銃騎士物語 Ⅷ
「はぁ、疲れるわ……」
人目のつかない所で、ディージェイがぼやいていた。そこにランスとリッシュがやって来た。
「いやはや、見事な腕前ですね、ディージェイさん」
微笑みながらランスが言う。ディージェイは立ち上がり、一礼した。
「いえ、あなたの剣のお陰です。龍斬剣、とてもいい剣ですね」
「もういい年ですし、私にあの剣はもう使いこなせませんよ。あなたのような方に使って頂いて、剣も喜んでいます」
ディージェイは頭を左右に振り、瓦礫台の上で群集に手を振っているガデットの方を見た。
「ドラゴンバスター、あの剣にはもっとふさわしい人がいますよ」
にっこり笑い、ディージェイは言った。
「そうなってくれるといいのですが」
ランスもガデットを見る。
「リッシュちゃん。まあ、ゆっくり見守ってあげてね。彼、きっといい騎士になるよ」
リッシュの肩を軽く叩き、ディージェイが微笑むと、リッシュはうなずいた。
「はい!」
「では、失礼します」
再び一礼すると、ディージェイは広場とは反対側に向けて歩き出した。その背にリッシュが手を振る。
辺りはすっかり暗くなっていたが、広場ではまだまだお祭り騒ぎが続いていた。町の住民全員が集まり、その騒ぎは明朝まで続いた。
……その後、ガデット達の町で銃を持つのは狩人くらいで、他の者は皆、剣を握り、日々、その腕に磨きをかけていた。
『勇者のあかし』大会の賞金は、いつのまにか消えたディージェイにかわりガデットが受け取り、その資金でマーベリック家は新しい道場を構えた。
町の若者は勿論、昔、剣士や騎士として活躍した中年や老人までもが、その道場に通いつめ、その町はいつしか『騎士の都』として、周辺の国々に知れ渡るようになった。
ロブとガデットは、お互い良きライバルとして競い合い、共に腕を上げていった。彼らは今、闘士であり、数年後には剣士になるであろうことは誰の目にも明らかだった。
アーマードラゴンを倒した龍斬剣は「聖剣」と呼ばれ、今はガデットが持っている。
ちなみに、リッシュをめぐる争いには、まだ決着が付いていないようだ。
リッシュの気持ちはガデットと決まっているのだが、父、ランス・マーベリックに「しばらく待って下さい」と言われているので、二人の婚姻はもうしばらく先のことになりそうで、ならば私が、とロブがアタックをかけているのだ。
「――ねぇ、ならさ、そっちの……そう、それそれ。それはどお? 結構古そうじゃん?」
「駄目駄目、それはうちで一番安い銃だがな、パーツだって売れねえよ」
「じゃさ、その隣のそれは? でっかい傷ついてるからさ……」
「あのね、お嬢さん。いくらうちが町で一番安いっていってもね、二百しか持ってねえってんじゃ話にもなんねえよ。さ、もう帰んな」
「引き金だけでもいいからさ、ほら、あっちの――」
『勇者のあかし』大会から二週間後、あの町から西にずっといったところにある別の町の銃砲店で、若い女性と店主が言い争っていた。
女性の名前はディージェイ。若くして剣士の称号を持つ。
彼女は今、銃騎士になるべく、その第一歩として、なんとか銃を手に入れようと各地の銃砲店を巡っていた……。
西の町の銃砲店。ディージェイは、とうとう店から追い出された。
勢いよく閉まる扉を睨み、そばにある柱をブーツで蹴飛ばすと、暮れる夕日に向かって叫んだ。
「ちぇっ……けちんぼーー!」
『出演』
ディージェイ~本名不明。剣士の称号と卓越した腕を持つ。敵は貧乏
ガデット・マーベリック~闘士、騎士の息子で剣士見習い
ロブ・フォリオ~闘士、銃闘士見習い、ガデットのライバル
ギム・グレス~銃闘士、自称勇者
ランス・マーベリック~騎士、ガデットの父、龍斬剣の所有者
リッシュ・ノーブル~ガデットの恋人
八百屋のおやじ
町の住民A女性
町の住民B男性
その他、住民多数
『銃騎士物語 - Gun Knight Story -』――完