第124話 晩御飯
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壇上から降りると、セードルフが涙を流して恭しく礼をする。
セードルフが、涙ながらに何かを喋っているが意味が解らない。
どうしようかと困っていると、ミランダが通訳してくれた・・・流石夫婦!
「夫は、素晴らしき主に出会えたことを神に感謝すると共に、我々のような身分の物にも分け隔てなく心を砕いていただけていることに、深い感謝と絶対の忠誠を捧げます・・・と言っております」
「えっと、ありがとう。 セードルフやミランダ、集まってくれた人達にも期待してるから、よろしくね」
「はい! ご期待にこたえられるよう努力してまいります」
ミランダがそう言うと、セードルフ、ミランダに続き、執事、メイド組みも片膝をつき頭を下げる。
「さぁ! 挨拶も終わったことだ! 飯にするために、テーブルと椅子を作っちまうぞ!」
そう言われ、椅子とテーブルの足を土魔法で作り、木の板を上に置いただけの簡易食卓が出来上がる。
食卓が出来上がると、農奴のお母さん達に木の板を拭いて貰い。
俺達は、全員の手を洗うときの水を出したりしていた・・・あれ? 俺達の席がないんですけど?
「タダシさん、俺達のテーブルは作らないんですか?」
「俺達は、屋敷の中で食べるぞ。 ヨシが言ってたんだが、俺達が居ると恐縮してしまっているらしくてな。 いない方が食事が捗るだろうってことになったんだ」
「でも、外の皆の料理はどうするんですか?」
「それは問題ない、料理を教えてた子供達と母親に任せるつもりだ。 まぁ・・・今日のはポテトもコロッケも冷凍してあるもんを揚げ直して出すだけだし失敗しねぇだろ」
「了解です。 なんかあった時の為の護衛はどうしますか?」
「セラン達が何とかするさ。 なんたってあいつ等1対1で8級冒険者に勝ちやがったからな。 それと、ナリッシュ達も呼んでんだ。 もう少しで来ると思うぞ」
タダシさんは、面白そうに笑いながら言う。
えっと、どういう経緯で8級冒険者と戦ったのか解らないけど、反応を見るに無茶はしてないだろう。
それにしても、まだ成人(15歳)してもいないのに8級に勝ったのか・・・将来有望だね。
ブッフェスタイルのように料理を入れる大皿の後ろで、料理人志望の人達が調理を始める。
これだと全員分出来るまでかなり時間かかっちゃうんじゃない? どうするんだろう? なんか改善策でもあるのかな?
そんな事を考えてるとリョウタロウさんがバッグからフライドポテトとコロッケとパンを大皿に出し、お母さん達が配り始めた。
もしかして、少し前にキッチンで作ってたやつなのかな? う~ん、解らん。
皆たどたどしいけど頑張ってるな、食堂のような物が出来たら料理人として働くんだし良い練習になるかもね。
でも、コップはテーブルにあるけど何も入ってないよね? 水入れなくて良いのかな?
