第115話 事情聴取
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「ちょっと待って下さい! 意味がぜんぜん解らないんですが、どういう事なのか説明をお願いします」
「その前に武器を仕舞え」
兵士はそう言うと、槍を突き付けてきた。
大人しくマジックバッグに武器を入れ、両手を上げる。
「現在お前には、魔物を使った殺人未遂の容疑がかかっている! 何か言い分があるのなら詰所の中で聞く!付いて来い!」
どういうことなんだ? 特に思い当たる節がないんだけど、何かやったかな?
特に逃げる必要もなさそうなので、大人しく付いて行く。
すると、詰所の中に見たことのある顔の冒険者が2人並んで立っていた。
なるほど、バスの洞窟で置いて行った盗賊風の男と魔法使い風の男2人が訴えていたのか・・・憂いをなくすために本当に魔物をけしかけたら良かったかも・・・
しかし、冒険者は全て自己責任が原則だと言うのに、やれやれだな・・・
「この2人に見覚えがあるか?」
俺と訴えた2人の横に立っている兵士に聞かれる。
その顔を見ると、何となく見たことのあるような顔だが、どこであったのか全くわからない。
誰だ? 見た事あるんだけどな・・・あぁ、思い出せない・・・
でも、こちらに何の非も無いんだし嘘つく様な事じゃないだろう。
「はい、2人の事を見た事がありますよ」
俺は素直にそう言う。
「やはりそうか! お前達は、グルングロッコに囲まれた時、この2人を囮に使ったと聞いている! 取り押さえろ!」
思い出せない顔の兵士が問答無用でそう叫び、槍の穂先を向けてくる。
「待って! 待ってって! 意味がわからない! 冒険者は自己責任だろう!? しかも、他のPTを囮に使った証拠も無い! 何故捕らわれなきゃ行け無いんだ!?」
俺は壁際に移動し、手を前に出して叫ぶ。
「お前達は10級冒険者なのだろう? ならば、グルングロッコを真正面から倒せるとは思えん!」
何でお前達なんだ? 俺は今1人だぞ? しかも10級って? 俺は9級なんだが・・・いや、それよりも冒険者ランクも知っているって事か? そんな事を知ってるんだ?
「いや、グルングロッコ位なら、俺1人でも100匹いても無傷で倒せる強さだ! 何なら証明する」
「ふん! 出鱈目もそこまでいくと面白いな!」
思い出せない顔の兵士は、そう言いながら、槍で顔を狙って突いてきた。
俺は身体ごと捻り槍を避けると、壁の布に穴が開く。
マジかよ! 本気で攻撃してきてるじゃないか! 俺はともかく、背負っているこの子に当たったらどうする気だ!
しかし、攻撃してくるのは兵士1人だけ、何故か周りの兵士達も混乱し、周りをキョロキョロ見回している。
どういうことなんだ? 何でこの兵士だけ攻撃して来るんだ? こいつ本当に誰だったっけ?
考えながら、背中に負担を掛けないように槍を避け撃ち払い、最後は柄を持ち手刀に見せかけたウィンドカッターで切る。
「おい! 何をぼさっとみている! さっさと、加勢しないか!」
思い出せない顔の兵士は槍を断ち切られ、怒りの声を上げる。
しかし、兵士達は、どうしていいのか分からず、首を傾げ周りの様子をうかがっているようだ。
どっちが悪いのか判断がつかないのだろう、下手すると自分が悪者になる可能性もあるのだから。
思い出せない顔の兵士が舌打ちをして、剣を抜こうとしたその時。
「そこまでだ! お前達は何をしている! お前ら! イザサを取り押さえろ!」
入口の方から先程盗賊の事でお世話になった兵士が、怒号を飛ばす。
兵士達は「はっ」と言い、キビキビした動きでイザサさんを取り押さえる。
ああ! そうだ! イザサさん! イザサさんだったんだ! 鎧が周りの兵士達と同じ物だから全然わからなかったのか。
「落ち着いたようだな・・・では、お前達の言い分を聞こう」
その後、1人ずつ兵士に呼ばれ事情を説明していく。
最後に俺も説明をしたが、頷いて聞いてくれただけだった。
