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第二話:浪人水樹」(1)

 禁軍。

 王朝開闢(かいびゃく)以来の功臣の一族で構成される、帝直属の軍。

 その全七軍は、それぞれ府公に次ぐ『(けい)』という位に叙せられている。


 彼らはそれぞれ二十万石から三十万石という封地を与えられており、そこで布武帝が定めた『陣中式目』にのっとった、一軍の兵力、すなわち五◯◯◯人を養うわけである。


 もっとも、それは十年前の話だ。

 今では名門上社家とて、三◯◯◯人を擁するのが精一杯。


 『順門崩れ』という前代未聞の大敗を喫して以来、上社家はその敗北の責を押し付けられた。


「無用に、かつ無断で無益な戦いを続行し、諸侯に多大な迷惑をかけた」

 というのがその罪状らしい。

 ……まぁそれは事実で、またそうしなければ禁軍第五軍は地上から消滅していたことだろう。


 五万石減封とされた。

 だが好き放題やった結果としては、穏便な措置とも言えた。

 ……他の禁軍が受けた理不尽に比べれば。


 戦の中、寝返った第六軍の地田家、第七軍の赤池家は当然全領没収。

 もっとも赤池氏は新たに盟主と仰ぐ鐘山家より、新たな所領を与えられたわけだが。

 第六軍、地田(じた)綱房(つなふさ)の行方は杳として知れない。

 信守の中には、

「あんな見栄坊の愚将はとっとと死んでいて欲しい。その方が世の中のためだ」

 という願いがある。だがその一方で、生きていて欲しいという思いも同居していたのだった。


 ――そう、生きて、みじめったらしく生にしがみついた挙げ句に、群雄気取りの鐘山家、順門府など、散々に引っかき回してからくたばれ。


 ……と。


 話がそれた。

 第四軍の佐古家にいたっては『順門崩れ』の後、赤池氏を征伐している最中に突如朝廷によって召し上げられた。

 樹治三十六年のことである。

 もっともその頃には佐古家の野心は見え透いていたから、第四軍を分裂させるには妥当な謀略と言えたが。 


 これらは藤丘家へ富と力を集中させようとする宰相、星井(ほしい)文双(ぶんそう)あたりの献策である。

 が、この横暴な手段がかえって内部の不興を買い、外部からはその余裕のなさが見透かされているのだからどうしようもない。


 北東の風祭府、北の桃李府、西の佐朝府などはそれらの悪政に見切りをつけて、しばしば勅を無視するばかりか、それぞれ独立の気運を見せていた。


 ~~~


 そんな最中の、大規模な葬儀であった。

 なけなしの生真面目さを浪費した上社信守は足早に帰国した。


 上社家の本領は、都である岐曜(ぎよう)の別邸とは別に、南方に存在する。

 その道中の辻で、信守一行は奇異なる存在を見つけた。


「行き倒れです」


 と先発していた貴船我聞が報告してきた時は別段なんとも思わなかったが、その舅の顔がまた絶妙に微妙であったことが、この禁軍第五軍大将の興をそそった。


「ほう」

 そして、その若い男を自らの目で確かめた時、信守は声を軽く漏らした。

 辻の(ほこら)によりかかって、意識を失っていた行き倒れの髪は、鮮やかな葡萄酒色をしていた。

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