会談①
なんか一日複数話投稿してたけど、明日からさらに忙しくなりそうなので、これからは一日一話投稿にします。
次話投稿は明日の19時7分です。
「やぁやぁよく来てくれた救国の英雄! ささッ、どうぞそこに座ってくれ!」
俺を見た瞬間、率直な態度で歓迎する王。
自分の正面の長椅子に座るよう手で誘導してくる。
そうして「座ってくれ」と促された俺だが、王を観察しながらゆっくりと入室した。
俺が訝しむような態度でいたことで、王は「ハッ」としたような顔をし、
「礼儀なんて気にする必要はないぞ! 君は異界から来た旅人。そんな君にこの国の礼儀を強要するのは酷ってものだ。それに、ここは謁見の場でもないんだ。無礼なんて気にせず、どうか普通に接してくれ」
あくまでも、俺を気遣う態度を徹底する王。
俺はその王の言葉に従い、礼儀なんて気にせず、王の対面に座る。
「いやぁ聴いたぞ! 魔族の軍を一瞬で壊滅! 【憤怒】のアングを瞬殺! 伝説に違わぬ、いや、それ以上の活躍ではないか! いやはや、貴殿を呼んで正解だった!」
「……どうも」
「自己紹介がまだだったな! 私はこのメーンレスの五代目国王ストマック・K・メーンレスだ! 気軽にストマックと呼んでくれ!」
王は「ガハハハ」と笑いながら、自分本意に話を進め、自己紹介を始める。
気軽に王を呼び捨てで呼べる訳ねぇだろッ。
「……内藤 陸人です」
とりあえず、こちらも名乗りを返しておく。
俺はあえて一番最初の人生での名を名乗った。
俺の復讐はあそこから始まった。一番最初に破壊種から大切なものを奪われた、あの時から。
それを忘れないために、一度目の生での名を使うことにした。
それにしても……と俺は目の前の王、ストマックを見る。
随分と友好的な王様だな。
国の指導者たる存在が、こんな軽くていいのかね。
俺の機嫌を損ねないために考えた結論がこれ、とか?
……いや、もしかすると───
「さて、陸人殿よ」
王が改まってこちらに話しかけてくる。
いきなり名前呼びかよ。
……あぁいや、ここではどうやら後ろに家名が付くっぽいし、『陸人』を家名と勘違いしてるのか?
まぁ、呼ばれ方なんてどうでもいっか。
「まずは改めて礼を。急な呼び出しに応じていただき、また、我が国を救ってくださり、感謝しかない。我が国の英雄よ、ありがとう」
王が頭を下げる。
これには流石に、さっきまでの王の態度を見ても動じていなかった、部屋の片隅で控えている数人の護衛も、驚いたようだった。
「ナキナモより聴いたぞ。我が国の事情を聴いた瞬間、即、我々を助けることを決めてくれたとか。なんと慈悲深き男かと、話を聴いた時は感動で震えたほどだ」
「……」
呼ばれてすぐに戦線へ行く決断をしたのは、魔族が破壊種かどうかを確かめるためだったんだけどな。
破壊種には特有の圧がある。
なんというか……感じるだけで「格が違う」と分からせられるような、そんな重厚な圧を放っているのだ、破壊種は。
なので、破壊種かどうかは、割と一目見れば分かったりする。
だから、直接、魔族を見て確かめたかったんだ。
というか……
「ナキナモって誰?」
俺がその言葉を発した途端、王は目を見開いて呆然とし、後ろで控えていた一人の女性は肩からバランスを崩す。バランスを崩したのは俺をこの世界に召喚した姫様だ。
この人、俺よりも先に王城に入城したと思ったら、俺が王のいる部屋に向かう途中でいつの間にか合流してたんだよなぁ。なんのために先に入城したんだ?
というか、いきなりバランスを崩すなんてどうしたんだ?
