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第一章 一話 二次元への転移

──は?


ここはどこだ。

たしか俺は自分の部屋にいたはずなんだが。

頬を撫でるやや冷たい風に、遥か先まで見渡せるくらい広い草原。

見慣れない光景。


「まさかここは──異世界ってこと!?」

いつもとは違う非日常。子音はテンションが上がる。

まじか。

そしてあそこにいるのは─

「スライムだー」

草原に幾らかのスライムがいることに気づく。


やばい。本当に異世界に来たんだ。

いつもは鬱陶しく感じていた日差しが気持ちよく感じる。

おお。水色のスライムが近寄ってきた。

なんともかわいらしい生き物なんだ。

魔物だけど。

「やば。ひんやり。触った感じ俺の世界のスライムと変わんねぇなー、うわ!」

いったい何が起きた?

なんだこれ。

スライムに包まれたのか。

いやこれは飲み込まれたというべきか。

冷たい。寒い。

てか、息できない。苦しい。

あれ、これやば、い。


「がぼぼぼぼ」

スライムの中って意外と水っぽいんだな。

いやそんな悠長なこと思っている暇なんてない。

どうにかこの危機を脱出しないと。

よく考えろ。俺は異世界に召喚されたんだ。つもり異世界に来た俺は何らかの魔法を─。


「─木属魔法」

女の人の声が聞こえる。助け─


「大地に、自然に、草木に還れ」

女性の声が聞こえると同時に、水色のスライムが地面の草に飲み込まれるように吸収されていった。

子音は草原に膝と手をつく。


「げほっ。はっはぁ、はぁ」

なにが起きた。いや魔法だ。これが魔法か。すげぇ。


「げほっ」

くそ。窒息するかと思った。

あのスライムの中、ぬるぬるした液体になっていて、息できないし。逃げることすらできなかった。恐ろしいな。


「ちょっと大丈夫ですか」

窒息しかけた俺に小柄な女の人が心配そうに声をかける。


「大丈夫じゃねーだろ。スライムの体液が口の中に入ったんだろ」

大柄でいかつい男性がそれを否定する。


「水ありますよ。飲みますか」

「あ、ありがとうございます」

もう一人のスタイルのいいお姉さんから水の入った筒を渡され、それを一気に喉に流す。

「ぷはっー。死ぬかと思った」


男2人に女2人。

恐らく服装からして冒険者パーティーだろうか。

流石異世界。冒険者もかっこいいな。


「しっかし、火属性のスライムじゃなくてよかったな。もし火属性だったら全身大やけどだったぞ」

火属性のスライムか。ということは今のスライムは水属性の類だったのだろうか。


「あっ。えーと。皆さんその助けていただきありがとうございました。

特にそちらの方は魔法まで使っていただきありがとうございます」

木属魔法と言ったか。恐らく草を操り、水属のスライムを吸うといった原理だろうか。


「いいのよ、あれくらい。ところであなたどこから来たの。見ない服装に見ない食べ物を持っているのね」

ああそうだ。

服はともかく菓子パンもついてくんだな。持っていたからか?

いやだとしたらテレビのリモコンはどうしてついてこなかったのだろう。


「そもそもあんちゃん。どうしてこんな何もないところにいるんだ。見た感じ冒険者でもなさそうだし。どこから来たんだ」

「そもそもですよ。こんな遠くまでどのようにここまで来たのですか」

「あっ。えーと」

ガタイのいい冒険者。眼鏡をかけた、いかにも知的そうな冒険者に質問を投げかけられ困惑する。

どうしよう。

見るからに怪しいよな、俺。

こんな服だし。

こんな何もないところに一人きり。

いっそのこと転移したこと言うか。いやまだこの人達のことあまり知らないし。


「ちょっと困っているでしょ。ねぇ君。もし良かったら近くの街まで連れてってあげようか?」

救いの手だ。今後のことも街へ行けばどうにかなるだろう。答えを渋る必要なんてない。


「是非、お願いします!」


***


──気まずい。

馬車の中の空気はとても凍り付いていた。


一通り自己紹介を終え、少し雑談したのち会話が尽きた。

もともと会話デッキがないに等しい。加えて会話の返答も下手。

相槌しかしないときもある。そりゃ会話も尽きるわ。てか、コミュ力ないって言うけれどさ、会話が尽きた時点であんたらもコミュ力ないよな。


一人の冒険者の顔が目に入る。

またこの顔だ。君と会話していても楽しくない。つまらない。そんなことを露骨に表すような顔と目。そうやっていつも友達作りに失敗してきた。


嫌なことは思い出すな。気を取り直していこう。

俺の異世界生活はこれからじゃないか。


そうして結希子音を乗せた冒険者は、凍り付いた馬車の中近くの街へと向かっていった。


***


──街中。子音は助けてもらった冒険者一同と別れ一人冒険者ギルドへ向かっていた。

別れ際、この街について色々と教えてもらった。

その時冒険者ギルドの場所を尋ねてみたら、冒険者一同は一瞬驚いたが、気のせいだろう。


***


冒険者ギルド着。正確には扉の前。


緊張してきた。異世界のギルドと言えば活気のある場所のはずだ。

きっとガタイのいい人や血気盛んな人がたくさんいるはずだ。

そんな人達とうまく話せるだろうか。いや、ここまで来たんだ。てか、金ないから早く働かないと。


子音は覚悟を決め、ギルドの扉を開ける。

そこには活気のある冒険者達の空間

─ではなった。

あれ。

思ったより人少ないな。冒険に行っているのか?冒険者ギルドってもっと活気のある印象があったが。


そんなことを思いながら、受付らしき場所に行き、カウンターにいる女性に話しかける。

「あのー。新規で冒険者登録をしに来たのですが」


「こんにちは。えーと、初めてですと登録が必要です。まずこちらの鑑定水晶に手を置いてください」

黄色っぽい髪をなびかせ、後ろから水晶を取り出した女性は笑顔で対応する。


おお。おそらくここでジョブが発覚するのだろう。

剣士か?魔法使いか?もしかすると、いきなり勇者とかになっちゃったり!

そんな期待に胸を膨らませながら、子音は水晶に手を置く。

だが─

「あれぇ。すみません。なんか水晶が反応しないみたいで」

ん?

「すみません。先にこの書類を記入お願いします。このまま水晶が反応しないようであれば、書類欄にある職種の所は一旦無職となりますので、どうかご了承ください」


まじか。


***


結局ジョブなしかー。

傍からみたら何もできないやつみたいになっているじゃん。

まぁ、実際今は何もできないけど。

子音は一枚の紙きれを手に持ちながら嘆く。


そうだ。

受付の人に渡された紙読まないと。どれどれ。

「新たにギルド登録した方は、明日の午前5時に冒険者ギルド内に集合してください」

「は?午前5時!?早すぎるって」

どうやら初めての任務の際、初心冒険者は経験豊富な冒険者の人と同席しなければならないという制度があるらしい。

最近、初心冒険者の死傷率が上がっているためこの制度ができたと受付の人が教えてくれた。

「もしかしてこの世界って思ったより過酷なのか?」


何はともあれ明日は、冒険者として初めての任務。

明日がとても楽しみだ。


空を見上げるともう日が暮れようとしている。

「もういい時間か。帰って明日に備えるかー」


ん?

帰って?

俺家ないじゃん。

ここ異世界だし。

え。どしよ。

──俺、今日どこで寝るの?


独りぼっち。一文無し。家もない。

大丈夫かよ。俺の異世界ファンタジー。


結希 子音の持ち物

・菓子パン

・菓子パンに付いてる、輪ゴム

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