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プロローグ

目の前で二人の少女の感情が激しくぶつかり合っている。ここは生徒会室。普通の学校の生徒会室とは違い、机も椅子もそれなりに値の張るものだろうということが分かる。おまけに高級そうな彫像まで置かれている。そして一番部屋の奥、普通の学校の教室にはふさわしくないような大きな窓のすぐ手前にこれまた高級そうな机――まるでどこかの社長室のような机があり、それを挟んで二人の少女が相対していた。

 ――星野鈴ほしのすず。俺の幼馴染だ。俺が小さいときから振り回されている女の子。

でもそんな彼女にどこまでもついていこうと思っている。負けず嫌いで、いっつも強気に振舞う彼女。昔からそうだった。彼女がこうなったときは大概俺が尻拭いするハメになるのだ。そんな俺のことはお構いなしに、その負けず嫌いがここでも発揮されようとしている。果たしてどうなることやら。

鈴は精一杯これでもか! というくらいに小さい背を伸ばして必死に机の前の相手に威圧感を与えようとしている。

「あんた、本当にムカつくのよ! 学校の裏山の木の数でも数えてくる?」

 鈴の髪は柔らかい栗色でセミロングの片方を編んでいる。

アホ毛を三本、まるで針ネズミのようにおっ立てて、机の前の少女に語気荒げに言った。俺は知っている。アホ毛がこうなるのは本当に怒ってる証拠だ。おー怖い怖い。

「なにを言ってらして? この貧乳でちんちくりんな貴女が。貴女は負け犬でしてよ? そんな大言吐ける立場ではありませんわ!」

 黒髪を腰の辺りまで伸ばした彼女、生徒会長となった登呂津きい(とろつきい)は負けずに鈴を睨みつけそう言った。

きいとは中等部に入ったころ知り合った。鈴とタメをはるくらいの負けず嫌いで、だから今こんな状況になっているのだ。そしてこういうパターンは今まで何度となく繰り返されている。

 鈴に見せつけるように椅子に座らず立ったまま胸を張って、その豊満な胸を強調するようにだ。この俺、縁屋漣へりやれんにとってはその乳は嫌悪の対象なんだよ。

 おえっ。思わず吐きそうになったわ。

 吐く素振りを見せた俺を無視して二人は更に口論を続ける。

「何が貧乳でちんちくりんよ、おっきいからっていいわけじゃないんだからね! むしろ醜悪よ、その物体は!」

 うんうん、さすが鈴。いいことを言う。確かに醜悪だ! その意見に賛成だ納得だ同意だ! そして鈴はひんぬー!

 すぐ隣の鈴の胸の辺りをちらりと見やった。うーん、すばらしい。

「同志縁屋っ! 何見てるのよ!」

「いえ、同志星野の仰せのとおりだと思いまして」

「ちょっとこっち向きなさい!」

「はいっ!」

 鈴に正対に向き合うと、鈴の蹴りが俺の股間を襲った。

「ググッ、賛同したのに」

 男の大事なところを押さえながらピョンピョンその場で跳ねる。野球のキャッチャーがやるみたいに。ポジションを元に! いや、男ならお分かりいただけるだろうが、ホント痛いんだよ、これ。女性の出産の痛みと比べたら大したことはないと思うけど、経験したら分かるよ、な。

 周りに直立している生徒会役員たちも憐れみの視線を投げかけてきた。男子の生徒会役員にアイコンタクトを投げかけた、辛さと痛さを。あ、視線反らしやがった。

 ちなみにこの『同志星野』『同志縁屋』というのは、鈴が気に入って彼女が使ったり俺や周りの人に使わせている言葉だ。中等部のころ、鈴がソ連の筆ひげおじさんことスターリンのことを偉く気に入って使い始めた。なぜ気に入ったのか、俺にはさっぱり分からないのだが。

 鈴はすでにきいのほうを向いている。

「どうして漣さまは、このちんちくりんの言うことに賛同なさるの? 世の殿方の多くはわたくしのような豊満な胸が好きなんじゃなくって?」

 そう切なげな視線を俺に送りながらきいは言うが。

 ――俺は巨乳が嫌いだ。

 俺は巨乳が嫌いだ。俺は巨乳が大嫌いだ。きいの胸の辺りを見てしまい、また吐き気をもよおした。世界中の男の九割九分九厘の男性が巨乳好きであろうとも(そうであってほしくないが)、拒否する! 拒絶する! 俺はでっかいおっぱいを断固として否定するッ!

