クッキーはチョコチップ派
私の名前はニケリーシャ・ヅール・アゼル。アゼル王国の第一王女に転生したしがないゲーマーである。
そう、転生。私は転生者なのだ。普通に事故って死んだ転生者。
事故に遭って目を覚ますと産まれたてホヤホヤの子供だった私の心境を述べよ。あんさー、コレ夢かな?? である。
まあ今はもう転生の件は割り切っている。時々前世との技術やら文化やらの差に遠い目をすることもあるが、それはそれ。王女という贅沢な立場に転生したのだ。文句はない。
アゼル王国は世界的に見ても大きい国なので、貧困なんかも特段少ない。ここ数百年は飢餓や大災害も起きておらず、収益は安定している。
こんなに良い条件の国は中々ない。両手を上げて大歓迎な境遇だ。
……問題は、だ。
王女様らしい広々とした自室の鏡を覗いて、私は改めて言葉を失う。
びっくりするほど艶サラ手触りの銀髪セミロングに、ぱっちりとした淡い淡い桃色の瞳。顔立ちは華やかに整っているが全体のパーツは驚くほど華奢で、どこか危うい雰囲気がある。
十歳児らしい柔らかな頬に手を当てて、私は美少女にあるまじき胡乱な目をした。
「やっぱり、あのニケリーシャだよね……」
単刀直入に言おう。
私はどうやら、前世で読んだ小説のチョイ役に転生したらしい。
それは『愛と星屑の学び舎』という学園恋愛小説で、平民生まれのヒロインがとある男爵に拾われることで王立学園に入ることになり、そこで上級貴族達と愛を育む王道モノだ。
ヒロインは最終的に一番初めに出会った公爵令息と婚約する。それまでは他のキャラにちやほやされて、それはもう凄まじい逆ハー状態なのだ。
そして私は、その物語の悪役令嬢……ではなくて。
小説のラストで国王陛下に婚約を認められて喜ぶヒロインとヒーローに涙を飲んで精一杯の祝福をする第一王子、つまり兄を見て「兄様……」とその優しさに胸を打たれた的言葉を零した後、兄や弟と共にヒロインにおめでとうと声をかける。
そしてもう二度と出てこないという本当にチョイ役なのだ。
……うん、なんでこの役に転生したんだろうね? もっと良い枠あったと思うのよ。うん。
まぁでも、おかげで国トップクラスの待遇を受けれているから良しとしよう。
平民はあったか広々お風呂とか入れないらしいし。そう考えると王女様になれてよかったかも。
王女様、前世の私とは比べようもないくらいの美人だし。あれ、デメリットどこにもなくない? すごいな王女様。
現実かわからなくなったのでほっぺをつまんで見ると、ふみゅっとしたなんとも言えないお肌の弾力を直に感じた。おぉ、美人はほっぺも特別なんだな。
「……そういえば、原作には闇抱えてるキャラもいたっけ」
麗しの美少女フェイスを捏ねくり回していると、ふっと唐突に思い出した。
例えば、親に駒としか思われてないあざと可愛い系伯爵令息とか、両親が死んで愛というものを拗らせている遊び人侯爵令息とか、暗殺以外に生き方を知らないイケメン暗殺者とか。
一応好きだった小説だから、いつどこで誰が病むとか、どうしてそうなるのか全て知っている。なんなら暗唱できるくらいだ。
……これ、やろうと思えば全キャラ救済とかできるんじゃない? 王女という肩書きと前世の知識があれば、無謀じゃないかもしれない。
私なら、救済ができる―――。
「まぁ、やらないけどね」
だってそもそも他人の話だし。
鏡から離れて、ふっかふかの高級ソファに身を沈める。重いドレスを邪魔に思いつつ、すっかり冷めた紅茶を一口。
お茶請けのクッキーにも手を伸ばす。噛むとバターの香りと優しい甘みが口の中に広がった。
さすがは王家に仕える人間が作ったクッキー。とっても美味しい。欲を言えばチョコチップ入りが良かったけど。
サクサクと食べ進めながら、やっぱり救済はなしだなぁと思う。
無情に思われるかもしれないが、だってそうだろう。
よそにはよそのやり方があって、それに口を出すなんて余計なお世話だし面倒だ。
それに王女とはいえ私はまだ子供。紙上でしか事情を知らないにわか人間が介入したところで、一体なんになる?
息子を跡取りとしてしか見ない夫妻に「彼自身を見て」と言って、それで? 病死する予定の人間達を救って、それで?
一体私に何の利益がある?
自分や王家に不利益がかかるようならやっても良いが、そうでないなら別にどうぞご勝手にという感じだ。
そもそもキャラを救うのはヒロインであって、チョイ役の王女様なんかじゃない。
そんな偽善じみたことをして優越感に浸るより、私はチェスを指している方がよっぽど“らしい”。
私は、他人の人生なんて、興味ないのだ。
「あは、非情な人間っ」
自分で言ったことがなんとなく可笑しくて、自分の言葉に笑い転げる。
なんともまぁ、可愛くない性格に育ったものだ。自分で言うのもアレだけど。
でもこれは前世からなので、もう魂に染み付いてるんだろうなと思った。




