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龍の髭  作者: 富樫 聖
9/15

番外編 タオの独り言

本編が終わってないのに、いきなり番外編です。


本編の主人公であるシアの弟のタオ君の話です。

といっても、シアネタですが。



(ああ、まただよ……)


 広場にある共有の井戸の近くで女の子に囲まれている自分の姉を見て、タオはため息をついた。

 6~7人はいるだろうか。

 皆がタオの姉であるシアに話しかけている。


「シア、この間はゴロツキから守ってくれてありがとう。お礼にケーキ焼いたから食べてね」

「花屋のレイファに付きまとっていた不良を一喝してくれたんだってね。彼女、すごく助かったって。お礼言って欲しいって頼まれたよ」

「この前見損ねた芝居、再演するんですって。ぜひ今度は見に行きましょうよ……一緒に」

「あ、私も行きたい! (小声で)抜け駆けは許さないからねっ」

「裏通りでハバきかせてたやつら、シアが追っ払ってくれたんですってね。おかげで安心して通れるようになったわ」

 等々。


 彼女達は芝居の人気俳優を見るようなキラキラした目でシアを見つめている。

 しかしシアはそんな彼女たちの異様な崇拝感情に全く気付いていないようだった。


「わあ、ケーキありがとう。家族みんなでいただくね」

「たまたま通りかかったら男に絡まれてて、追い払っただけ。お礼なんていいのに」

「あの芝居、再演するんだ! 今度こそ見にいこうね!」

「うん。みんなで芝居見にいこうよ」

「裏通りでお金巻き上げたり、女の子に絡んだりしていたからね、あいつら」


 シアにしたら、友達と水汲みの時間におしゃべりしているつもりなのだろう。

 だから、彼女たちがシアが井戸に水汲みに出てくるのをじっと待っていたのも、シアに近づこうとする男をにらみつけて威嚇しているという事実に全く気付いていなかった。


(なんて不憫な……)


 タオの二つ年上の姉のシアは美人だ。

 美人で器量よしで評判だった祖母の若い頃によく似ているらしい。

 すらりとしたバランスのよい肢体。出ているべき所は出ていて、引っ込んでいるところはキュッと締まっているプロポーションはバツグンだ。

 彫りの深いはっきりとした目鼻立ち。

 濃い茶色の艶やかな髪。

 性格だって良いし、何をやらせても一通りのことは出来てしまう。

 モテる要素満載の自慢の姉なのだが……。


 困ったことにやたらと強いのだ。

 ついこの間亡くなった祖父の影響で、幼い頃から剣や護身術を仕込まれたシアは、今では男も太刀打ちできないくらいの猛者もさになってしまった。

 祖父にしてみれば祖母似のシアには自分で自分の身を守れる技術が必要だと考えたのだろう。

 だが、シアのレベルは自分の身を守るためを遥かに超えてしまった――。


 友達に絡んでいた男をあっという間に倒す。

 裏道にたむろって通行人を脅かしていた不良グループを叩きのめして街から追い出す。

 強盗グループを半死半生の目に遭わせて、警備兵に引き渡す。

 などなど。


 そして数々の武勇伝の結果、シアはすっかり近所の若い女性の王子様になってしまったのだ。

 そのことがシアの異性交友関係にすっかり影を落とした。

「あたしってお転婆でモテないから」

 なんてシアは恋人がいない理由をそう認識しているが、事実はそんな軽いもんじゃないのだ。

 シア本人は全然気付いていないが、外に出ればシアに彼女目当てで近づける男はいない。

 彼女に声をかけようとした男は例外なく女性の集団ににらまれ、脅されて引っ込まざるを得なかったのだ。

 シアは決してモテないわけではなくて――美人で器量良しなので憧れている男は意外と多い――取り巻きの女性のせいで、男から巧みに遠ざけられているだけなのだ。

 今では安全だと思われる男、つまり老人、既婚者、子供しか近づくことを許されないでいる……。


(姉さん……かわいそうに)

 この状況を思うとタオは涙せずにはいられない。

 この調子では確実にシアは売れ残る。

 取り巻き全部に恋人ができる&結婚してシアから離れていかない限り、男は彼女に近づけないのだから。

 かといって自分では事態をどうにかできるわけもない。

 何度かシアに気がある友達を家に呼んでみたものの、すぐ取り巻きにかぎつけられて散々釘をさされたらしい……。

(女って恐い……)

 二次被害としてこのままではタオまで女性不審に陥りそうだ。

 ほんの一握りの友人(王家フリークのアゼリア含む)以外、ここら辺の若い女性は全てシアのファンなのだから――。


 井戸の近くでシアを囲む女性陣の異様な熱気を離れたところから生暖かい目で見守りつつ、タオはため息をついた。


 女性の脅迫なんて意に介さない男がシアを好きになってくれればいいのに、とタオは切実に思う。

 だが、ここら辺の町人である限りそれは無理そうだ。

 貴族とか、離れた街の豪商とか理想的なんだけどなぁ……。


(あ、でもシアの男性の好みのこともあるか)


 以前、冗談だか本気だか

「好きな男性のタイプ? あたしより強い人かな~」

 なんて言ってたし。

 その条件に見合うのって、兵士とか城の騎士とか冒険家しか居ないような気がする。

 それ以前に初恋もまだだというあの姉に恋愛感情が理解できるかどうかも問題だけど。


 タオは再びふかーいため息をついた。


 貴族でも豪商でも、兵士や騎士でも冒険家でも、このさい王子様でもなんでもいいから。

 ああ、神様。

 誰かわが姉シアに春を運んでやって下さい―――



 そのタオの願いは1年後に果たされる……かもしれない。

意外に姉思いのタオ君の苦悩(笑)の話でした。


そのうちまたタオを主人公にした番外編を書きたいです。

本編終了後とかに。

あと、王子様サイドの番外編とかも……。

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