第三話 ヘルスケア編
反撃の狼煙
宿敵、黒田を倒した運野。
次は、いよいよ鬼黒との対決と思いきや、
新たな指令が、運野に下される。
<ブラウン商事 社長室>
[土屋敷社長]
今度、新規にヘルスケア事業を
立ち上げることになった。
君には、そこの責任者として
活躍してもらう。
[運野]
ヘルスケア?
[社長]
君にピッタリの仕事だ。
詳細は、既に現場入りしている
土山、土田両君に聞いてくれ。
オープンは、三日後の予定だ。
よろしく頼む。
[運野]
かしこまりました。
<ヘルスケアセンター 事務室>
[土田花子]
待っておりました、部長。
[運野]
土山君は?
[花子]
営業活動に奔走しています。
[運野]
会員は、今のところ、何人ぐらい?
[花子]
一人です。
[運野]
一人か〜。
これ、うまくいくのかな?
[花子]
最初のお客様に、
良い評価をしてもらえれば、
その後、クチコミで広がる
可能性は、あると思います。
[運野]
その最初のお客さんって、どんな人?
入会申込書、見せてくれる。
[花子]
はい、こちらになります。
[運野]
これ、なんて読むの? スエユメ?
[花子]
部長、フリガナ振ってありますよ。
[運野]
マダム タマコ、本名か?
[花子]
社長のお知り合いだそうです。
[運野]
もしかして、社長のこれ?
(運野、小指を立てる。)
[花子]
さあ。
[運野]
ということは、サクラか。
事実上、会員は、
まだ0ということか。
[花子]
いえ、本当に便秘でお悩みの
ようでしたよ。
[運野]
便秘? なにそれ。
[花子]
えー、社長から何も
聞いていないんですか?
[運野]
うん。
[花子]
運動、呼吸法、食事など、
生活全般を通して、快便生活を目指す。
そのお手伝いをするのが、
私たちの仕事です。
[運野]
なるほど。
[花子]
では、このマニュアルを
しっかり読んでいただき、
オープン当日は、
インストラクターとして
ちゃんと成果を出すように
頑張ってください。
[運野]
えー! 俺がやるのぉー?
[花子]
日々、快便生活を送られている
部長ならではと、
社長の、たってのご指名です。
[運野]
マジかよぉ〜。
[花子]
心配ご無用。
私が、しっかり、サポートしますから。
[運野]
頼りにしてるよ。
三日後、オープン初日
<ヘルスケアセンター 事務室>
[運野]
お客様は、もう来ているの?
[花子]
はい、スタジオで、お待ちです。
運野、扉の隙間から
そっと、スタジオを覗く。
[運野]
失礼だが、
まるで、ゆるキャラの着ぐるみでも
着ている様な人だなあ。
俺は、とても、マダムだなんて
呼べないよぉ。
[花子]
部長ー!
お客様の苗字なんですから。
[運野]
わかってるよ、大丈夫だ。
運野と花子、スタジオへ向かう。
<ヘルスケアセンター スタジオ>
[運野]
初めまして、マダム様。
運野良夫と申します。
[花子]
先日は、ありがとうございました。
今日は、アシスタントを務めさせて
いただきます、土田花子です。
[運野]
本日は、よろしくお願いします。
[末夢 玉子]
下の名前で呼んで。
玉子っていうの。
[運野]
わかりました。玉子さん。
ところで、玉子さんは、うちの社長の
お知り合いと伺っておりますが。
[玉子]
そうなの。
私と、土屋敷さん、それに、
ブラック銀行頭取の鬼黒さんの三人は、
同じ小学校の同級生で、
幼なじみだったのよ。
だから、おたくの会社のメインバンクは
ブラック銀行なのよ。
[花子]
えー! そうだったんですか。
でも、今、ブラック銀行は、
うちの会社を乗っ取ろうと
しているんですよ。
[玉子]
あら、そうなの。
それは、穏やかではないわねぇ。
[花子]
幼なじみが、どうして、
そんなこと、するんですかね。
[玉子]
さあ、
強君は、ガキ大将だったから、
今でも、建ちゃんを
服従させたいんじゃないかしら。
[花子]
そういうもんですかねぇ。
[運野]
それでは、まず、
呼吸法から、はじめましょう。
しっかり深く息を吸って〜。
腸にしっかり、新鮮な空気が届く
イメージで、そうです。
次に体をひねって、大腸を少しずつ
刺激していきましょう。
[玉子]
こんな、カンジ〜?
