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パレード・デイズ  作者: ふみわ
小学五年生 一学期
8/26

川島夕の月曜日(プリン)

「古泉~、女子に対してゴリラとは何?」

「わりぃわりぃ、そうだよな。ゴリラとお前を同一視するなんて、ゴリラに失礼だよな」

「そっちじゃないでしょ! バカー!」

「ゆ、夕ちゃん、落ち着いて」


 古泉のあんまりな物言いに頭にきて、プレートをその頭にお見舞いしてやろうとしたら、まゆちゃんが腕を掴んで止めた。

 む? まゆちゃん、結構力強い。


「まゆちゃん、放して」

「ダメだよ。喧嘩は」

「大丈夫。ちょっと古泉を殴るだけだから。喧嘩はしないから」

「いやいや! 絶対喧嘩になるから、それ。それに、喧嘩を止めないで見てたなんてバレたら、私まで小林先生に怒られるし・・・・・・連帯責任とか死んでもやだし」


 ・・・・・・そっちかい。

 思わず心の中でつっこんでしまった。

 いや、確かに、小林先生怒ると怖いけどね。

 にしても、まゆちゃんって思ってることすっぱり言うよねー。隣のクラスの有馬(ありま)君が五股かけてるのも、皆が黙殺してるのに、あっさり暴露しちゃったこともあったし・・・・・・。

 あの時は修羅場で止めるの大変だったなぁ。

 止めに入った際に女子に思いきり頬を引っ掻かれたことを思い出し、無意識に頬を撫でた。

 まぁ、まゆちゃんのためにも見逃してやるか。

 私は寛大な心持ちでプレートを下ろした。


「なんだよ? やらねーのか?」

「今回はまゆちゃんに免じて許してやるわ」

「つまんねぇ」


 こいつ、私との喧嘩楽しんでたのかよ・・・・・・。

 半ば呆れつつ、前の人が進んだので列を詰める。

 すると、古泉が私のプレートの上に焼きプリンのカップを置いた。


「あ、プリン」

「勝負はお前の勝ちだったからな。ほれ、受け取れ」

「言われなくても」


 カップを取ってうっとりと眺める。あ~、美味しそう。

 早く食べたいが、デザートは最後に食べるというのが給食の不文律。ここは我慢我慢。

 知代ちゃんに揚げパンを貰い、他のおかずも貰ったら、自分の分のプリンを取る。自分のプレートに焼きプリンが二つ並んでいるだけで、超ハッピー!

 今日は牛乳溢すわ、遅刻するわ、課題出されるわ、古泉に笑われるわで厄続きだったから、余計に嬉しい。プリンが私の運気を上げてくれてる気がする。


『いただきまーす』


 皆で揃って手を合わせて、食事始めの挨拶をする。

 まず、私は主食の粉砂糖の振りかけられた揚げパンと牛乳を口に運んだ。やっぱこの組み合わせは最高だ~。

 おかずのキッシュと野菜のソテーもモグモグ食べる。キッシュは取れたてホヤホヤの鶏卵と校長先生の実家が丹精込めて作った野菜が使われている。健康的で美味しい給食なんて、素晴らしい!

 箸が止まらず、料理がどんどん胃に収まっていく。ああ、美味しい。好き嫌いが少ないと何でも美味しいからいいな~。・・・・・・納豆は別だけど。


「はふぅ、美味しかった」

「え! もう食べちゃったの?」


 お箸を持ったまゆちゃんが振り返り、私の空になった食器をまじまじと見つめる。


「もっちろん! なんてったって、本日の主役はプリン様だもん!」


 そう言い、古泉から勝ち取ったプリンのビニールの蓋を剥がす。プリンの焼き目がキラキラ輝いて見える。早速、プラスチックの小さなスプーンでプリンを掬い、そっと口へ運ぶ。途端に、滑らかな感触とくどくなく、かといって控えめでもない絶妙な甘味が舌に広がる。カラメルもほろ苦くてプリンの甘さに合うし。

 も~、お・い・し~。

 さすが、牛乳、卵、砂糖の全てが最高級のプリンだわ~。

 校長先生がスイーツ好きなおかげでうちの学校のデザートは高級かつ美味しいものを使ってるんだよね。

 ふにゃふにゃふにゃふにゃ・・・・・・。甘くて舌も脳もとろけそう。

 顔の筋肉が弛むのがわかる。喉越しがよくて、もう普通に飲み込めてしまう。一個目があっという間に空っぽになってしまい、二つ目に手を伸ばす。それもペロリと平らげて、しばし、幸福に浸っていると、デザート箱が目に入った。

