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「今日は1人なの?」と抱きしめられた状態で男性に聞かれる。
「友達と来てたけど、男の人と消えてしまって……。それで今は1人です」
そう言うと、「あーそうなんだ……。放置されてかわいそうに……」と初対面の男性に憐れみられた。友達と来ていたのに、男と消えられて1人で放置されるなんてかわいそうだよなと自分でも思う。
「じゃあ、この後抜け出さない?」
男性から提案され、私と男性はクラブの外に出た。
クラブでは大音量の音楽に話し声がかき消されたけれど、クラブの外ではゆっくり話せるようになる。男性は今年31歳になるとのことで、私より5学年上だった。名前はティムといい、バンクーバーで生まれ育ち、今は空軍のパイロットとして働いているそう。私も自分について話すと、
「え、25歳? 若い!」
と驚かれた。一緒にタクシーに乗り、家の近くまで送ってもらう。タクシー車内で連絡先を交換する。降りるときは手を引いてエスコートしてくれた。
「じゃあ、またね」
別れ際、ティムはそう言って額にキスをした。