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Ghost Mirror ―鏡合わせの七不思議と常世の生者―  作者: 鳥路
第一章:澄んだ世界を合わせたら
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14:理科室の四人

「ふわぁ…」


屋上前から理科室へ帰還する中、魚澄は欠伸を出す。

思えば、私もだが…昨日の就寝前、眠気は覚えていなかったな。

勿論肉体的な疲労はない。精神的に疲労を感じる部分はあるが…睡眠に結びつく疲労ではない。

おかげで私は寝たふりをした後、全員の睡眠傾向を観察することが出来た。


虎太郎は鼻提灯まで出してぐっすりだった。寝相も非常に悪い。これは元々だろう。

四季と魚澄は眠りが浅かった印象だったな。

魚澄は妙に魘されていたから、定期的に背中を撫でてやっていた。


四季は何の反応もなかったな。寝ているふりをしているのかと誤解するほどに。

だけど実際は睡眠を行っていた。

完全に熟睡していた虎太郎。

「眠る」と決めない限り、眠ることがない私。おそらく四季も同じだろう。

四季が寝ている時は、眠気とかではなく「寝る」と決めた後なのだから。


最後に魚澄。

こうして欠伸をしたり、彼だけに眠気があるというのは不思議なものだ。

…死が確定している虎太郎。生死の境に立たされている私と四季。それぞれで反応が分かれている。

まさか…な。


「眠いのか、魚澄」

「ええ、まあ…ここに来てから、眠気が何度か…まあ、寝たら治るんですけど…あんまり寝たくはないんですよね」

「どうして?」

「身動きできない状態で、ゴミ山を泳がされている夢を見るから」

「それは…いやだなぁ…」

「でしょう?しかもそれが確定なんですよ。だけど眠いから寝ないとまともに行動出来ないので…仕方無く…」


なかなかに難儀な仕様らしい…可哀想なものだ。変われるものなら変わってやりたい。


「まあ、寝なくたってまともに行動はできませんけどね」

包帯に包まれた右目にそっと触れる。

「…片目のことか?」

「ええ。まだ片目だけの生活に慣れなくて」

「…」

「これでも昔は陸上をしていたんですよ。地方大会までですけど、大会にも出たことありますし…ま、過去の栄光ですが」

「水泳では、ないんだな」

「ええ。魚ですが、陸を駆けています。なんなら水泳は苦手です。犬かきで二十五メートル泳げるぐらいです」

「それで二十五メートル行けるのは…ある意味十分だと思うぞ」

「よく言われます」


こうして身の上話をしてくれているのは何故だろうか。

彼はまだ私を不審者として警戒しているはずだが…。


「…あの」

「どうした?」

「一つ、気になることを聞いても良いですか?」

「どんなことでも」

「実は…夜中は何度か起きていて。貴方が起きていたこと、知っているんですよね」

「ふむ…」


「…俺の背中を撫でていたのは、何故ですか?」

「君が魘されていたから。少しでも和らげることができたらという一心だ」

「…あの時間帯なら、四季先輩や西間先輩の目はありませんでした。好きに行動できたのではないでしょうか」

「そうする理由がなかったからな」

「…貴方の目的は」

「記憶を取り戻すことだけさ。それ以外には何もないよ」


また一つ、嘘を吐く。

正直者でありたいが、四季を無事に現世へ帰すため。仕方の無いことだと分かっていても…抵抗は、少なからず。

理科室に戻ると、そこには既に戻ってきていた四季と虎太郎が向かい合って座っていた。

私達が来たことに気付いて、顔を上げてくれる。


「紘一、魚澄。おかえり」

「ああ、ただいま」

「…大丈夫だったか、魚澄」

「ええ。まあ。そちらはどうでした?穂上先輩…」

「途中で媽守先輩が帰ってきたのは想定外だったが、穂上先輩の協力は取り付けられたよ。ほれ、これが七不思議の記録ノートだ」

「なるほど。片方は成功したんですね…よかったです」

「屋上の柵を壊した甲斐があったな」


「その件だが、なんでそんなことしでかしてんだよ不審者…」

「多分、向こうの繁栄を狙ったんだよね」

「…反映、ですか?」

「うん。職員室の鍵貸出リストが更新されるみたいに、定期的にこの世界と現実の学校には同期らしきものが行われている。詳しい条件とかはまだわからないけれど…魚澄の話を聞いて確信した部分が一つ。扉とか鍵…学校備品の破壊は明確に反映されている」

「…もしかして」

「うん。食堂の鍵の事。十一月の頭ぐらいに、何故か壊れていたって話を聞いたんだ…誰が破壊したのか持ちきりだったけど…」


そういえば、そういう話もあったな。

食堂の鍵が何者かに壊されていた。ただ、犯人は未だに見つかっていない。

業者を入れることは決定したが、時間とお金がかかるとの事で、しばらくは立入禁止のビニールで扉を封鎖し、割れている硝子部分は板で塞いでおこうという話になっていた。

…定期的にその紐が緩んでいた理由も気になっていたが、千尋君の仕事だったらしい。


「零咲先輩が壊した鍵が、同期で向こうにも反映されて…」

「その結果、人為的なのは確かなのに、誰が壊したか分からない鍵が完成した…ということでしょうか」

「多分ね。その仮説が正しいのなら…」

「私が破壊した屋上の柵も現世の学校で原因不明の故障が発生するはずだ」

「その結果、屋上というかその周辺は自然と立入禁止になると思うんだよね。紘一が狙っているのは、屋上周辺の封鎖」

「ああ。封鎖されることで想定外の足は封じることが出来るだろう。連絡手段を常設するためには必要な事なのさ」


まあ、全ては上手くいってくれたらの話だが…。

竜胆君、蘭太郎。君達には「事件に首を突っ込む」という危険な真似も同時にさせているが…今、何をしているのだろうか。

教え子にこんなことをさせるだなんて、本当に教師失格だな…。

二人とも無事でいてくれたらいいのだが…。

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