川島夕の月曜日(就寝)
お久しぶりです。
遅くなってすみません。
「もー、父さん、もうトンカツに蜂蜜はかけないでね!」
「ははは、すまない」
食後、呆れた声で父さんに注意をしながら、キッチンの流しで食器を兄さんと洗う。ジャンケンに勝ったので、今日は兄さんが洗って、私が拭く役だ。
シンクの上に拭いたお皿を重ねていると、兄さんが口を開いた。
「そういえば、駅前に新しいパン屋が建つみたいだぞ」
「それって、今工事してる?」
「うん」
「へー、じゃあさ、出来たら父さんと三人で行こっ、ね、父さん」
ソファに座ってテレビを見ていた父さんを振り返る。
父さんは読んでいた漫画の資料から顔を上げて頷いた。
あっ、そーだ。
「駅前で思い出したんだけど、私、日曜日に知代ちゃんと奈乃ちゃんと出かけるから」
「わかった。どこ行くんだ?」
「んー、晴山デパートかな?」
そういえば、どこに行くかは決めてなかった。でも晴デパでいっか。あそこ品揃えいいしね。
「なんか買うのか」
「あ~、ちょっとね・・・・・・」
私が歯切れ悪く答えるものだから、兄さんが不思議そうに首を傾げている。
うぅ・・・・・・さすがにブラジャー買いに行くっていうのは無理。
「俺も日曜は部活なんだよな」
「じゃあ、父さんが家にいるよ。夕、お小遣いは必要か?」
「大丈夫。足りるから」
頭の中でお財布と貯金箱のお金を数え、充分だと判断して断った。
最後にお椀を拭き終え、食器棚に片付けると私は時計を見た。時刻は七時ちょっと前を指している。
「ふむ。そろそろお風呂入ろっかな」
「おー、沸いてるぞ」
「んー」
私はエプロンを外し、壁のフックにかけると、リビングを出た。
「あ~、いいお湯だった」
お風呂から出た後、パジャマに着替え、濡れた髪をタオルで巻いて自分の部屋に戻る。小さなテーブルに鏡とペン立てや小物用の引き出しを使って作った簡要の化粧台に置いておいたドライヤーのプラグをコンセントに差し込む。
スイッチを入れると温風がブォーという音と共に吹く。
今日は疲れたなぁ。体育あったし、スーパーまで走ったし。
・・・・・・古泉と喧嘩しまくったし。
「はぁ」
息をつきながら髪を解かす。直毛のおかげで髪が絡まりにくいから、楽でいい。
大分乾いてから、引き出しを開けて小さいシュシュを取り出して横に緩く縛る。
生乾きの頭を枕につけるのは嫌なので、髪が完全に乾くまで起きていよう。
私は今日図書室で借りた本をランドセルから出して、ミニテーブルに添えた座椅子に座って読んだ。
しばらくして、髪が乾いたのを確認すると、七ちゃんの写真に「おやすみ」と言い、明かりを消してベッドに潜り、目を閉じる。
疲れていたせいか、直ぐにうとうととしてきて眠りに落ちて──いかなかった。
すっごく大事なことを思い出したのだ。
私はベッドが飛び出して、勉強机のスタンドを点けるとランドセルの中からプリントを取り出し、その内容を確認して叫んだ。
「宿題忘れてた────っ!!」
そう、私が持ってるプリントは遅刻してしまった罰として出された漢字の書き取りプリント。もちろん、白紙。
「わぁ~ん。やってかなきゃまた宿題増える~」
その晩、私は鉛筆片手にプリントの升に一心不乱に漢字を書いて埋めた。おかげで夜中まで私の部屋の明かりは消えることなく、翌日、再び遅刻の危機に晒されることとなったとさ。
『川島夕の月曜日』はこの話でおしまいです。
次からは『川島夕の休日』になります。
よろしくお願いします。