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プロローグ ─あの日─

──今の自分は君に、仲間に、友達に、家族に、俺自身に誇れるだろうか。


あの日。異世界に来て、君と出会って、冒険して、そして今君の願いを叶えるために戦う。目の前の竜を倒し、君を守る。

それが俺が勇者になった理由なのだから。


──今の私はあなたと、仲間と、友達と、皆との約束を果たせるだろうか。


あの日、家族を殺されて、友達と出会って、あなたと出会えて、そして今皆のために戦う。目の前の竜を倒し、世界を平和にする。

それが私の復讐の物語だから。


──今の私は友達を、君を、仲間を守れるのかな。


あの日、君と出会って、仲間に恵まれて、そして今仲間を守るために戦う。

目の前の竜を倒して、またみんなと楽しい冒険をする。

それが私の願いだから。



天災の竜が咆哮(ほうこう)する。

強い地響きと共に、噴火が起きたと同時に、火山弾が向かってくる。


「─ルナ」

「うん」


──はじまる


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「痛っ。」

頭がズキズキする。

一日中アニメを見ていたからか、目はチカチカするし、頭痛も激しい。

胸がむかむかし、眩暈もする。自室の窓を開け、冬の冷たい風を浴びる。

父が亡くなってから今日で十三回忌か。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



12月24日のクリスマスイブ。

結希子音は湯船の中で足を伸ばし今日一日について振り返る。


「あー。数学の課題やってなかった」

丸一日をアニメ鑑賞に費やした結希子音は、今日一日の自堕落な生活を思い返し後悔は─しない。


今日も気づけば終わりかぁ。

大体毎日就寝時間午前3時、起床時間午後13時。

時間感覚がバグっているので、人より日没までの時間が短い。


結希子音にとって高校2年生の青春謳歌全盛期は家に引きこもり、アニメとゲームで浪費することに使っていた。


高校1年生春、序盤から持ち前のコミュ力の無さで友達作りに失敗し、しばらくは独りぼっちで教室の机にうつ伏せで狸寝入りをして堪えていた。


しかしそれに嫌気が差し、1年生の夏休み明けには親泣かせの不登校へ。


今となっては日々をアニメやゲームに溶かし、狂った生活ルーティンの中で何とか進級のためにやれと、お情けで渡された課題を暇な時にこなしている。


そんな自分への嫌気を通り越し、自身が没頭しているアニメやゲームの世界に心を捧げている子音は、3次元のことなどとうに諦めている。


後悔しても意味はない。改心したとてやりはしない。


そんなことは過去何回もやってきたし、その度に失敗して後悔して失敗した。

学校へ行け?友達を作れ?そんな人並みハードル低いことすらできない俺だ。


そんな数多くの失敗経験から心を病み、どうせ自分は何をやってもダメなのだろうと、いつからかそんな風に思っていた。


「早く上がんないと」

アニメの続きを見るべく、風呂から上がり、乱雑にタオルで拭き取った長い黒髪からはまだ水滴が落ちそうになっている。


そんなことはお構いなしに子音は自室のある2階へと階段を駆け上がる。


道中リビング机の上に、クリスマスケーキの代わりのつもりなのか、菓子パンが置いてある。子音は母が食べ残した菓子パンを手に取り顔をしかめる。

菓子パンの袋にはパンが乾燥しないようにと()()()がしてある。


「イブなのにケーキもなしか」

不登校になって以来、母とはばつが悪くなりあまり口を利くことに躊躇(ため)いが生じてしまっている。


そんなことを、リビングで疲れ果てて寝ている母に聞こえないよう呟きながら、自室に戻る。


菓子パンを片手に持ちながらベッドに腰掛け、テレビの電源をつけるとクリスマス特集の番組が映りだされた。


イブの夜の街を彩るイルミネーションに数多くのカップルがそれを眺めている。

カメラに映りだされる人々は皆白い吐息を漏らしながら、幸せそうに笑っている

「こんな光る電球見て何がいいだか」


映像が切り替わり、手をつないだカップルがインタビューを受け始める。

嫌なものを見たと思うと同時に自分の中で惨めさが溢れだす。


はぁ。

アニメでも見て気晴らししよ。

俺には推しのカナデちゃんがいるし。

アニメ、ゲーム、漫画。

それさえあれば何もいらない。

3次元の女なんていい人いないし。

2次元の女の子にしか興味はない。


そんな不甲斐ない自分への言い訳を考えながら、子音はアニメの続きを見るべくアニメアプリ”Ahema”テレビで起動する。

「今期はほんと豊作だよなー。─あ?」


見たことのないアニメがランキング1位になっている。


こんなアニメあったか。え。だって今期の覇権は──

「まぶし!」


謎の1位のアニメを見ようとリモコンボタンを押すと同時に、テレビの画面が白く発光した。


                   

目を開けた子音は2次元へ、異世界へ、地平線の見えるくらい壮大な草原へと転移していた。

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