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銃騎士物語 Ⅰ

挿絵(By みてみん)


 戦場において剣や槍が時代遅れになった世の中、戦士たちは武器を、銃に持ちかえつつあった。

 大陸の外れ、緑に囲まれたある小さな町でのお話。


 町で毎年開かれる『勇者のあかし』大会、今回で二百回目である。

 この大会の勝者には、大金と名誉が与えられる。

 町の青年ガデット・マーベリックは、今では数えるほどになってしまった「騎士パラディン」の息子であり、彼もまた父の後を継ぎ騎士になろうと、日々修練を重ねていた。

 同世代の者は皆、「銃騎士ガンナイト」を目指しており、ガデットは「時代遅れの田舎者」とからかわれていた。

「うるせいやい! 騎士道の何たるかも知らねえてめえらに、剣の良さが判ってたまるかよ!」

 現在、庶民にとって銃はまだまだ高価で、一般市民が手に入れるのは容易ではなかった。父の姿を見て育ったガデットは、当然のように騎士を目指すようになった。が、内心では……。

「高いんだよ、銃は。そんな金、家中引っくり返したって出てこねえよ」

 周りの連中、世の中の流れを見れば、騎士など無用ということには青年ガデットにもすぐ解かった。本心を打ち明ける相手は、幼馴染みで恋人のリッシュ・ノーブルのみである。

「リッシュもさあ、やっぱ、剣振り回してる男より、銃騎士のほうがかっこいいと思うだろ?」

 リッシュはガデットの一つ年下で、性格は楽天家、いつもニコニコ明るく、皆に可愛いがられている。

「あたしはどっちでもいいと思うよ? ガデットならどっちもよく似合うんじゃない?」

 今のところ二人はお互い好きあっていて、リッシュにとっては剣だろうが銃だろうがはしだろうがスコップだろうが、何でもいいのである。が、ガデットはリッシュほど割り切れた性格ではなかった。

 周りの連中がガデットをからかったりするので、ますますガデットは悩んでしまう。

「そのうちリッシュも、やっぱり銃ってかっこいいよね、とか言い出すかもな。なんとかなんねえのかな……」

 そんなガデットの目に映ったのが『勇者のあかし』大会の看板だった。

「賞金五万! こ、これだっ!!」


「――ね、ね、おじさん、これは? 見たところ、けっこう古そうだしさ」

 町外れの銃砲店で、店主の初老と若い女性が、なにやら話し込んでいた。

「あのね、おねえちゃん。あんたが銃、欲しいってのはよーく解かってるんだけどさ、うちの店の中にはどこ探したって、二百五十ぽっちで買える銃なんて一挺もないんだよ、すまねえけどね」

「んじゃさ、そっちの、そう、それは? グリップさびてんじゃん」

「一万! 一切まけられねえよ」

 それから小一時間ほど同じ事を繰り返し、とうとうしびれを切らせた店主に女性は店を追い出された。

「ちぇっ、けちんぼーー!!」

 女性の名はディージェイ、最近では特に珍しい女性剣士ナイトである。

 かなりの腕前だが、彼女がその技術を身につけた頃には、もう騎士と銃騎士が入れ替わりだしていたので、彼女の活躍の場は殆どなかった。それゆえ、かなりの腕前というのも「自称」である。「剣士ナイト」の称号をその若さで持つところを見ると、言うだけのことはあるのだろうが。

「ここなら安いって聞いて、はるばるやってきたあたしは一体……」

 ディージェイも先の青年ガデットと同じく、剣を銃に持ち代えるべく日々頭を悩ませている一人であった。

「これからはやっぱ銃じゃなきゃねー」

 誰にともなくつぶやき、ディージェイはとぼとぼと歩く。夕方、そろそろ辺りが暗くなってきた。

「今日はどこに泊まろっかなー、ったって、お金もあんまないし、また汗臭い部屋の固いベッドだな、こりゃ」

 うつむいて歩くディージェイの少し先から男が走ってくる、ガデットである。

「よーし! 申し込みも済んだし……賞金は俺様がいただきだ!」

 ディージェイとガデットがすれ違う瞬間、道端で猫が鳴いた。にゃー。

 ガァン!

 凄い音がして、彼女の横で土煙が舞う。

「なんじゃ?」

 そこには男――ガデットが倒れていた。

 猫のほうを見ようと体をくねらせたディージェイ、彼女の持っていた剣のさやが、ちょうどガデットの目の前に突き出てきた格好になり、ガデットは鞘に力一杯激突したのだった。

「ばかやろー! 気をつけろ!」

 怒鳴ったのは、ディージェイだった。

 いきなり倒された上、大声を浴びせられたガデットは、何が起きたか解からずぽかんとしていた。頭をあげるとそこには、凄い目つきで睨んでいる女性、ディージェイの顔があった。

「え? あ、ああ、すいません……」

 意味も判らないままガデットは謝っていた。

「ちゃあんと前見て歩いてよ――」

「あーーー! い、痛てぇ!」

 今度はいきなりガデットが叫んだ。見ると彼の右腕は……折れていた。

「わ、わ、何これ? ぷらんぷらんって、おい! すっげー痛いぞ!」

 痛みがようやく脳にまで伝わったらしく、脂汗を流しながら叫ぶ。

「……腕、折れてるよ?」

 ぼそりとディージェイが言い、その一言でガデットは、切れた。

「お、お、お、折れてるよ? どーすんだよこれ! 痛てぇー! だいたいてめえがいきなり、痛っ! 剣なんか突き出すから、ば、ばかやろー!」

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