「……自己紹介をしておらんかったのか? ナキナモは、お主の後ろで控えている私の娘ぞ」
・・・。
「い、いえ、馬車でもすでに自己紹介はしていましたが……改めて名乗らせていただきます。この国の第一王女、ナキナモ・K・メーンレスです。以、後、お、見、知、り、置、き、をッ」
「……」
ナキナモって、この姫の名前だったのか。
馬車でも自己紹介したと言われても、あの時は魔族と破壊種のことで頭がいっぱいで、他のことには頭が回っていなかったからなぁ。
うん、今度はちゃんと覚えておこう。
後ろから鋭い視線を向けられているような気はするが、とりあえず今は置いとくとして、
「ま、まぁナキナモよ、勇者様は魔族の軍を壊滅させたことでお疲れだったのだ。ちょっとしたド忘れぐらい、大目に見てやりなさい」
「これ、ちょっとしたド忘れですか?」
「んん゛ッ、ゴホン……それで勇者よ」
王が強引に話を切る。
このままでは一向に話が進まないと判断したのだろう。良い判断だ。
「先馬より戻ってきた者より話は聞いているぞ。頼みたいことがあるのだとか。できる限りの要望は聴くつもりだ」
随分と気前がいいな。
「じゃあ、お言葉に甘えて。俺にこの国一番の魔術師と会わせて欲しい」
俺がそれを頼んだ瞬間、王は表情を真剣なものへと変える。
この世界では、魔術という技術を使っていることはすぐに分かった。
魔術は、魔力という、生物の体内に宿る不可視のエネルギーを原動力として、様々な現象を起こす。
その影響のせいか、魔術を使った後には、魔力を使った形跡とも呼ぶべき残滓が残る。
俺を呼んだ時にもその残滓があったので、この世界では魔術が扱われていることは間違いないと、この時にすでに確信していた。
そして、先の魔族との一戦。
砦には、魔道具と呼ばれる、魔力を宿し、そして、現象を引き起こすための魔道文字刻まれた道具があったし、魔族達は揃いも揃って魔術を行使していた。馬車で訊いたけど、俺の攻撃に最後まで抵抗した……えっと、【憤怒】のアング……だっけ? そういう名前の上位魔族も、魔術を使っていた。
そのことから、俺は、この世界では魔術こそが発展しているのだと結論づけた。
王の様子を見る限り、予測は間違いではなかったらしい。
「それは、この国の最高戦力と会いたい、と言うことかな? 会ってどうする? これから共に戦うかもしれない相手の戦力を今の内に把握しておきたい、とかそういうことかな?」
「いや、教えを乞う」
「………はい?」
真剣な表情だったのに、すぐに呆けた顔になった。
「教えを? 何故……あぁ! 一番の魔術師ならば知識も豊富だろうということか! この世界について学びたいということだね! これまで歴史を参考にすることで戦略を立てたり、この世界の地形を把握することで戦いを有利に進めたりとか」
「違う」
「学びたいのはこの世界のことではない……? では何を……学問か? しかし、そんなものを学んだ所で魔王討伐には……個人的な興味かね? 貴殿が元いた世界との違いを楽しむとかそんな───」
「違う」
俺は王の推測を即否定し、溜め息をつく。
何を言っているんだこの男は。
一番の魔術師に教えを乞うといったら、そんなの一つしかないだろ。
「俺が学びたいのは魔術だ」
俺が正直に答えると、王は固まってしまった。
そして、少しすると、慌てて首を振り出す。
「………いやいやいや、何の冗談かなそれは。聴いたぞ、貴殿は、本来魔術では操れぬ筈の植物を操り、ほとんど一撃で魔族の軍を壊滅させた、と。あの大罪のアングですら手も足も出なかったそうじゃないか。そんな強大な力を持つ貴殿が、これまで散々魔族に蹂躙されてきた我が国に所属する魔術師から何を学ぶ」
「だから、魔術だ。さっきからそう言っているだろ」
俺がそう断言したことで、遂には、王は項垂れてしまった。
「ハッキリ言おう。貴殿のように、魔術で植物を操る術を我々は見出しておらん。つまりは、我々の魔術レベルは貴殿のそれを遥かに下回っているのだ。だから、貴殿が我が国の最高の魔術師と会った所で、得られぬものなど無いと思うぞ」
王は声のトーンを落としながら、どこか卑下するようにそう伝えてきた。
何を言っているんだこいつは。
「魔術で植物を操る術なんてある筈がないだろ。そんなのあるなら俺だって知りたいぐらいだ」
「……? しかし、現に貴殿は植物を───」
「俺が使ったのは仙術だ。魔術とは全くの別モンだよ」
「……セン、ジュツ……?」
王は『仙術』という言葉がピンときていないようだった。
薄々感じてはいたが……どうやらこの世界では、仙術は存在すらしていないらしい。
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※ 2022/09/01 18:40 追記
修正したい箇所が見つかったので、更新を深夜の0時7分に変更します。