第82話 来る人
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人が来ている方向に階段を作り、壁に隠れながら外の様子を伺う
「リョウタロウさん、知ってる人か分かりますか?」
「すみません、人は登録していません・・・こんな事ならしておけば良かったです」
そう言いながら、砦の壁の上に頭を出し確認する・・・暗くて全く見えない・・・夜目のギフトがあったらほしいよ全く・・・
どうするか話し合っていると
「あ! 大丈夫です、来ているのはフランソワーズ様とグロスさんですよ」
ケイタ君が間の抜けた声を発してから話す
「え? そうなの? 何かあったのかな?」
「ワイバーンの偵察とかじゃないですか? 街に向かえば脅威ですし」
「こんな夜に? なんか変じゃない?」
「そんなことより、迎えに行ったほうが早いわよ、カナタ君」
ヨシさんが、肩を叩いて話しかけてくる
「いえ、僕が行ってきますよ、待っててください」
そう言うと、ケイタ君は、人一人がギリギリ通れる穴を開け、堀に橋をかけると走って行ってしまった
しばらくすると、フランソワーズ様とグロスさんがやってくる
「みな無事で何よりだ! 心配で抜け出してきたぞ!」
心底安心したようにフランソワーズ様は言う
街が心配で偵察に来たんじゃないんかい! しかも、抜け出してきたって、逆にそっちが大丈夫ですか・・・
「はい、ありがとうございます」
「ワイバーンを食べてると聞いたが・・・タダシよ・・・もう、無いのか?」
心底残念そうな顔でフランソワーズ様は言う
「ああ、解った解った・・・リョウタロウ、もう1度2つのブロックを出してくれ」
簡易キッチンに向かいながら、タダシさんは言う
「うむ、すまんな」
こんな所まで、ご飯をせびりに来たのか? ぶれない姿勢になんだかホッとする・・・なんでなんだろうなぁ・・・
余っている肉では足りないと悟って、ブロックを切り分けていく
まぁ、俺ももう少し食べたいから、ちょうどいいんだけどね
肉が焼け、2人に優先的に配り、一口食べる・・・満面の笑みで「ん~ん~」言いながら背中を叩いてくる
あの・・・結構痛いんですが・・・
おなかいっぱいまで食べた後、小声でポツリと言う衝撃の一言が聞こえてきた
「美味いが・・・これはワイバーンの肉ではないな」
「え? ワイバーンじゃない? どういうことですか? 見た目はワイバーンでしたけど?」
ワイバーンじゃないって事は、ドラゴンとか? いや・・・なんだろう?
「そんなに困惑した顔をせずともよい、そうだな、2人で話そう・・・少々厄介なことになりそうだ」
皆には少し2人で話してくると言い、端っこのほうに行く
「早速だが、このワイバーンだが目の色は何色か覚えているか?」
「え? いえ、全く覚えて無いです」
「そうか・・・見る事は出来ないか?」
「凍り漬けのでしたら、ありますよ」
「うむ、出してみてくれ」
そう言われ、氷に包まれた頭を出す・・・もうそろそろ、リョウタロウさんに仕舞ってもらった方がいいかもしれないな
「なるほどな・・・やはり真紅の瞳か・・・鱗をよく見たいんだが、持っていないか?」
赤い瞳だとなんかあるのか?
