第109話 手合わせの場所を借りる
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オルトウス様の執務室に行き、迷宮での事を出来る限り細かく話すと頭を抱えて唸ってしまった。
「うぅぅむ・・・恐らくだが、新しい魔物なのではないかと思う。 ゴブリンの軍隊など聞いた事も無いのでな」
「そうなんですか。 しかし、ゴブリンキングとかならば可能なのではないですか?」
「可能なのやも知れぬが、ゴブリンキングが作り出す集落の総数は多くて1万ほどだ。しかも、非戦闘員と思しき者もあわせてな」
「なるほど、戦闘員のみで2万もいる事などすでにおかしいと言うことですか」
「その通りだ。 しかし、倒してくれた事に感謝する。もし他の冒険者が入っていた場合、全滅していたであろう」
「こちらも迷宮へ気兼ね無く挑めたのでいい経験になりました。 魔石も一杯手に入りましたし」
「何か褒美を渡したいところだが、なにぶん急な事で何を渡せばいいのかも分からん。 何か欲しい物は無いか?」
欲しい物か・・・マジックボックス、ミスリル、オリハルコン、貴金属類、宝石、土地、魔道具・・・思い付くのは他にもあるけど。
迷宮の攻略に見合うもの・・・そんなにいい物じゃなく簡単に渡してくれるもの・・・何かあるか?
あぁ、そうだ! あった! 絶対的に欲しいものが・・・・
「そうですね~・・・私どもの欲するもの、それは知識および技術です!」
「知識? 技術? とはギフトと言うことか? しかしそれは・・・」
「いえいえ、ギフトではありません。 今後迷宮探索の際に、罠を発見、解除できる技術が欲しいです! 何方かそのような技術を持っている方を紹介いただけませんか?」
「なるほどな、これからも迷宮に潜るのなら必須といえよう。 うむ、1人心当たりがある紹介状を書くゆえ少々待っておれ」
「はい、ありがとうございます」
「しかし、報酬がこれだけとは少々少なすぎる、他には何か無いのか?」
「でしたら、ケイタ君とショウマ君が手合わせをしますので、どこかいい場所はありませんでしょうか?」
「手合わせなら庭で行えばよかろう?」
「普通ならそうなのですが、2人の戦いは建物にまで影響を与えかねないので、何処かいい場所があればいいと思ったまでです」
「それならば、貴族が住んでいた屋敷がある、知っての通り逃げ出した貴族の別邸だ。金品や売れるものは運び出してあり屋敷自体が解体予定となっているので、存分に力を振るえるだろう」
「そうなのですか。 ならばそこを使わせていただきます。 折角なのでカルジャスさん達・・・私どものクランを手伝いにきていただける部隊の人にも来てもらえたりはしませんか?」
「解った。 そちらに向うように指示を出しておこう。」
その後、屋敷にたどり着き2人は向かい合って準備運動をしながら、カルジャスさん達が来るまで少し待つ。
しばらくして、カルジャスさん本人とカルジャスさんの部隊4人、ソテツさん、ヒレザンさんが屋敷に入ってきた。
「カナタ殿! 迷宮攻略本当にありがとうございます。 これで、私共の首の皮が繋がりました」
カルジャスさんと、部隊の人達は一斉に「ありがとうございました」と言い頭を深々と下げる。
「いえいえ、別に良いですよ。 あ! そうだ! 皆さんにお伝えしないといけないことがあります。
えっと、お手伝いとして王都に来てもらうように頼んじゃいましたから」
「もちろん構いません! カナタ殿のおかげでイザサや他の隊長達はただの兵士になり、復興中の村に左遷されたんです。 悔しさのあまり震えている姿を見れただけでも、お手伝いのし甲斐があると言う物です!」
「そうですか~、まぁ組み手を見てって下さいね」
あぁ、そんなのもいたなぁ・・・まぁ、気にするだけ無駄かな? もう会う事も無いだろうし。
冒険者達は、迷宮調査のクエストを継続する事になり、お金も少し多く渡される事になったので不満が出る事は無かったそうだ。
「えっと、ソテツさんとヒレザンさんは、何かあったんですか?」
「皆様がどのくらい強いのか参考にしたいと思いまして、見に参りました」
ヒレザンさんが、小さく礼をしながら言う
「そうなんですか。 折角なんで審判も兼任していただければと思います。 よろしいですか?」
「それは構いません。 ソテツ隊長は、腹痛中でしてあまり喋れないので気にしないでください」
「そ、そうですか。 ルールを簡単に説明しますね・・・簡単に言うと3本勝負で2本とった方が勝ちです。 基本の勝敗の判断は、体か兜に先に当てた方が勝ちになります。
第1試合は、近中距離での戦闘、武器は木か刃をつぶした剣などを使用しする接近戦です。 この戦闘では、魔法の使用と、遠距離に引いたときに負けとなります。
第2試合は、中遠距離での戦闘、投げナイフや弓・魔法(基本の4種類の魔法と、回復魔法+αを使える事はばれていたので最近では気にせず使い始めている)での戦闘です。 この戦闘では、近距離に近づいたときに負けとなります。
第3試合目は、何でもありの総合戦ですね」
「なるほど、色んな戦闘を想定して訓練をしているんですね」
「その通りです。 準備が出来たようなので始めましょうか!」
ケイタ君とショウマ君が向かい合って、構えている
ショウマ君は素手でオーソドックスな構え、ケイタ君は剣をロングソード2本を腰から下げ、ナイフ2本を腰の後ろに括りつけ、わき腹・胸・二の腕など見えるところにナイフや針などを括り付けている。
ケイタ君は、高速移動しながら隙をついていく戦いが得意で、ショウマ君は真っ直ぐな戦闘が得意。
ショウマ君にケイタ君は1度も接近戦では勝てていないからなぁ・・・どんな風に戦うんだろう?
