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その5

 放課後の真・生徒会室の窓からは梅雨の晴れ間の日の光が差し込んできている。まるで真・生徒会の前途のように。そして鈴の顔は日の光に照らされて輝いていた。

「同志諸君! アイデア、持ち寄ってきた?」

「はいはーい、同志星野!」

 さっそく元気よく手を挙げたのは、長野さんだ。

「お、同志長野。何かいいアイデアがあるみたいね! さすが真・生徒会のホープっ!」

 長野さんはちょっとかしこまってごほんと咳払いした。

「偽・生徒会と空手で勝負ってのはどうですかっ?」

 おいおい! あっちが受けてくれるわけないだろう。長野さんの伝説はきっとあっちにも知ってる人がいるぞ。真剣を持った男性に勝ったという噂さえある。

「それいいわねっ、同志長野なら絶対余裕勝ちよ、こっちが圧倒的有利よ」

 おいおい。ツッコミのしようがないぞ。れおなは気持ちが逸っている鈴に、こう涼しく言い放った。

「あっちが受けてくれるわけがないわね」

「あ、そっかー、あっちが不利だと分かってるのに受けるはずないわね。じゃあ同志縁屋、あんたは何かいいアイデア持ってきた?」

 鈴のその言葉に俺は固まった。

 …………

 不味いな。言えないよ。いいアイデアが出なかったって言えないよ。でも鈴は期待に満ちた目で俺を見てるし。きい達に喧嘩を売るいい方法。きいが鈴にライバル意識を持っていたとしても創刊単に挑発に乗りはすまい。ヤ○チャがサ○○イマンに勝てるくらいの確率しかないんじゃないのか? 非常に低い確率。

 鈴が俺の反応に明らかにがっかりな反応をした。そして軽蔑の目。小学校高学年で跳び箱を跳べないやつを見るがごとき目だ。やっぱり鈴の役に立てないのは辛いな。どっかで挽回方法を考えないと。汚名挽回っ! あれ? なんか違うぞ。

「さてっ! 役立たずは無視して! 同志椎名は何かない?」

「あるわ」

 あっさり言ってくれるよなあ。俺が脳味噌ディスクドライブの容量がゼロになるまで考えても出なかったというのに。さすがはれおなだ。

「なになにっ?」

 まるで砂漠で遭難したときに、キャラバンに出会ったときのような喜びに満ちた瞳で、鈴はれおなを見つめる。

 ――どうせ俺は役立たずですよ。

「まず、全校生徒を動かすことね。いいかしら? この学校の生徒はみんなイベント好き。理事長を代表としてね。そして五番勝負を偽の生徒会に仕掛けることを発表するの。」

 なるほど。確かにこの学校の行事の多さは異常だからな。

「いいアイデアよ! 同志椎名」

「しかしだな」

 ふと疑問を口に出す。

「何かしら? 同志縁屋」

 れおなが表情を変えずに俺に訊き返した。

「それでも、それでもあいつら、勝負を受けるのか?」

「いいアイデア出せなかったくせにそういうところは気づくんだ」

 鈴のジト目が辛いっ! 分かってますよ。でも本当に気になったから言ったんだ。

「受けるわ」

 れおなは即答する。よほど自信があるらしい。

「何故、そう言いきれるんだ?」

 しばらくの沈黙。そしてれおなは椅子に座った俺を舐めまわすかのように見つめた。なんだかキモチイイ! 俺、こんな趣味あったっけ?

「鈍感ね、同志縁屋」

「なんで、それが今関係してくんだよ。確かに俺は鈍感だけどさ。それがきいが五番勝負を受ける受けないに関わってくることなのか?」

「あるわ。一言で言うと、あちらも現状に不満を抱いているってことなの」

「鈴が出て行って清々しているんじゃないのか?」

 そう、俺が言うとれおなは、くすくすと笑った。

「ほんっと鈍感ね」

 何がなんだか分からん。だが、れおなが言うのだから確かなんだろう。天○飯がサイ○イ○ンに勝てるくらいの確率はあるんだろう。

「それはいいんですけど、椎名セン……同志椎名。五番勝負の中身ってどうやって決めたらいいんですか?」

 それも問題だ。イベント好きのこの学校の生徒を動かすような魅力的な内容。それが必要だ。

「それはいくつかの案をここで考えて、全校生徒に投票してもらって決めたらいいんじゃないかしら?」

「そうね。さすが同志椎名」

「じゃあアタシ、空手勝負がいいとおもいまーすっ!」

 真っ先に手を挙げてそう発表する長野さん。五番勝負の中に入れるのならそれもいいか。

「じゃあ、それは案の一つね」

 鈴がノートに、長野さんの出した案をメモする。

「あたしはね、大食い勝負がいいと思うの」

 鈴は鈴で自分の有利なアイデアを出しおって。鈴が『混沌の化身カオス』と大食いの世界で言われているのを俺は知っているぞ。きいも知っているから、普通に挑んでも受けないだろうが。一般生徒の投票だと、みな興味を持って投票してくれるかもしれない。

