王子達の衣装は、スーツでネクタイを付けている・・・七五三を思い起こす感じだ。
周りの人達は急なことでザワザワと騒いでいる。
そこで、陛下が手を上げる・・・するとファウストさんが手押し車の布を取り片膝をその場でついた。
王妃様達もスカートのすそを持ち頭を下げ動きを止める。
「さて、この者達が作った物を見せながら説明しよう・・・まず第一にポンプ」
陛下がそう言うと、カーペットの脇に居た騎士2人が剣をしまい手押し車に近づき、ポンプを上に持ち上げる。
「この国に来て水を使用するときに使ってもらったと思う。 魔道具ではなく力で水が汲める道具だ・・・既に数国売って欲しいと相談を受けているが、その開発者がソメイヨシノのリーダーであるカナタだ」
そう言うと陛下は俺の肩に手を置く・・・どうしていいのか解らずその場で頭を下げる。
その後も、1つ1つ開発した物や行った事柄等を説明しながら言う。
ポンプ、鼈甲、新しい料理(ジャガイモの無毒化)、兵士の怪我の治療、新たな防具の作成、魔力バッテリーの作成、服の作成(下着含む)、街の知識、ワイバーンの討伐、塩の迷宮の調査および攻略・・・言われて見るとかなり多くの事柄をしていたことに気がつく。
「そして、死病の特効薬となる物を、ファウストとカナタの2人が共同で開発することに成功した! 死病はもはや死病ではない! 治る病ぞ!」
陛下がそう叫ぶと、割れんばかりの大歓声と熱気に包まれた。
おいおいおい! 俺が開発して無いって言うことにするって言ってなかったっけ? うわぁ・・・どうすんのさ。
ちゃんと、製造法は国に売って管理しているとか何とか言って欲しいんですけども・・・
「ただ死病の特効薬は数に限りがある・・・しかし、光茸より早く作る事が可能だ。 なので各国へ販売することをここに宣言する!」
陛下がそう言うと、各国の姫の後ろに控えている騎士達も叫んでいる。
「製造法を販売する事は出来ぬが、出来る限りの量を作る事を約束しよう。 しかし、ソメイヨシノのメンバーを含め関係者達に不届きを働いた者ならびに、その者が国と繋がっていた際には販売そのものを禁止する! 国に戻った際にしかと伝えよ!」
陛下はそう言うと、俺に向き直りにやりと笑った。
ここからが本番だとでも言いたげな表情だな・・・いや、ここからが俺にとって本番なのは間違えないか。
まさかの裏切りでペニシリンの製造法を開発した者にされてしまったが、これ以上変なことにならないようにしなければ・・・