「はい、もちろんありますよ、どうぞ」
切ってる最中に飛んでしまった鱗も渡す
「やはり、鱗に龍紋があるのか・・・カナタも見てみろ、この鱗の年輪の様な模様が解るな?」
「はい、それが何かあるんですか?」
「うむ、これは成体の龍にまれに表れる紋なのだ・・・これをもつ龍は魔法が効かず、刃物を弾くと言われている・・・実際はそこまでではないと言うのが解っているがな」
「龍紋ってことは、やはり龍なのですか? このワイバーンは」
「いや、龍ではない、ワイバーンに龍紋が出ているのが確認されているのは、3体だけだ・・・真紅の瞳に龍紋の鱗、間違いなくブラッディルビーワイバーンだ」
「ブラッディルビーワイバーン? レアなんですか?」
「どうだろうな・・・倒されたことが無いので、どのようなワイバーンか解っておらん」
「倒されたことが無い? どういうことですか?」
「今から、少し昔話をしよう・・・」
☆
昔ある王国で、村人が王都まで駆けて来た、その者は、ワイバーンに村が襲われ全てを壊すと山に帰って行った、そう言った
話を聞いた王国は、緊急討伐クエストが発行した
討伐に向かったのは、ワイバーンやレッサードラゴンまで狩ったことのある2級のクラン・・・手錬しか居ないと噂されているほどの所だった
しかも、出立したのは特に精鋭と呼ばれた18人、ワイバーンなど何も無く狩って帰ってくると思っていた
しかし、帰ってきたのは1人・・・瀕死で衛兵に情報を話すとすぐに亡くなった
その者の情報では、3匹のワイバーンは、成体のドラゴンを食べていた所を発見し戦闘になってしまった、ワイバーンには魔法が効かない、空から蹂躙される・・・と伝えられ
他国にも打診をして、英雄を3人、1級冒険者15人揃え、討伐に向かった・・・
しかし、討伐することは出来ず、英雄3人以外が皆死亡し、なんとか遠くに撃退させたと言われている
撃退をした英雄達は、皆故郷の国に帰ってしまった・・・一時の平穏がもたらされた
ある日の夜、ワイバーンがまた王国を襲撃した・・・今度は食べるためではなく殺し壊す為に
朝に行商人が荷物を持って王都に着くと、門が破壊され家や畑がすべて燃やされ、人や動物、動く物はみな殺されていたそうだ
そして、恐る恐る王城に行くと、朝日に照らされ赤黒く真っ赤な瞳をしたワイバーンが3体がいたと言う
後で分かったことだが、王国の民は全員殺されたわけではないが、全員心を病んでおり「赤く光る目が襲ってくる!」といつも怯えていたそうだ
☆
「赤い体と真紅の瞳をみて、ブラッディルビーワイバーンと名づけられたんだ」
ネームドモンスター? まさか、そこまで強いワイバーンだったとは思わなかった・・・でも、魔法が効かない? 噂に尾ひれでも付いたのかな? 龍紋が出ても魔法が効かないわけでも無いだろうし
「解りました・・・面倒なことになりそうですね」
「うむ、特別討伐対象になっていたはずだ、なんとしたら良いか」
「報告しなきゃ駄目ってことですよね?」
「うむ、対象になっている魔物だからな、最低でも、叔父上、父上、ギルドマスターには報告しなければ・・・一応他の皆には、ただのワイバーンを討伐したと発表しよう」
「裏リーダーが討伐した・・・でいいですか?」
「了解した、折を見てルビーを討伐したと発表することとしよう」
「ありがとうございます」
話し合いが終わり、みんなのところに戻る・・・どうすれば良いのか・・・
折角みんながやる気になってるのに、本当は強い魔物だったと言われたらどうだろう・・・ある程度経験を重ねてれば特に何も無いだろう・・・しかし、若ければ慢心し堕落してしまうのではないか・・・
みんなに言ったほうが良い気もするが、どうすれば良い? 解らん
タダシさんとヨシさんに相談するか・・・悩んでても何も思いつかないだろうし
そう思い、タダシさんの所に向かうと、網を念入りに焼いているところだった
「タダシさん、何やってるんですか?」
「網に付いた油なんかを焼いているんだ、熱で殺菌にもなるし炭化すれば簡単に落ちるからな」
「へぇ~、そうなんですか~・・・あの、タダシさんとヨシさんに相談があるんですけど良いですか?」
「ほぉ、珍しい事もあるんだな、話聞くくらいしか出来んかも知れんが、いいぞ・・・いや、片付け終わってからで良いか?」
「はい、お願いします」
その後、リョウタロウさんにワイバーンを預けて、皆と談笑し、タダシさんから声がかかる
「カナタ、ヨシ、こっちで話そう」
土で簡易的な椅子を作り、座って話し始める
「・・・と言うわけで、ワイバーンはドラゴンと同じくらいの強さのモンスターだったみたいです、それを皆に話したほうが良いのかどうか迷ってるんです」
「何でだ? 話しても良いと思うが・・・」
「強さは、慢心、傲慢を生みます・・・皆がやる気になっているところなのに」
「ふっふっふ、カナタ君らしくないわね、そうならない様に話せば良いだけじゃない? 出来るでしょ?」
「あっはっはっは、そうだな! そんくらい出来るだろ?」
「ああ、そういえばそうですね~・・・でも、思い付くかな? ・・・あ!」
そうだ! 魔王討伐と言っても魔王が1人でいるわけが無いんだよな!
もっと強いモンスターに魔王が守られてる可能性だってあるんだ・・・そんな簡単な事なんで思いつかない! テンパってたのかな?
そうして、皆にワイバーンのことを話し、今後の事も話し合った




