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私と彼の恋模様  作者: 辰野
7/224

7.

 「どうした?」


 いつの間にかお兄さんも開放されたのかホームの方に戻ってきていた

 お兄さんが戻ってくるときにはこの顔を直しておこうと思ってたけど……結局無駄だったな……


 「だって…………私のせいで……」


 涙をこらえながらも私が一人でいた間にどんなことを言われたか話していった

 私がおじさんを痴漢だと訴えたことでおじさんの人生が壊れたと責め立てられたこと

 おじさんには養うための家族がいてその家族の人生も壊したと言われたこと

 

 途中で涙をこらえきれなくなって話が止まっちゃったけど、それでもお兄さんはなにも言わずに最後まで聞いてくれた


 「つまり、君はあいつを痴漢だって訴えたからあいつに関わる人の人生を壊したって思ってるのか」

 「だって、だって…………私があそこで我慢してれば…………」

 「あいつは懲りずに他の子にも手を出すだろうな」


 でも私がおじさんの人生を壊したのに変わりない。

 おじさんだけじゃなく、その家族の人生まで壊してしまった。

 私のせいでたくさんの人に迷惑をかけたんだ。


 「君は被害にあったかもしれないその子の人生を守ったんだよ」

 「でも、私には……人の人生を壊す権利は……」

 「あぁもう焦れったい。ちょっと我慢してね」

 「……えっ?」


 涙ぐんだ顔を見せないように俯いていたらいきなりお兄さんに撫でられた。

 とても暖かくて優しさが感じられる頼もしい大きな手

 いつまでもこの人に撫でられていたい……


 「やめて!!」


 でもいつのまにかあいつの顔が浮かんできてせっかく慰めてくれたのに大きな声を出してしまった

 私の中に入ってきたのはお兄さんの暖かさでも優しさでもない、男の人に撫でられた恐怖だった


 この人はあいつとは違って私のことを助けてくれた人なのに…………


 お兄さんも私が叫んだらすぐに手を除けてくれた

 元からすぐにやめるつもりだったようで反応もはやかった


 「これが君が受けた恐怖。

 こんな恐怖を植えつけられたんだからあいつのことは気にしなくていいと思うぞ」


 初めて痴漢にあった恐怖を実感した

 これまで男性が怖いなんて思ったこともないし、普通に話しかけてこれた

 けど、今日のことで男性が怖いものとしか思えなくなってしまっている


 私はお兄さんの手でさえ恐怖を感じてしまっているのだ


 もしかしたら駅員さんに言い寄られた時にビクッとなってしまったのはこのことが関係してるのかもしれない


 気づいたら私の中にあった感情が溢れ出してしまった

 人が一人もいないホームに私の泣き声がこだましていく

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