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第十四話「地獄の音」(2)

「なに、義勇兵?」


 天童軍の中枢部とも言える奥の院。そこにて吉報に触れた旗頭たる姫君は、思わず立ち上がるほどに喜悦した。


「よし、さっそく迎え入れよう。味方は少しでも多い方が良い」


 そう言ってはしゃぐ娘に「待った」をかけたのは、天童雪新だった。

 一夜の惨敗以来、精神の均衡を著しく失っていた黒獅子であったが、江名府公の木金との一別により、ようやく小康状態を保てるようにはなっていた。

 と言うよりも、そうせざるを得なかったというのが実情であろう。


 とにもかくにも思考能力を取り戻してはいたが、相次いで盟友たちを失った彼には以前の甘さ……いや柔軟さは欠けていた。黒目がちの目は昏く、性根は頑なに。

 方針に異論を挟もうものなら、険しい眼光によって一瞥され、弁論ではなく迫力によって一蹴される。


 変質した彼を忌避する者もいた。かえって頼もしく感じる者もいた。

 評価それ自体は賛否両論であったが、いずれにせよ彼らの間に埋めがたい溝が生じたのは間違いなかった。


 そこにおいて、今回の義勇兵の出現である。

 しかもそれを募ったのは味方ではない。敵であるはずの禁軍が退去を条件に入寺を認めたのだという。


「そんなもの、 敵の間者が紛れているに決まっているじゃないか。追い返すほかない」

「しかし全員が全員、間者というわけでもないだろう。受け入れてからその素性を吟味すれば良いではないか」

「あの男が」


 黒い憎悪をその双眸に滾らせて、天童は言葉を遮った。


「あの姦計に長けた非道の悪魔が、容易に見抜かれる策を用いるはずがない。二重三重に、罠を仕掛けているに決まっているじゃないか」


 その業火の元が、復讐という名の火種であることは明らかであったが、そう追及させない迫力が今の彼にはあった。

 ただこの時は、祭姫も食い下がった。打算もなく、また戦況にも謀略にも疎い少女には、いったいこの秀才が何を危惧しているのか、それをいまいち理解していないようだった。

 とまれ、彼にしても予感だけで敵方が何らかの工作を設けていたとしても、看破できているわけでも確証があるわけでもない。反論できる材料は皆無であった。


 話し合いのうえ、入寺希望者の素性や持ち物を雪心自ら改めたうえで、彼らを収容することになったのであった。

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