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序、生誕

 人の住まう世界は、四つの国に支配されていた。ヤンム帝国、エウリア君主国、アズニー共和国、ラウグリア帝国の四カ国である。四つの国はそれぞれ位置している方角により、東国、西国、南国、北国と呼ばれた。少女は東西南北の四カ国のうち、最も北に位置する最も寒い国土にて、生まれた。


 少女の父親は線の細い音楽家であった。庭を通り抜ける風、野良猫の欠伸、暖炉の火、氷柱から滴る水、ありとあらゆる音をこよなく愛し、自らも美しい旋律を生み出した。彼の作った曲は世界へ浸透するほどの勢いはなくとも、小さな劇場などに緩やかに根付いていた。誰を脅かすこともない優しい広まり方は、彼の作る音とも彼自身とも酷似していた。

 それとは対照的なほどに、少女の母親は華々しい踊り子であった。舞台の上で光を浴びれば、鑑賞にきた客の目を引き決して離さない。彼女自身の生き様もその踊りに似て壮絶だったというが、少女を生んだ後、地方の豪族に雇われ姿を眩まし行方が知れない。父の手元に残されたのは、一輪の白い花。それは何の手がかりにもならなかった。父は必死で母のことを捜したが、ついにその痕跡を見つけることすら叶わなかった。 母の存在を知る者は多いが、誰もがその実体を知らなかった。人々は声を揃える。

 ——あんなに美しく舞う女は他にいない。

 人々が母について知っていたのは、その程度のことだけだ。そして、父が母について知っていたのも、その程度のことのみであった。

 母を探すことをついに諦めた父は、細々と曲をつくるだけでは娘一人養うことも出来ないのだと気付き、娘を世話になっていた劇団の長に預け、軍隊に入隊した。やがて戦火が勢いを増したのはそれから間もなくのことであった。父は軍隊に入ったきり、二度とは戻ってこなかった。少女の中の父親は、若い姿のまま老いることを知らない。せめて少しは娘に金銭を持たせてやろうと、父は財産の全てを売り払ってしまったために、形として父の存在を思い出させてくれるものすら少女には残されていなかった。

 ただ、父親の書いた曲だけが、少女の手元に、耳に、心に残った。それは少女の声を通して世界へと、微量ながら発信されていく。少女の声は異彩な輝きを放ち、たちまち有名になった。その声を武器に、彼女は生きていく術を手に入れるわけだが、それは両親が唯一少女に授けた宝物であり、特殊な『力』だったと言えるかもしれない。

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