「お~い、皆こっちに来てくれ」
タダシさんが、俺達をリョウタロウさんの所に呼ぶ。
集まると、リョウタロウさんが錫で出来たデカンタを手渡してくる。
良く見ると、デカンタのデザインが違うようだ。
「この葡萄とつるのデザインのデカンタには、赤ワインがが入っている。 こっちの花のデザインには、りんごジュースが入っている。 今リョウタロウが、配膳台に置いた木の小さい樽にはお代わりを入れてある。 小樽についてるコックの使い方は配膳してくれてる子供達に教えてあるぞ」
タダシさんが、細かく説明してくれる。
なんか色々準備してくれてたみたいだな・・・何も考えてなくてすみません。
「俺達でテーブルを回って飲み物を注いでいくぞ? 最初の1杯だけでも、労いの気持ちは伝わるだろう。 カナタはあそこのテーブルから手前に・・・」
タダシさんが細かく指示をする。
全員が、指示された所に向かい飲み物を注ぎながら軽く会話をして、注ぎ終わると食事を楽しんでもらうように言って次の席へ。
久しぶりのお酒なのか、皆一様に嬉しそうに飲んでいた。
その様子を見ているときに、ナリッシュ君達が来たので後は任せて、屋敷の中へ・・・
俺達もお腹が減りましたよ・・・タダシさん。
「今日は、折角だからワイバーンのステーキでも作ろうと思う。 お土産の岩塩がどれほどの物か食べてみんとな」
タダシさんはそう言うと、嬉しそうに笑う。
「クリア報酬の岩塩ですよね? 俺達も食べてなかったんでものすごく気になるんですよねぇ。 折角だし、第3層でとれた岩塩と食べ比べて見てもいいんじゃないですか?」
「おお! そりゃあいい! ステーキはレア気味に焼くが、半生なのが苦手な者はおるか?」
タダシさんの問いかけに、誰も手を上げない。
「うむ、では腕によりを掛けて作るからまっとれ!」
鉄板で皆の前で焼いたらどうですか? と聞くと備長炭で焼きたいとの返事が返ってきた。
鉄板と備長炭だとどっちがいいのか俺には分からないが、タダシさんがやりたいと言うのだから美味しくなるんだろう。
焼き上がりを待っていると、フランソワーズ様が「ただいま戻った」と駆け込んできた。
いつもより来るのが少し遅いけど仕事が詰まっていると言ってたし、まじめに仕事やってきたんだろうな。
一緒に来たグロスさんも機嫌が良さそうだし、何か言い事があったのかもね。
皆が集まったところで、俺達の迷宮探索話に花が咲き話しながら、ヨシさんが岩塩を削る。
岩塩を削っている所みると、第3層の岩塩は見た事のある岩塩って感じだが、報酬の岩塩は削るとキラキラと輝いて見える・・・効果があるとかではなく物理的に輝いて見える。
ヨシさんが見てくれたが、特に変な所がない岩塩だそうだ。
そうこうしている内に、第1回目のステーキが運ばれてきた。
匂いだけで、涎が出てくるほど美味しそう。
「温かいうちに食べててくれ」
とタダシさんが言ってくれたので、ナイフとフォークで半分に切り半分に第3層で取れた岩塩をかけて食べてみる。
「めちゃくちゃ美味い・・・味が濃くなるって言うのかな? とにかく美味しいね。 ここら辺には出回らない高級岩塩だと言っていただけの事はあるね」
「いや、タダシの腕なんだろう。 塩もいい物だ、肉もいい物だ・・・が焼いただけの物がこんなに美味くなるのは腕としかいえん!」
フランソワーズ様が、マジマジとフォークに刺さった肉を見ながら言う。
そうなんだろうな・・・焼き加減が凄く良いし、肉がナイフを乗せただけで切れて行くような気がする。
日本で貧乏だったからなぁ・・・良い物を食べたことないし比較対象すら俺の中には無いんだけど。
さて、もう1つの岩塩をかけてみよう・・・どんな味なんだろう?
一口食べると、全身の毛が逆立ち鳥肌になり、体が浮く感覚というか、自分の体も溶けて無くなる感覚というかものすごい衝撃に襲われる。
「体全身で美味しいとでも言ってるような感じだね。 なんと言って言いのか解らない・・・言葉が出ないよ」
皆思い思いの感想を述べながら、楽しく食事を終え、麦茶が出され食後の休憩をしていると、言っておかなければならないことを思い出す。
「あ! 皆に言っておくことがあったの忘れてた。 俺達の今後の事」
「うん? 料理屋開くとかそんな事じゃないのか?」
タダシさんが、何を今更と言うような表情で言う。
「そうじゃなくて、恋人のことと言うか恋愛の事ですね・・・まず、気付いてる人もいるかもしれないんで確認です。 伝承では勇者になって帰る、帰れるってことになっていましたよね? でも、もしかしたら、強制的に帰される可能性もあるって考えておいて欲しいんです」
「どういうことだ? 帰れるんだから同じなんじゃねぇのか?」
ショウマ君が手を上げて言う。
「いい? 強制的に帰還されるって事は、恋人や連れ合いになった人を置いて行くってことになるって事なんだよ?」
話を聞いて、うなだれる人がいる・・・この世界なら! そう思う気持ちが俺にもあるのだから・・・