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銃騎士物語 Ⅶ

 そろそろ日没だというのに、勇者ギムの演説はまだまだ続きそうだった。

 群集の中の一人の女性が、空を見上げて呆けている。

「何だ、あれは?」

 つられて周囲の者も上を見た。夕日で紅い空に巨大な影があった。一瞬の静寂、そして……。

「ば、化物だぁぁーー!!」

 一人の男が叫び、一気に群集はパニックになった。

 大きな地鳴りと共に、影が広場の中央に降り立った。

 あまりの大きさなので、それがドラゴンだと判るのにしばらくかかる。

 顔の先から尾までの長さは二十メートル近く、一枚が盾ほどもある赤いうろこが全身をびっしりと覆っている。背には巨大な翼があり、広げれば三十メートルはゆうに超えそうだった。その巨大な口からのぞく無数の牙は、夕日色に輝いていた。

 群集はあっという間に散り散りになる。

 演説を続けていたギム・グレスは、その巨大な「ドラゴン」のほうを見たまま、口を半開きにし、完全に固まっている。

 ぶん、と風を切る音がして、ドラゴンの顔がギムを捉える。大きすぎてそれと判りにくい目がごろりと動き、威嚇であろう咆哮を上げた。

 空気がびしびしと震え、ギムはぺたりと座り込んだ。

「アーマードラゴン(重殻龍)、でかいな。ロックドラゴンの死体につられてやってきたのかな?」

 広場に向けて走るディージェイがつぶやく。少し後ろにガデットとロブもいた。

「ディージェイ!」

「あんたら、何やってんのー?」

「え? い、いやー」

 どうやらつられて走っていただけのようだった。

「まあ、見てなさいって。剣士ナイトのさー、かっこいいとこ、見してあげるからさ!」

 にこにこしながら二人に手を振り大声で怒鳴ると、ディージェイは広場のアーマードラゴンへと駆けていった。立ち止まり、顔を見合わせるガデットとロブ。

「かっこいいとこ……って?」

 広場中央に組まれた演説台に辿り着いたディージェイが、今年の勇者、ギム・グレスに声をかける。

「よっ、勇者さん。このアーマードラゴン倒してよ、ね?」

 片目をぱちりとしながらディージェイが言うと、驚いたことにギムが立ち上がった。

「おう! 任せておきなさい!」

 ギムは自慢の最新式のフリントロック式ライフル銃をアーマードラゴンの鼻だか額だかに向けて構えた。

 どうやら彼は、あまりの恐怖のため、目の前で起こっていることを理解できていないようだった。脳の限界を超えた出来事のおかげで恐怖心も吹き飛んでいた。

 ギムが最新式の銃の引き金を引くと、ロブ・フォリオの銃の数倍の音がしたが、アーマードラゴンの巨大さの前では、それはあまりに頼りなかった。

 カキッ! と軽い音がして、弾丸はアーマードラゴンの皮膚にいとも容易く弾かれた。

「どうだ!」

 叫ぶギム、完全に我を忘れている。

「なんのこっちゃ」

 言いながらディージェイは剣を鞘から抜き、荷物袋から取り出していたゴーグルをつける。

「よーし、久しぶりの本気、やるか……」

 両手で剣を握り、全身に力を込める、と、彼女の髪の毛がざわりとなびいた。直後、ディージェイのいた場所に埃が舞い上がる。

 一呼吸後、ディージェイは十五メートルほど先にいたアーマードラゴンの眼前に出現、舞い上がった埃が地面に落ちるより速くに。

「だああぁぁぁ!」

 ディージェイが叫び、アーマードラゴンもまた叫ぶ。

 巨大な口が開き、ずらりと並んだ牙の奥が光る。轟音と共に喉元が高熱を発し、上下の顎を開いたそこから炎球が爆裂した。

 爆音が広場の演説台や何やらを全て吹き飛ばし、ディージェイのいた辺りは炎球で大穴と化していた。

「ディージェイ!」

 ガデットが叫ぶ。ロブは口を空けたまま身動き一つ取れないでいる。遠くにいるリッシュは顔をそらし、ランス・マーベリックの腕にしがみついていた。ランスは爆音のした地面、その上を鋭い眼光で捉えていた。彼の視線の先に、ディージェイがいた。