「マラソン対決、というのはどうかしらね」

 今度はれおなが提案する。梅雨時にマラソンってのも何だかなあ。それも一つの案だけど。

「討論勝負も面白そうよね。真・生徒会と偽・生徒会で討論して、どっちが正しいか全校生徒に判断させるの。あとはどっちが勝ったか投票で決める、と」

 鈴の提案に俺がすかさずツッコミをば。

「それ、普通の生徒会選挙みたいなものだからな」

「同志縁屋、うるさいっ。あたしがやりたいの」

「まあ、それも一つの案だよな」

 と俺が鈴を適当にあしらっていると、今度は長野さんがこういう案を出した。

「はいはーい、我慢大会ってどうですかっ? 暑さに耐えるんですよっ。もう熱中症で病院に運び込まれるくらいの暑さを耐えるんです!」

 き、危険だ……、死者がでたらどうするんだよ。それに俺は暑いのは嫌だ。

 無い脳味噌を絞って、俺もいい案を考えようとする。この学校の生徒が食いつきそうなアイデア、アイデアはないか。

 その間にも案は出される。例えばクイズ対決。これも面白そうかもしれない。れおなの意見だ。

 俺もなんか出さなきゃ。

「さっきから同志縁屋が案を出さずに黙りこくっているけど、何かいいアイデアないの? 溺れたときに差し出された藁束並みに役立たずね」

 その比喩がぴったりなくらい役に立ってないのが事実だから相当に面目ない。

 あ、そうだ。いい案を思いついたぞ。

「この学校には、全天候対応型ドームプールがあるっ!」

 俺の発言に鈴と長野さんが顔を見合わせた。れおなはポーカーフェイスを崩さずにいた。そして俺は言葉を続けた。

「我々のがっこーではっ!」

「そこでなんでソビエトロシア式倒置法を使おうとするのよ?」

 いつもとツッコミが逆転している。俺だって使いたいときくらいあるぞ。

「いいから黙って聞いてろ。我々のがっこーでは、水着が女子を着るっ!」

「何が言いたいんですかっ? 同志縁屋?」

 長野さんは某ネズミー公園に行った学生のようにわくわくとした瞳で俺の方を見ている。ふっ、俺のアイデアに期待しているな。

「まあ、よく聞けよ。もうすぐ夏だ。海の季節だ。この夏に向けての水着も売られはじめている。そこでだ! 水着コンテストとかどうかなー、と思ってさ」

 鈴にスクール水着を着せた姿を脳裏に浮かべながらそう言うと、鈴はまるでお風呂上りにパンツ一丁でいるオヤジを見るようなジト目で俺を見た。

「……まあ、それも一つの案ね。一応メモに取っとく」

 おお! この学校の男子生徒はきっとこの勝負を見たいはずだぞ、きっとこれは選ばれる!

「はいはーい、同志星野!」

 ここで、長野さんが手を挙げて提案。どんなアイデアだろうか?

「全天候対応型ドームプールで思いつきましたっ! 水中騎馬戦、ってのはどうですか?」

「オーチンハラショー!」

「なんで俺のときはジト目で、長野さんの案には『オーチンハラショー』なんだよっ!」

「はいはいハラショーハラショー」

 そう言いながら鈴は『水中騎馬戦』とノートにメモる。

 そして、まだまだアイデアは出る。百人一首勝負、ジェンガ勝負、相撲勝負。十一個のアイデアが出たところで、鈴がこう言った。

「このくらいかな。この案を全校生徒に投票させて、票が多かった五つに決めるのがいいわね、れおな」

「そうね」

「投票はいつ行う?」

「明日の全校集会かしらね」

 俺置いてけぼり。鈴とれおなだけで決められてる感じだ。しかし教師が許してくれるだろうか、そんな投票を行うことを。

「今から職員室に行って頼んでくるわ」

 れおながそういうと何でもできそうな気がしてくるくらいだ。

「あたしも行く」

 鈴がそう言うと、ちょっと怖い気がする。

 ――結果として。

 鈴の『必死のお願い』によって、なんとか明日の全校集会で投票を行ってかまわない、ということになった。心広いよな。うちの教師たちも。教師含めてイベント好きなんだろうか?

オーチンハラショー! 水着はすばらしい!

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