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Ghost Mirror ―鏡合わせの七不思議と常世の生者―  作者: 鳥路
第一章:澄んだ世界を合わせたら
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現世2:迷っている場合じゃない

現実に帰りたくない。

一番現実に戻ってきて欲しくて、その手段を探し続けていた親友。

そんな彼女から直接帰りたくないと言われるだなんて、思ってもいなかった。


「…私は今まで何してたんだろ」


鏡の意志なんて考える事無く、自分がそうして欲しいことを押しつけて…調査を進めて、鏡の事件までに四季を含めて三回の事件。五人の被害者を出してしまっている。

私がしてきたことの意味って、あっただろうか。


「…竜胆。ここにいたか」

「…あー。ごめんね、千々石。校長、なんて?怒ってた?」


自分の教室。自分の席。

項垂れていた私を追いかけてきたのか、千々石は私の前の席に腰掛けて様子を伺い始めた。


「心配そうにしていた。媽守とお前を会わせて、こうなった手前…ここにいたなら駆け付けたかっただろうと思う。紘一先生ならそうする」

「解像度高すぎるでしょ…ほんと」

「…まあ、一年の頃からほぼずっと一緒にいたからな」

「…私と鏡と変わりないじゃん」


鏡とは高校時代からの関係だ。互いを名前で呼べるようになったのも、三年生に進級してからだけど、それでも私達は親友だと思っていた。

そう、思っていたのは私だけだったかもしれないが。


「思えば、竜胆は二組というか、普通科だよな」

「そうだね。名前さえ書いとけば合格できるって噂の普通科だよ」

「でも、竜胆はうちの連中差し置いて上位陣に来てるよな?」

「まあね…ま、それが鏡と関わる理由って言うか、きっかけになったんだけど」

「へぇ、どんなきっかけだ?」


「うちの学校さ、二年時なら転科できるじゃん。普通から進学とか、その逆も」

「ああ、そういう仕組みがあるらしいな」

「私、一年の頃からそこそこ成績良くて、進学科の半数よりよかったから…鏡が勧誘しに来たんだよね。普通科じゃなくて、進学科に来ないかって」

「よくやるなぁ」

「私もそう思ったよ。教師でもないのに何でそんなことって思ったけど…鏡は、純粋に実力がある人に、実力相当の場所で活躍して欲しいって考えられる人だっただけなんだよね」


「へぇ…」

「それから、ああ見えて凄く寂しがり屋。一緒に頑張れる人とか、理解者とか…探していたんじゃないかな」

「なるほどなぁ…」

「ま、そんな感じだったけど、私は進学目指しているけど、大学目指しているわけじゃないからさ。進学科は断ったよ」


「別に進学科にいても就職して良いと思うけどな」

「その進学先が、警察学校でも?」

「警察官を目指しているのか?」

「うん。お父さんみたいにね」


「父親の後を追ってか」

「正確には、伯父さんなんだけどね。私の両親、事故で亡くなって、身内が伯父さんしかいなかったから…」


両親が亡くなったのは、私の物心がつく前だ。

だから両親がどんな存在だったかはわからないし、男手一つで弟が残した娘を必死に育てた伯父さんの姿しか覚えがない。

だから私は伯父さんのことをお父さんと慕う。そう言った時、伯父さんは「自分で良いのか」と複雑そうにしつつも、泣きながら喜んでくれたのをよく覚えている。


私は伯父さんとは親子じゃない。

だけど、親子。

私は伯父を目指すべき父親として慕っている。

伯父は可愛い娘として姪を愛でつつ、背中を押して、時には厳しく接してくれる。

ちゃんと親子をやれている。


「…お前は実の親子でもないのに、親子をやれているんだな」

「そうだねぇ。そして憧れでもある」

「…羨ましいものだ。で、竜胆」

「なにかな」

「お前は、やりたいことの対話まで果たした媽守鏡という存在の帰還を諦めるのか?」

「…諦めたくないよ。鏡には絶対に帰ってきて欲しい。彼女に恨まれても、私はもう一度ここで鏡に会いたい」


ちゃんと言葉で願いを口にする。

きっとそうしたら、ブレていた意志が再びまっすぐになると思ったから。


「それなら、やることは一つだな」

「ん。調査、勧めないとだね。まずは露川君。それが終わったら」

「媽守と穂上の調査だ。やることはまだまだ残っている。こんなところでへこたれるな。媽守がダメでも、お前にはまだこちらに戻さないと行けない後輩がいるだろう」

「そうだね。四季の為にも、頑張らなきゃね」


両頬を叩き、意識を元通りに。

迷っている暇はない。


「———ちゃんと、やらなきゃ!」

「その意気だ。と、いうわけで早速行くぞ。詳細は移動中に話す」

「お、おうとも…。でも、どこに?」

「寿司屋「露河」。調査は終わっていないが、気になる情報が手に入った」

「ど、どこから…?」

「担任の教師からだ。寄る前にホームセンターでヘルメットとバットを買うぞ」

「おいおいおいおい千々石。もしかしなくてもカチコミにでも行くのか〜?」

「事実そんな感じだな」

「うぇ?」


冗談で言ったのに、彼は冗談ではないと言うように真顔をこちらへ向けてくる。

…今ならまだ間に合うよ。冗談だって言ってよ。


「とりあえずのノリで、一年の担任に露川の情報を聞き込んできたんだが」

「本当に行動が早いなお前…で、なんて?私には答えてくれなかったけど…」


私も最初、一年の教師陣に聞き込みを行おうとしたことがある。

だけど教師陣は生徒個人に関する情報は教えてくれなかった。

相手が千々石だとしても、変わることはないと思うのだが…。


「ああ、俺も最初は渋られたが…俺たちには誰がついている?」

「?」

「「自分に何かあれば、水曜日の被害者達を気にかけておいて欲しい」と、紘一先生から伝言を受けていると言えば一発だった。教えてくれたよ、学校側が把握している露川魚澄の情報」

「それでいいのかよ!」

「それでいいんだ。使える材料も、人脈もちゃっかり使え。今度からこれを使って教師陣から情報引き出せよ。紘一先生の名前は便利だからな」

「まあ、校長だからね…」

「とりあえず、だ。露川魚澄は五月以降、父親から「しばらく欠席する」としか連絡が来ていないそうだ。入院するとかもそういう話は聞いていない。追加で連絡が入った等の話もなし」


軽快な空気を律するように、彼は真剣な面立ちで事実のみ告げる。


「…病院にすら、連れて行かれていない可能性がある?」

「ああ。かなりまずいかもな。生きていれば良いんだが」


結果がどうであれ、私達は急がなければいけないだろう。

露川魚澄君。生きていればいいんだけど…!

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