 プリンが一つ、中にちょこんと残っている。


「あっれー? プリンまだ残ってるよ? 誰の?」


 皆に訊ねると、古泉が答えた。


「ヒコのだろ」

「ああ、新木(にき)君のかぁ。今日休みだもんねぇ・・・・・・このプリン、どーしよ?」

「余るんなら俺が貰おうか?」

「あっ!」


 手の中から、プリンが奪われた。振り替えると、クラスで一番背が高い加藤君が立っていた。


「あ、ずりー。俺に寄越せよ、空良(そら)

「えー、颯人は夕っちに負けたじゃん。今日はプリン禁止ー」

「どうゆう理屈だ!」


 なんかプリンの取り合いを始めた。古泉と賭けした私が言える立場じゃないけど、小五がやることかよ。

 やってることは子供っぽいけど、なんやかんやで二人とも整った顔立ちをしているから、じゃれあってると思えば、結構絵になるなぁ。結構女子に人気あるんだよね、こいつら。

 まぁ、私の好みじゃないけど。私は兄さんみたいな家庭的で優しいカッコいい人が好みなんだよね。一応言っとくけど、あくまで理想であって、ブラコンじゃないから!

 一人で誰かわからない相手に言い訳してると、二人がジャンケンを始めた。私はすかさずプリンを加藤君の手から奪い返した。


「あ! 川島、なんで取るんだよ! プリン三つも食う気か? 太るぞ!」

「やかましい!」

「夕っちもプリン欲しいの? 颯人ならともかく、夕っちなら譲ってもいいかなー」

「違うから。あと、その呼び方やめてって言ってるでしょ」

「ええー、可愛いと思うのに」

「はぁ、ったく。とにかく、このプリンはダメ。新木君のお見舞いに持ってくから」


 そう言うと、二人も納得したのか何も言わなかった。

 風邪の時はプリンとかゼリーがいいんだよね。学校のプリンは市販のものより美味しいし、栄養あるから病人に食べさせた方がいい。


「ちぇっ、ま、しょーがねぇか。じゃ、ヒコによろしくな」

「は? 何言ってんの? あんたも一緒に行くのよ」

「あ? なんで」


 席に戻った古泉が、訳のわからなそうな顔をして振り返る。


「なんでって、私、新木君の家知らないもん。あんた友達だから知ってるでしょ? 案内して」

「だったら、俺が持ってった方がよくねーか?」

「ダメ。あんたのことだから、途中で食べちゃうかもしれないでしょ」

「食わねぇよ。どんだけ俺が食い意地張ってると思ってんの? お前」


 そりゃあ、三日何も食べてないライオンくらい・・・・・・とは武士の情けで言わないであげた。私は優しいのだ。

 それに、新木君のお母さんにはいつも父さんがお世話になってるから、お礼も言いたいしね。

 一人ぶすくれてる古泉の隣で加藤君が、手の焼ける息子を持ったお父さんみたいな顔をしている。

 加藤君も新木君とは仲良いし、誘って見ようかな?


「加藤君も一緒にお見舞い行かない?」

「ごめん。行きたいのは山々だけど、今日は塾なんだ」


 断られてしまった。塾なら仕方ないよね。

 私が頷くと、加藤君は申し訳なさそうに「新木によろしく」と行って席に戻った。私もプリンを持って席に座ると、給食終了のチャイムが鳴る。


「夕ちゃん」

「知代ちゃん、なぁに?」


 ごちそうさまをして、私がナフキンとお見舞いのプリンを自分の赤いランドセルに仕舞っていると、給食箱を片付けてきた知代ちゃんが来た。


「放課後、新木君のお家に行くんでしょ? 私も行っていい?」

「もちろん構わないけど、お迎えはいいの?」


 知代ちゃんの家はすごいお金持ちで、誘拐とかの防止のために登下校はいつも車でしている。寄り道しても大丈夫かな?


「ちゃんと運転手の田中さんに事情を説明すれば平気。たまには夕ちゃんと下校したいし、私も新木君が心配だから」

「わかった。一緒に行こ」


 知代ちゃんと約束してから、私は図書室で借りた本の返却期限が今日だったのを思い出し、本を机の脇に掛けていた手提げかばんから取り出し、教室を出た。




次回、夕は図書室でとある人物と会います。

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