川島夕の休日(犬猿)
知代ちゃんのキャラが・・・
思わぬ所で、古泉に会ってしまった。
しかし、いたのは古泉だけではなかった。
「やっほ! みんな今日も可愛いね」
「加藤君、あんた女の子には全員そう言ってるでしょ。ったく、有馬君といい、うちの学年の男子はどうしてこうキャラが濃いんだ? 少しは新木君を見習ってよ」
「二人とも、こんにちは。加藤君は相変わらず軽薄ですね」
にこにこ顔で辛辣過ぎるよ、知代ちゃん。
「やぁ、高科さん。君はいつも美人だねぇ」
全く気にせず、誉め言葉をかける加藤君。
なんてゆーか、この二人は馬が合わないんだよね。
私と古泉みたいにあからさまってわけじゃないけど、知代ちゃんは静かな敵意剥き出しだし、敬語だし、基本的に女子は名前呼びの加藤君も知代ちゃんは名字で呼んでるし。
加藤君は胡散臭い笑顔で知代ちゃんの隣に座り、古泉の手を引いて、奴も座らせた。楕円形のテーブルだから、必然的に古泉の隣は私になってしまう。
「あ、社会のテスト勉強? 奇遇だね、俺達もなんだ。よかったら一緒にやらない?」
「・・・・・・夕ちゃん、どうする? 夕ちゃんがいいなら、私は構わないけど」
知代ちゃん、そんな嫌そうな顔して言われても困るよ。
普段は人当たりいい子なんだけどなぁ。
目線で奈乃ちゃんに助けを求める。
「別にいいんじゃない? 古泉君も加藤君も成績いいし、教えて貰ったら」
「そっか、加藤君教えてくれない」
「俺は無視か」
当然。古泉の手は借りないよ!
「いいよー。夕っちのためなら──」
「その必要はありません。夕ちゃんには私が教えますから」
「知代ちゃん?」
加藤君が皆まで言い終える前に、知代ちゃんが言った。
人の台詞を遮るなんて、知代ちゃんらしくもない。
「えー? 俺は夕っちに頼まれたんだよ? どうして高科さんが断るの?」
「気に障ったのでしたら謝ります。ですが、加藤君だって自分の勉強で大変でしょう? いくらトップクラスの成績でも、楠中学校を受けるのでしたら、今からみっちり勉強しなくちゃいけませんから」
「え!? 楠中受けるの?」
楠中学校と言えば、県でも偏差値がべらぼうに高い私立中学だ。
受かるだけでも相当大変で、成績がいい人でも必死に勉強しなくてはならないのだ。
「親は受験させる気満々だけどね。父さんが事務所継がせたいみたいだから」
「空良の親父さんって弁護士だっけ?」
「うん、正直俺は弁護士になりたいなんて、一言も言ってないけど」
わぉ。なんかすごい話だ。
私は公立の晴山中学に進学するつもりだから、関係ないけど。
「ところで、俺としては高科さんが俺の進路を知ってることの方が気になるんだけど」
「確かに。どうして?」
私が訊ねると、知代ちゃんは凄く気まずそうな顔をした。
「う、ん。うちもお父様たちが私を楠中学校に進学させたいみたいで。四年の三者面談の時にそれ言ったら、加藤君もだって訊いたの」
「へー。納得納豆──って! え!? 知代ちゃんも楠中行っちゃうの?!」
「納得納豆ってなんだ?」
言葉遊びだよ。てか、今はそんなことどうでもいいんだよ、古泉。
「ううん、お父様が勝手に仰ってるだけだから。小林先生には晴山中学校に行くってちゃんと言ってるもの」
「そっか。よかったぁ」
「ふふ、私が夕ちゃんと別の学校に行くわけないでしょ」
ん? なんだろ?
なんか引っ掛かりの感じる台詞だな。
元々知代ちゃんとは仲良かったけど、あの事があった後、知代ちゃんは少し過保護になった気がするんだよね。
知代ちゃんだってショックだったろうから、仕方ないんだろうけど。
「麗しい友情だね。じゃあ俺も見習って颯人と同じ中学校に行こうかな?」
古泉と同じ──てことは晴山中学校になるな。
晴山小と晴山中の学区は同じだから、受験や引っ越しをしない限りは離れ離れになることはない。
「塾にまで行かれてるのに、それは勿体ないですよ。ご両親のお気持ちを無下にするものではありませんよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
あはは、うふふと笑う二人。
コワイ。
にしても知代ちゃん、お嬢様モード全開。
知代ちゃんの敬語って、なんか慇懃無礼だよね。敬語でオブラートに包んでいるようで、全く包めてない。
私はこっそりと古泉に訊いた。
「ねぇ、あの二人何かあったの? オーラがどす黒いよ」
「俺だって謎だよ。高科は川島と違って、人に喧嘩売るような奴じゃねぇしな」
「どーゆー意味よ!」
「そのままの意味だよ! キレんなっ」
「ところで、加藤君はいつお帰りになるんですか?」
「それは、暗に帰れって言ってるのかな?」
一方はギャーギャー、もう一方は冷え冷え。犬猿二組の間に挟まれた奈乃ちゃんは、
「おーい、司書の人が睨んでるから、やめない?」
遠い目をしていた。
犬猿の仲が二組に・・・