 鈴のおっぱいときいのおっぱいを比べてみれば、それはまるで大阪天保山とエベレストの差がある。大阪天保山は日本一低い山だ。いや、山と言えるかどうかも微妙なくらいなほどだ。つつましげな膨らみ。だがっ。それがいい。

 そこへ眼鏡をかけたクールで知的な雰囲気を漂わせる男子、生徒会選挙で俺と同じく書記に選ばれた古師啓太ふるしけいたが、きいの意見にこう賛同した。

「全くです。胸の大きいは七難隠す。いや、きい様には七難などありませんが」

「その胸が七難以上の存在だと思うぜ」

「貴方は何も分かっていませんね」

 分かってないのはお前だ、啓太。なーんにも分かっちゃいない、このおっぱい星人が。

「きぃーっ、男の人ってどいつもこいつもおっぱいおっぱいって五月蝿いのよっ!」

「いや、俺は――」

 鈴の意見に賛同しかけたところで、鈴は「ばんっ」と机を両手で叩いた。

「胸の話とかはどうでも、いやどうでもよくはないけど、それよりも生徒会長のことよっ!」

 そうだった、話が脱線していた。おっぱいの話は大事だけどそれより大事な話をしにきているのだ。

「大体、あたしのほうが生徒会長にふさわしいと思うのよね」

「だから、貴女は生徒会長選挙に負けたのですわ。この学校の決まり。生徒会長選挙に負けた人は、生徒会には入れるけれど、副会長のポストにならなくてはならない、分かってらして?」

 鈴のアホ毛がぴくぴくと動いた。よっぽど腹が立っているらしい。

「でもっ、たった一票差じゃないの! こんなの誤差よ!」

 い、いや、それはやっぱり無茶な要求だと思うぞ、鈴よ。

「一票差でも勝ちは勝ちですわ。負け犬さん。貴女はわたくしの下で副生徒会長をやってればいいのですわ」

「きい様の言うとおりです。このような貧乳は生徒会長に相応しくない」

 鈴が啓太の方を睨みつけると、啓太も鈴のほうを睨みつけた。

 いや、啓太よ、胸が小さいほうが生徒会長に相応しいと俺は思うぞ。ただこちらには不利な材料しかない。きいの言うとおり、一票差でも差は差なのだ。だが鈴はまだ納得が行かないらしく、険しい表情だ。きいもまた鋭い眼光で鈴を睨みつけている。まるで龍虎の争い。いや、動画で見たぞ、ゆあしょっく!! そうだ、これはラ○ウとケン○ロウの闘いだ。あるいはドラ○ン○ールの孫○空とベ○ータか?

 見える、見えるぞ闘気が。

 …………

 そろそろ鈴を引かせるべきか。これ以上は不毛だ。横にいる鈴の肩をつんつんとつついた。

「鈴」

「同志星野って言ってるでしょ!」

「そろそろ引きどきじゃないのか? これ以上食い下がったってどうしようもないぞ」

 きいの顔が喜色に染まる。

「そ、そうですわ、漣さまの言うとおりですわ!」

「れ、漣……どうして?」

 きいに向けていた強い眼光が鈴の瞳から失われていくのが分かった。辛いだろう、だが仕方ないんだ。俺は自分自身にもそう言い聞かせる。

「あたし、ここから出て行く」

「鈴、お前」

 指をきいに突きつけた鈴はこう続けた。

「あたしはあんたなんかが生徒会長と認めないし、あんたの下につく気なんてないっ。ぜったい、ぜーったい認めない! 天地がひっくり返っても、地球が逆に回りだしても、あんたの下につく気なんてないんだからっ!」

 よく言った鈴! それでなきゃ鈴じゃない!

 啖呵を切ってぜーはーぜーはー荒い息の鈴を驚きの表情できいは見ていた。だがすぐに冷静な表情に戻す。

「分かりましたわ。出て行きたいなら出ておゆきなさい。わたくしとて貴女など必要していないですわ」

 この状況で俺がすることは。そして俺は決意を籠めてこう言った。

「さあ、行くぞ、鈴。鈴だけ出て行かせるわけにはいかないぜ」

 きいの表情が曇った。

「えっ!」

 鈴も驚きの声を上げた。予想外だったのか? 鈴にとっても。だけど俺は鈴の下僕。一生ついていくぜ!

「どうして? どうして漣さままで? 貴方は何も悪くないのでしてよ?」

「俺は、鈴に絶対ついていく、それが鈴の下僕たる俺の役割だからな!」

「どうして、鈴のことばっかり」

 きいが生徒会長の机からこちらに駆け寄ってきて俺の肩を揺らす、む、むねが、でかい、よ、寄るんじゃない、吐き気が……。

「うおぇっぷ!」

「きゃああああああああああああああああっ!」

 俺の食べたものが、吐瀉物がきいの体にぶちまけられた。

「ざまあないわ、きい!」

 鈴が俺を引っ張って、「行くわよ! 同志縁屋!」

「お、おう!」

 慌てふためくきいと、何とか吐瀉物を処理しようとする啓太をほっぽって、他の生徒会役員もほっぽって、俺たちは生徒会室のドアに向かっていく。

「絶対戻ってくるんだから! 覚えてなさい!」

 中指を立てた後、親指を下に下げる非常に下品なジェスチャー、いわゆるファッ○ューをする鈴にこう冷静にツッコミを入れてあげた。

「同志星野、それ本当に負け犬の台詞だからな。そのジェスチャーも下品だからやめとけ」

「うっさい!」

ごめんなさい。今連載してるやつは今日は更新なしです。これでお茶を濁します……。

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