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つま先税

作者: 雉白書屋

『速報です。総理は先ほど、新たな税制として「つま先税」を導入すると発表しました。これは国民一人ひとりが持つ“つま先の数に応じて”課せられる税金で、徴収された税金は身体障害者などへの補助金に充てられるとのことです』


 テレビのアナウンサーがそう伝えた瞬間、全国が凍りついた。  

 怒りの炎が燃え上がることはなかった。誰もがすでに悟っていたのだ。どれほど声を上げようと、政府は聞く耳を持たない。次々と新税を導入し、国民から“健康的で文化的な最低限度の生活を営める”そのギリギリまで容赦なく搾り取るつもりなのだと。

 ただ、さすがに『つま先税』という言葉には多くの人が疑問を抱いた。

 それには、テレビのコメンテーターたちが答えた。


『つまりですねえ、足の指一本につき税金がかかるということなんですよ。つま先があるだけありがたいんだから、感謝して払いましょうってことですね』


『事故や労災で指を失った方が慰謝料をもらえるケースがありますが、これはその逆ですね。指があるからお金を払う。実に合理的で先進的ですね』


『人々は指があることを当然と思いがちですが、この時代、もっと視野を広く持つべきですね。徴収された税金の使い道を見れば、悪い制度ではありませんよ。これに反対する人は差別主義者ですね、ええ』


 スタジオに並ぶコメンテーターたちは、誰もが新税に肯定的な立場を取っていた。もっとも、それは政府の意向を汲んだ発言だった。だが、どれほど理屈を並べられても、進んで税金を払いたがる人間などいるはずがない。そうして、世の中では思いもよらぬ流行が始まったのだった。


「おー、タケさん。久しぶり。元気してた?」

「いやあ、へへへ……まあ、今は気分がいいかな」


「どうしたんだい、その歩き方。怪我でもしたのか?」

「いやあ、やってきたんだよ。ほら、ちょっと待ってな。靴を脱ぐから……よっと」


「なんだ? え……まさか、その小指の包帯……」

「そうなんだよ、ひひひ……医者に頼んで、一本切ってもらったんだ。年金も減らされたし、こうでもしないと暮らしていけないからねえ」


「だよなあ。……実は私も、ほら」

「うへあ! すごいな! 四本もいったのかい!? こらあ、おれも負けてらんねえなあ!」


 節税のために、自ら足の指を切り落とす者が続出したのだ。病院には連日、長蛇の列ができ、『指切り手術』が新たなブームとなった。やがて、つま先専門のクリニックが次々と開業し、新たな一大産業へと発展した。

 しかし、国民の大半がつま先を失い、つま先のない人向けの靴が一般化し始めた頃、総理は新たな声明を発表した。


『「手指税」の導入が決まりました。これは、つま先税と同様に、手の指の本数に応じて税金を課す制度です』


 テレビの前で、国民は深く重いため息をついた。そこには怒りも驚きもなかった。こうなることは予想していたのだ。

 なぜなら、ポリティカル・コレクトネスが徹底されるこの時代、新たに政権を握った平等党の総理には、手足がなかったのだから。

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