「成る程、この件が終わるまで、イザサを牢に入れておけ!」
助けてくれた兵士は周りの兵士に叫ぶ。
「ふざけるな! 兵長! 私は問題を解決しようとしただけだ! 捕まる道理など無い!」
イザサさんは、文句を叫びながら連れ出されていった。
この人兵長(実際には5人長と言える位置、そこまで権限が無い)だったのか・・・通りで兵士達より偉い感じがするのか。
「さて、魔物を使っての殺人も立派な殺人となるが、証拠が全く無い。 しかも、訴えた2人も冒険者ギルドカードをギルドに提出し報酬を貰ったため、どうなっていたか等の事実も確認出来ない」
兵長は、頭を抱えて唸る。
「本当に無実なんですよ? 実際のあった事も話したので、帰っても良いのですか?」
「いや、どちらかが嘘をついていると言う事になり、どちらかを裁かなければいけなくなってしまった。なので、事実関係が分かるまで拘束する形になってしまう・・・ただ、和解が成立すればいいのだが」
盗賊風の男は少し顔色が悪く、魔導師風の男と小声で何かを相談をしているようだ・・・何を話しているのかは全く聞こえてこない。
「どのようにして事実を確認するんですか? 他の人が見ていたわけじゃないんですし」
俺は、兵長に聞いて見た。
「王都に伝令を出し、嘘を見抜ける魔道具を持ってこさせる予定だ。 まぁ6日もあれば終わるだろう」
「いや、そんなに待てないんですけど・・・何とかならないんですか?」
「う~ん、せめて2人が組んでいた3人のPTが居れば、事実を確認出来るんだが・・・」
「後少ししたら帰ってくると思いますよ? じゃあ、戻ってきたら無罪放免って事ですか?」
「いや、待て、何で3人の行方を知っているんだ? まさかとは思うが、共謀したわけではないよな?」
「いいや、こいつらは共謀したんだ。 何故なら、3人がお礼にグルングロッコのナイフを貰っていた。 普通なら、そんな高価な物はただでやるわけが無い」
魔術師風の男が、呟くように兵士に言う。
「そうだぜ! 俺達を皆で騙してたんだ! グルングロッコの羽根のナイフを、タダでやる連中なんていない! そうだろ!? なぁ!?」
盗賊風の男は、息を吹き返した様に言い放つ。
ナイフか・・・渡しちまったな・・・共謀だと言う事で証言力は無くなるって事か? じゃあ、王都からの魔道具を待つしかないのか?
「さて、先程言っていたが、時間が無いのだろう? 和解したいのなら俺達2人にグルングロッコを3匹ずつ渡せ。 無いと言うなら、それ相応の金でも言いがな」
魔術師風の男は、ニヤリと笑い手を差し出す。
渡しても良いのだが、なんかこのまま渡すのも癪だし、かといって良い手も思いつかない。
「実は、ティンバー・ウルフローナ陛下に呼ばれているんです。 なので、一旦帰していただいてまた戻ってくると言うのはどうでしょうか?」
「となると、5日後の発表パーティと言うのに呼ばれているということかな? 招待状は持っているのかね?」
兵長が、首をかしげて聞いてくる。
「招待状は持ってないんですが、オルトウス様か殿下に聞いて貰えれば分かると思います」
「殿下はもう王都に向けて出発しているはずだろう? こんなギリギリに移動すること等無いと思うぞ? あったとしても、ギリギリだから街に寄らずに直接王都に向かうはずだ。 結局はここに立ち寄ること等無いだろうな」
「そうだ! ギルドマスターにカードを確認してもらえれば、強さの証明になると思うんです! そうすればこの2人を盾にする必要が無いと分かって貰えるはずです。 それでは駄目ですか?」
「ここにあるのは簡易ギルドだから、ギルドマスターはおらん・・・普通の受付では駄目なのか?」
うわぁ・・・完全に八方塞かよ! というより、驚くほど公平なジャッジだな・・・昔のフランスみたいに決闘させて勝った方が正しい! とかそう言う風にしてくれればいいのに!
絶対王制なのに! あぁ、くそ! 何とかならないか!? ん? 封建社会? 王制? もしかして・・・
「あの、これで身分を証明する代わりにはなりませんか?」




