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8:かつて見送った君へ

特別教室が集まる棟の廊下に到着する。

通常棟から各階から伸びる渡り廊下を渡るだけで辿り着けるのだが…ここまでの足取りは非常に重かった。


「四季?」

「いや、なんか…会うんだなって、思ったら…緊張して。変だよね。こんなの」

「…変ではないさ。急に道を別つことになった友と、こんなところで再会できるだなんて、誰も想像出来やしないのだから」


虎太郎とは小学生時代からの付き合いだった。

中学も高校もなんだかんだ一緒で、これからも腐れ縁を続けることになると思っていた。

だけど、急にいつもの時間は終わって、僕だけが取り残された。


彼が亡くなったと家に連絡が来た日は、酷い雨の日だったことを覚えている。

雨音が周囲の音を消すように、現実までも消してくれないか———そう願ったのは、記憶に新しい。

しかし現実は常に非常。棺桶の中で横たわる虎太郎を見下ろせば…嫌でもそれが現実だと受け入れさせられた。


彼は死んでいる。この世にはもういない、僕の友達。

…どんな顔で会えばいいのか、分からない。

普段通りになんて出来やしない。

再び会えた事に対して嬉しさを全面的に出すなんて、演技でもできない。

嬉しさの中に、悔しさが混ざるから。


「…どう、接するべきだと思う?」

「君が思うようにしたらいいのではないかい?」

「それが分からないから、意見を聞きたいんだ…!あの日、僕が…彼を置いて帰らなければ…」


あの日、教室に忘れ物をしたと玄関から教室に引き返した虎太郎を待たず帰らなければ…きっと、何か変わっていただろうから。


「…そうか」

「…何で頭を撫でるのさ」

「君は君のままでいたらいい。嬉しいも、悲しいも、全部見せたらいい」

「…そんなこと」

「友人との再会を心から楽しめる空気でないとしても…共に過ごせる時間は今だけとなってしまっている」

「…」

「君のやるべき事は明確だ。この校舎を探索し、君が巻き込まれた事件の真相を追う」

「…ん」

「しかしこれは制限時間が決められている話ではない。次の被害者が出る前には決着をつけたいところではあるが…今しか出来ない一時を、楽しむ権利だって君にはある」

「…!」


「君は学生だ。事件を追うという役割ばかりにかまけていては、青春はできないぞ」

「…こんなところで、青春って」

「いいじゃないか。それにここにいる生徒と交流をするのも重要だと私は思うがね」


紘一は廊下を淡々と進みながら、背中で語る。

一緒には歩かない。導くように、前へ…進んで行くのみ。


「彼らは被害者であり情報源。遊んで仲を深め…彼らの協力を得られるように取り計らうのも、役割を全うするための一手だとは考えてもいいと思うのだが?」

「都合が良すぎるよ」

「もう少し、都合のいい思考をしてもいいと思う。君がしたいことを、出来る都合を形成したら良い。友人と穏やかな時を過ごすのも、君のやるべき事だと私は思うがね」

「そんな甘えは…」

「許しが欲しいのであれば、私が許すが」

「…そっか」


今だから出来ることを。

それもまた、必要な一手であるから。

本当に都合の良いことばかり、甘いことばかり並び立てて。

でも、それが心地良い。

本来であれば、お前はそういう役割があるのだから早急に役割を果たすべきだ。

なんて、言われたっておかしくはない。


「紘一は、役割を早く果たせとは…言わないんだね」

「まあ、被害者が増える前にとは思うが…肩の力を抜く時間だって重要なんだ。ずっと事件ばかり追っていては息が詰まるだろう」

「…それもそうだね」


事件に巻き込まれるまで、寝る間を惜しんで調査を続けていた。

ネットに張り付いて、授業中もスマホでニュースを追って…。

霞先輩は授業すらサボっていたっけ。流石にもうしていないと思いたいのだが…僕のせいで本格的にサボりだしていては申し訳が立たないな。主に霞先輩の保護者に…。


「と、言うわけで到着したぞ。理科室だ」

「…」

「私がノックをしようか」

「い、いや!いい!ここは僕がする!紘一じゃ、不審者だって思われかねないし…」

「それもそうだな。じゃあ、お願いするよ」


到着した先。前へ進んでいた彼に背中を押し出されながら、扉の前に立った。

ドアの前で拳を作り、恐る恐る叩いてみる。

しばらくすると、布が擦れる音と共に…扉の先から声がする。


「…誰だ」

「…虎太郎」

「…俺の名前を言った程度で信用されると思うな。七不思議が横行していることは俺たちでも把握している。「声真似」をしてくる奴もいる。何か俺とお前の共通した思い出でも言ってみろ。奴は記憶まではコピーできないからな」


…「声真似」ってなんだ?

それに七不思議って…黒板にも書かれていたよな。

まあいい。とにかくまずは虎太郎の要求を果たそうじゃないか。


「小学三年生の時。おばけが怖くてトイレに行けずおねしょをした虎太郎が、僕におねしょの罪を被せたせいで、しばらく僕がおねしょマン扱いされ———」

「これ以上はいい…本当に四季なのか?」

「むしろその思い出で僕だって判別するんだよ。そうだよ。お前と小学校から腐れ縁やってる今坂四季だよ」


理科室の扉が開かれる。

血色のいい肌色を持つ、金髪を揺らした背の高い青年。

一ヶ月前まで、ほぼ毎日見ていた元気そうな顔。


「…なんでお前まで」

「まあ、積もる話もあるんだ。僕の相棒と一緒に理科室へ入れてくれると助かるかも」


西間虎太郎は僕の姿を見て、苦しそうに顔を歪ませる。

彼もまた、こんなところで僕に会いたくなかったらしい。

それでも僕らは再び巡り会う。

常世の、日和見高校で。

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