第十五話「皮肉の悪花」(1)
謀反者、天童雪新の割腹死体を確認した信守は、その首と姫との遺体とを寄り添わせる形で、戦勝の報告を都へと送りつけた。
すかさず都からは禁軍第二軍、第三軍が差し向けられて、戦後の処理と残党掃討と称しての交替が命ぜられた。
――流石に、そこまでの星井文双の要求を退けることはできなかったか。まぁ良い。
だいたいのことは済んでいるし、そもそもここからが問題なのだ。
天童のことはともかく、結果的に民衆を地獄に突き落とした官軍への怨みは骨髄に達しているだろう。
そのような場所への駐留ならびに統治など、こちらから願い下げであった。
「いや、ご苦労ご苦労。ではこの後は貴殿らと、そこな景経殿にお頼みしようか」
――また面倒を押しつけて……。
と言わんばかりの目つきを、景経は信守にのみ通じる形で向けてきた。
――だが実際は、こちらの方が難儀なのだがな。
内心でそう愚痴をこぼし、冬の曇天を仰ぐ。
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そうして事後処理と引き継ぎを終えた信守率いる第五軍は都に凱旋した。
「あけましておめでとう」と言ってもふしぎではない、という案配の時期に彼らは帰還した。
雷鳴の如き民の歓待を受けた。
――逃げ支度をしていたこいつらは、なんの面目あってこうして笑顔で晴れやかに手が振れるのだろうな。
その掌返しを馬上の大将は嗤った。
都の私邸で身支度を整えた後、帝へ年賀のあいさつもそこそこに復命した。
「この者こそ、真の忠臣というものである。他の者の働きなど、それと比ぶべくもない」
思わず座より立ち上がって熱っぽく玉言を放つ帝に対し、信守は冷ややかに見返した。
実際はその通りだろう、という自負はある。が、その賞賛によって褒められた相手が周囲からどういう感情を抱かれ、いかな不利益を被るのか、その辺りの勘定ができていない。
彼は喜色満面の貴人に対してあくまで淡々と事の顛末を語り、群臣の悪意と嫉妬に満ちた視線を受け流し、それら退屈きわまる通過儀礼の後に、帰郷が許された。
――長くないな、あの方がその座についていられるのも。
好感情を向けられているかどうかではない。彼は等しく他者を嘲笑う。
いかに貴い人であっても、それがどんなに愛しいものであったとしても。
それだけは、決して逃れることのできない自分の性だ。
そしてそんな己もまた、信守は嘲笑するのであった。