 空中で姿勢を立て直しながら、剣を大きく振りかぶっていた。

「生意気な奴ね」

 くるりと体を回転させ、アーマードラゴンの頭部目掛けて降下していく。

「そりゃっ!」

 ディージェイの剣がアーマードラゴンの首筋を捉えた。鈍い音がして、鎧と化した皮膚が辺りに飛び散り、そこから赤黒い体液が噴き出した。

 唸り声をあげ、その巨大な翼をはばたかせるアーマードラゴン。

「ばーっちりね」

 ドラゴンの頭部の角の一つを蹴って着地したディージェイが、にこりと微笑む。

「よーし、とどめだい!」

 再び剣を構えた、が……、その剣からビシリと小さな音がした。

「ん?」

 そして、彼女の剣は音を立てて派手に砕け散った。

「ありゃ? やっぱ安物は駄目ね……」

 刃のない剣を眺めているディージェイに向かって、空中からアーマードラゴンが迫ってくる。炎球が強烈な速度で降り注ぐ。

「やばっ!」

 慌てて飛びのくと、地面に激突した炎球が再び爆発して、灼熱の大穴が開く。地鳴りと共に降り立ったアーマードラゴンが大地を蹴ってディージェイへ突進してくる。

「うーん、ひょっとして、ピンチ? か?」

 刃の砕けた剣を構えて、猛進してくるアーマードラゴンを睨む。

 と、風を切る音と共に、一本の巨大な剣がディージェイの足元に刺さった。

「お? これって、ひょっとして、龍斬剣?」

 彼女の身の丈ほどある剣、その握り部分には小さな宝石飾りが付いている。

「使ってください!」

 声の主は、ランス・マーベリックだった。

 ディージェイはその剣を握り、上から下までを眺める。

「国宝クラスの術式武具……ドラゴン、バスター、か」

 つぶやき、ランスに向けて軽く手を挙げる。ランスは微笑みで応える。

 その剣、ドラゴンバスターを再び握り直し、構え、突撃してくるアーマードラゴンを鋭く睨みつける。

「よーし、来なさい、トカゲちゃん」

 アーマードラゴンが咆哮をあげ、ぐんぐんと迫ってくる。と、ディージェイもまたアーマードラゴンに向けて走り出した。

 突き出した右腕をぐいと引いて、顎の下で構えたディージェイは、腰を少し落としてから、つぶやいた。

「……気候の支配に潜り込む汝は、可憐で無感情な暴君なり。住まう大気と深く結ばれし原初よりの定めゆえ、汝は万事を長い目で見つめる。軽やかな生き物たちの緩慢さなど、汝には悪戯の対象でしかない。我は求める、幾百の鋭い短剣を背に隠し持つ汝の、不意の一撃を……ジンニー!」

 駆けつつディージェイは口走り、彼女の周囲に風が舞う。ランス・マーベリックからの剣を構えつつ、更に言葉を続ける。

「岩に住まう永遠の強さの汝は、山のごとき不動の忍耐なり。住まう大地と深く結ばれし原初よりの定めゆえ、汝は万事を長い目で見つめる。短命なる死すべき定めの生き物たちの性急さなど、汝には軽侮の対象でしかない。我は求める、堅牢なる意志と鋼のごとき鎧を持つ汝の、強靭な一撃を……」

 アーマードラゴンの巨大な口が光り、今までで一番大きな炎球が、ディージェイに向け、放たれた。

「グノーム! たぁっ!」

 炎球めがけてドラゴンバスターを振ると、炎球は彼女の体を避けるように四散して、周囲が爆裂する。

 町の広場だったそこは、炎と煙と埃、瓦礫と穿たれた穴、まるで戦場のようである。

「さあ、おしまい、よ!」

 ディージェイが走りながらドラゴンバスターを構え直す。その刃が夕日色に紅く光る。

 突進から一転して翼をはばたかせたアーマードラゴン、その巨躯が浮く。ディージェイの視線がドラゴンと地面との間に出来た、わずかな隙間に向いた。

 上空からの炎球攻撃へ転じようとするアーマードラゴンと、駆ける速度を更に増すディージェイ。わずかな隙間、地面とアーマードラゴンの腹部の真下をくぐり抜けつつ、鈍く輝くドラゴンバスターを、一閃。

剣士ナイトが奥義、術式抜刀・硬装閃刃疾風隼斬り! ……なんつってー」

 アーマードラゴンの叫び声が広場だった戦場に響き、そして、その巨体が浮いたまま真っ二つとなり、ぐらりと揺れ、盛大な音と共に地面に落ちた。

 ふう、と溜息を一つ、剣を一振りし、刃に付いた赤黒い体液を落とすと、ディージェイはガデットとロブ、ランスとリッシュの方を向き、にっこりと笑った。

「要は、腕次第、ってね」

 それが合図のように、周囲から大歓声があがった。

「ディージェイ! やったー!」

 群集を蹴散らさん勢いでガデットとロブが満面の笑みで駆けてくる。

 ガデットがディージェイに抱きつこうと手を広げたが、辺りから何百という群集が現れて、彼は地面に転げてしまった。

「本物の勇者様だー!」

「怪物を倒したぞー!」

 皆、口々に叫び、広場は大騒ぎになった。

 群集に押されるようにしてディージェイは、司会の八百屋のおやじが待ち構える、瓦礫の山の上に上がらされた。

「勇者様万歳ー!」

 しばらくして、ディージェイが群集を手で制した。

「あのー、あたし、勇者じゃなくて、剣士ナイトなんすけど……」

 三度四度、歓声があがる。

「剣士万歳ー!」

 人々にもまれながら、ガデットとロブも声を上げていた。ランスとリッシュは、その様子を離れたところから、笑みと共に眺めている。群集の中からガデットを見付けたディージェイが手招きをした。必死の思いで人波をかき分け、瓦礫で即席された台の下まで来た。

「すげえよディージェイ!」

 泣きながら言うガデットの腕を無理矢理に引っ張り、瓦礫の台に上げるディージェイ。そして再び群集を制し、静かになったところにディージェイは言う。

「あのドラゴンを倒したのは、この人の剣のおかげです!」

 そして片目をぱちり、「あと、よろしく」と言うと、ディージェイは瓦礫台を降りていった。

「へ? よろしくって、何を?」

 訳がわからず、きょとんとしているガデットに向けて、またまた大歓声。

「マーベリック家、万歳ー! 騎士パラディン、万歳ー!」

 またもや大騒ぎが始まった。

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[良い点] スピード感のある表現 テンポよく進むストーリーと安心感 [気になる点] アーマードラゴンとの1戦で、 一呼吸後 という表現があったが、 違う表現があったらなおのこと良いのになと感じた [一…
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