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Ghost Mirror ―鏡合わせの七不思議と常世の生者―  作者: 鳥路
第一章:澄んだ世界を合わせたら
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現世4:情報は足で集めろ

呆然と千々石を見上げながら、彼に腕を引かれてレジに連れて行かれる。

バットは一本にした。私じゃ流石に武器に出来なさそうだったのだが、千々石は「護身用に持っておけば良い」と言って聞かなかった。

偽装のグローブとボールも購入したので、今から野球を始める高校生コンビのできあがり。

ヘルメットは土木作業用だけど…スポーツ用が売っているわけではないし、一般人が急に野球をし始める…セットとしては妥当どころだろうか…。


宣言通り、千々石は例のクレジットカードで支払いを行っていた。

あいつにとってはこういうのが当たり前。

何でも買ってもいい。変なのを買っても咎められることはない。

今回の買い物だって「どうして買ったのか」とか「これで何をしたのか」なんて聞かれることはないのだろう。

無表情で会計を済ませるあいつの姿を遠目に眺め、寂しさを覚えたのは…言うまでもない。


それからバス停まで移動して…寿司屋露河最寄りの停留所まで移動を開始した。

二人だけでバスに揺られている間、どう言葉を交わしたものかと思案する。

千々石蘭太郎。三年の間でも校長室でサボりを果たした変人で秀才と聞き及んでいた。

ただ、それだけの人間で…これから先も関わることがないと思っていたので無関心を貫いていたが…これからはそうもいかない。

私達は相棒だ。成り行きでも、相棒なのだ。

…これから長い付き合いになるんだ。少なからずの歩み寄りというものは…必要だと思うんだよね。

でもなぁ…流石にこんな特殊環境出身とは思わなかった…。どう接したものか…。


「…どうした、竜胆」

「千々石が相当おかしいところで育っているようだから、これからどう接したものかと思案していたところ」

「正直すぎやしないか…?」

「ここで嘘吐いてもな〜って感じだったからね」

「…ふむ」

「なにその顔。表情変わらないから何考えているかわかんないんだけど」

「少し、納得をしていたところだ」


「さっきまでの会話に、納得する部分ってあった?」

「…竜胆のそういうところが、媽守も付き合いやすかったんだろうなと。言葉を選んでいる様子ではあるが、言える時はちゃんと言ってくれる。素直な人間だ」

「…そ」


素直さがお前の取り柄だと、お父さんはよく言ってくれていた。

こうやって性格を褒められるのは…嬉しいかも?


「さて、竜胆。気持ちを切り替えて、露川魚澄の件だ。予め作戦を立てておこう」

「流れが急だな…」

「時間をかけるべきところはかけなければいけないが、それ以外はできる限り削減する必要があるからな。暇な時間は無いぞ、竜胆」

「へいへい…それで、露川家に行くとして、どうやって入るの?」

「ん」

「…なんだその手は。昨日も同じようにしてきたよな…?」

「女子だろ?ヘアピンぐらい持ってるよな?二本ぐらい」

「全ての女子がヘアピンを使っていると思うなよ…!ちょうど持ち合わせがあるけどさ…!」


鞄の中からヘアピンを二本取りだし、千々石の手に載せる。

彼はそれを持ち上げ、小さく溜息を吐いた。


「…玉がある」

「我が儘言うならコンビニでヘアピン買ってこい…。百五十円で二十本ぐらい買えるだろ…」

「安心しろ。俺を誰だと思っている。これぐらいのハンデ、造作も無い」

「…まさか、それでピッキングでもすると?」

「仕方無いだろう。合鍵無いんだから」

「…それはそうだけども、堂々と犯罪宣言するんじゃないよ」

「緊急事態だ。致し方がない。なんなら窓ガラスをぶち破ってもいいんだが…」

「絶対にやめろ」


話している間に最寄りの駅に到着する。

バスを降り、周囲を見渡してみた。

住宅街のように見えるが、普通の民家の隣に個人が経営していると思わしき店がいくつか並んでいる。

商店街とは言い難い。だけどここは確かに地域に根付いた店が点在しているエリアと見受けられる。

人通りも、割と多い。


「…露河は、あっちだな」

「こっちだよ、千々石。スマホ片手に逆方向へ闊歩するな。それに露河に行くのは後だ」

「すまんすまん。ん…?後?」

「現在の情報が欲しい。周囲へ聞き込みを行うぞ」

「ほう。どんな風に?」

「まあ見てなって…」


手始めに、近くのスーパーの場所を探す。

その近くに移動し、買い物帰りと思わしき人物にいくつか当たりをつける。

出来れば年配の女性か男性…どちらでも構わない。

初対面の相手にこう思うのは失礼極まりないが…口が軽そうなのがベストだ。

条件に適合しそうな人物が露河方面に歩いていく。

私はその人物を追い、声をかけた。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」

「はいはい。なんでしょう」

「私、日和見高校の生徒で…ボランティア部をしているんです」

「まあまあ」

「実のところ我が校は不登校が多くって…こうして、ボランティア部の活動で不登校生徒の自宅訪問や相談相手になる活動を行っていたりするのですが…」

「立派ねぇ」

「この近くにあったお寿司屋さん「露河」の息子さん…露川魚澄君に会いに来たんです。だけど道に迷っちゃって…どう行ったらいいか、ご存じだったりします?」


露川魚澄の名前が出た瞬間、婦人の顔が凍り付く。

…何か知っている様子。幸先が良い。一発目から当たりを引けた。


「わかるけれど…悪いことは言わないわ。このまま引き返した方がいい。あの家のお父さん、おかしくなっちゃっているから…」

「おかしい、とは?」

「お店が廃業して、奥さんにも逃げられて…ものすごく荒れちゃって、毎日の様に大量のお酒をあおっては、ご近所の壁とか壊しているって聞くし…。春先は魚澄君の泣き声が絶えていなかったの…。警察にも何回も通報されているのに、肝心な時には収まっているから、引き離すことも出来ていなくって…」


「…虐待、ですか?」

「ええ。私含めて児相にも連絡しているけれど、全然でね…今日はお父さん、出かけているところを見たけれど、いつ帰ってくるか分からないわ。何かある前に…ね?」


声をかけた婦人はかなりご近所さんで、露川家の外出事情を確認できるほどらしい。

出かけているのは好都合だ。侵入しても、バレにくい。

婦人は逃げるように去って行く。

私と千々石は顔を見合わせて、肩をすくめる。


「手際が良いな、新聞部。いつからボランティアを始めたんだ?」

「将来ボランティア部へ一時的に入って、嘘を事実にしておくよ…で、今の状況はどう?」

「最善だ。だが、危険の度合いが向上している。家には俺一人が侵入を果たそう。犯罪行為で失うものもないからな」

「…周囲からの信頼は失うだろうから、そこは申し訳なく思っておくよ」

「ん。竜胆は外部で待機。父親らしき男がきたら、連絡を寄越してくれ。」

「ワン切りで教えてやるさ。必ず逃げろ」

「状況次第だな」


婦人を追い越さない程度の歩幅で、私達は露河への道のりを歩いて行く。

よい子が決して真似をしてはいけない作戦を、始めよう。

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