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通勤風景
通勤時の車両の中では
窓の外を眺めるよりも
目を瞑るほうが好きで
気配ばかりを読み取っては
シートに紛れていた
鞄の中の魔法瓶は
揺れるたびに
ちゃぷんと跳ねて
想像上の緩んだ蓋が
僕の鞄を水びたしにしている
空調でかき混ぜられた
汗と化粧品の匂いには
すっかり慣れてしまって
ドアが開くたびに
送り込まれる熱風と足音の
回数を数えている
閉じた瞼の向こう側で
鞄から溢れた水は
とめどなく僕を濡らして
湿った座席の気持ち悪さに
僕は眉を顰めている
間隔の短い車掌のアナウンスと
時折入れ替わる隣の肩の高さ
つま先に感じる傘の先端と
イヤホンから漏れた鈍いメロディ
軽い瞼を開いて
探った鞄の中
読みかけの本
皮のパスケースと
きつく蓋の締まった魔法瓶
立ち上がれば
わずかな窪みと
研ぎ澄まされた視線
乾いたシートの
攻防戦を後にすれば
鞄の中の魔法瓶は
歩くたびに
ちゃぷんと揺れて
染み出した僕が
改札口へと流れだす