「では、2人とも構えて! 第1戦目! 戦闘開始!」
最初に飛び出したのはショウマ君、一気に距離を詰めて超接近戦に持ち込むのだろう。
2人ともいつも手合わせしているし、どのような攻撃かも分かっているだろう。
しかし、2人ともギフトを使わないのか?
ケイタ君は剣を地面に刺し前に出ると、右足で前蹴りを放つ・・・リーチの長さを生かして先制するつもりのようだ。
ショウマ君は右手で下段払いをして前蹴りをそらせると、少し勢いが落ちたが、左足を踏み込み左手で順突きを放った。
ケイタ君は勢いが落ちたショウマ君の左腕を両手で掴み飛び十字を決めようとしているようだ・・・おお! 飛び十字か、ロマンだな。
ショウマ君は、ニヤリと笑い左腕に向けて右足で膝蹴りをはなつが、ケイタ君も笑い、両手を離すと空中にいるケイタ君が後ろに移動する。 しかも、ナイフなどを数本投げていた。
え!? 移動した!? でも、魔法じゃない! 何が!? よく見ると、地面に刺した剣に糸のようなものが付いている。
何かあったときの緊急回避用に、地面に刺した剣に伸縮自在が付いたカーボンナノチューブを結んでいたのか。
ケイタ君は剣を地面から抜き、ショウマ君に構え指だけで手招きをする。
ショウマ君はニッと笑うと咆哮を上げ、ケイタ君に迫る・・・今までと動きがまるで違う! ギフトを使ったのか!
2人ともギフトを使い剣と拳の乱打戦となる
ショウマ君は打ち込まれる剣を拳や篭手で打ち逸らし、時には回避して反撃している
ケイタ君は、狙いを定められないように動き回避し、剣で受け流したりしている
やはり、ケイタ君の方が押され始める・・・が、ケイタ君の攻撃のタイミングが変わった。
ショウマ君が、殴ってくるタイミングに合わせ、ケイタ君は相打ちを狙い攻撃しているようだ。
痛そうだな~、身体回復のギフトがあるから相打ちなら、ショウマ君の方が先に削られるだろう。
そう考えたときショウマ君が後ろに飛んで距離をとる。
珍しいな、削られる前に倒す! とか考えて戦うと思ったんだけどなぁ
「ケイタ・・・さん、本気で戦える相手に会えるとは思っていなかった。 侮っていた事を悪く思う、すまん」
ショウマ君が、構えたまま喋りかける
「何をいきなり、まだ勝負は付いていませんよ? 負け惜しみですか?」
ケイタ君が、ニヤリと笑い言う
「いいや、嬉しくってな。 今から俺は本気を出すぞ! 覚悟してくれ」
「いつでも来て下さい! 返り討ちにしてあげます」
ショウマ君は、体を真半身(真横)にすると、手を手刀打ち(チョップの手)の様にして構える
ケイタ君は、いつでも反撃出来るような体制をとっている
ショウマ君は地面を蹴り上げ土ぼこりを立てると、ケイタ君に向けて動いた・・・上下の動きや体のブレが横から見てても無い。
ケイタ君は、土ぼこりを剣風で払うと驚愕の表情で、ショウマ君を見る。
ショウマ君の掌底が、ケイタ君のお腹に当たり吹き飛ばされた。
これは予想だが、ケイタ君にはいきなりショウマ君が大きくなったような錯覚を覚えただろう。 足の動きでバレるから砂埃を上げたんじゃないかな? うまい事をするな。
「勝負あり! 勝者ショウマ君!」
第1試合はショウマ君の勝利で終わった。