川島夕の休日(帰り道・知代&空良)
知代ちゃんと空良君の帰り道です。
二人とも、さっきとまでは別人です。
「・・・・・・・・・・・・」
「いつまで、膨れてるのかな?」
「貴方と別れるまでです」
空良の質問に知代はそっぽを向いて答える。
夕暮れの道路を二人は並んで歩いている。しかし、その雰囲気は決して穏やかなものではない。
空良は口端を上げて笑ってはいるが、目は笑っておらず、知代は夕といた時とは打って変わって、眉間に皺を寄せている。
二人は小学生らしからぬ表情をしたまま、歩き続ける。
知代が空良に訊ねた。
「一体、どういう風の吹き回しですか? 貴方が私を送るなんて」
「女の子を一人で帰すのは気が引けてね」
「そうですか。別に必要なかったですけど」
「本当に高科さんは俺のこと、嫌いだよね」
その一言に知代が足を止める。数歩進んだところで、空良も立ち止まった。
彼女は、空良の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「何かな?」
「単刀直入にお尋ねしますけど、加藤君も私が嫌いですよね?」
「うん。君が俺を嫌いなくらいには」
空良があっさりと言う。
本音を言ったからか、今度はにこりと裏のない笑みを浮かべた。
「でしょうね。まぁ、それはそれで構いません。今日は加藤君にお話があるんです」
「話?」
「ええ。加藤君、私たちはお互いが大嫌いですけど、利害は一致してます」
ゆっくり、一言一句をはっきりと。
話す方も聞く方も、その姿は真剣そのものだった。
「・・・・・・否定はしないね。凄く不愉快だけど」
「私たちは協力しあう方が利に叶います。大切なものを守るために」
「大切なもの?」
空良が首を傾げる。しかし、余裕のあるは変わらない。知代が何を言いたいのかは分かっているのだ。
これは、ただの確認作業。
「あるでしょう、私にも、貴方にも、『拠り所』が」
「それは──」
だから、二人はその『拠り所』の名を告げた。
自分にとっての大切な者の名を。
その言葉は、五月の風に掻き消され、互いの耳にしか届かなかった。
はてさて、二人は何をするのでしょうか?
次話から夕ちゃん視点に戻ります。