[運野]
あー、いいですねぇ。
大腸が少しずつ、動いてきますよ。
さらに、上から手で、
大腸を揉んで、刺激していきましょう。
[玉子]
あたし、握力ないのぉ。
運野さん、揉んでぇ〜。
[運野]
はぁ、はい。かしこまりました。
では、ちょっと失礼。
[玉子]
いゃ〜ん。
[運野]
(うゎ、メチャ硬い。
まるで、鉄筋コンクリートの様だ。
手で砕くか、いや、ダメだ。
大腸を傷つけてしまう。
どうしよう。
水で少しは柔らかくなるか?)
[運野]
土田君、水を持ってきてくれ。
[花子]
はい。
[運野]
玉子さん、少し水を飲んで下さい。
玉子、水を飲む。
[運野]
(マズイ、水が便に全然
染み込んでいかない。
こうしているうちに、今も便が
増え続けている。
このままだと、あと少しで
腸が破裂してしまう。)
[玉子]
なんとか、してよぉ〜。
あなた、糞部長なんでしょ〜。
[花子]
部長、いつの間に、本部長に
なられたんですか。
[運野]
ちがうよぉー。
[花子]
?
[運野]
玉子さん、先程の呼吸法を
しばらく練習していて下さい。
[玉子]
わかりました。
運野、花子を連れて、事務室に行く。
<事務室>
[運野]
マズイ、このままだと
腸が破裂してしまう。
今、すぐ、病院へ連れて行こう。
[花子]
それはダメですよ。
第一号の客が
いきなり病院送りとなったら、
我がヘルスケアセンターの評判は、
ガタ落ちですよ。
[運野]
人の命が、かかっているんだぞ。
[花子]
とりあえず、玉子さんの脇腹に
日光を当てながら、
揉んでみてはどうでしょうか。
[運野]
それ、なんか科学的根拠あるの?
[花子]
とりあえず、ダメもとで、
私に、やらせて下さい。
ダメだったら、それから病院でも
遅くはないでしょう。
[運野]
わかった。やってみよう。
<ヘルスケアセンター スタジオ>
[運野]
どうですか、玉子さん。
[玉子]
う〜ん、あんまり変わらない感じ。
[運野]
では、気分転換に
外へ出てみましょう。
今日は、天気も良いですし。
<隣の公園のベンチ>
[運野]
玉子さん、服をめくって
左脇腹に、日光を当てて下さい。
[玉子]
ヤッダァ〜、恥ずかしい。
[運野]
左脇腹だけですから。
[玉子]
こんな感じ。
[運野]
そうです。
[花子]
では、今度は、私が揉ませて
いただきます。
失礼します。
[玉子]
あら、よろしく。
[花子]
(手で揉みながら)
ヤワくなあれ〜、ヤワくなあれ〜。
[玉子]
なんか、少し楽になってきたみたい。
[花子]
だんだんと
柔らかくなってきてますよ。
[運野]
本当か! 奇跡だ。ゴットハンド!
[玉子]
なんか、トイレに行きたくなったわ。
玉子、公園内のトイレに行き、
しばらくして、戻ってくる。
[玉子]
あー、サッパリした。
運野さん、土田さん
今日は、本当にありがとう。
[運野]
あー、よかった。
その後、玉子のクチコミと
土山の営業努力の甲斐あって、
ヘルスケアセンターは
大盛況となった。
また、同時に、運野が編集長となった
月刊誌『快便生活』の売上も
順調に伸びていった。
<ブラウン商事 社長室>
[社長]
運野君、よくやってくれた。
さすが、糞部長。
[運野]
社長、お願いですから、
もうそれ、やめて下さい。
全ては、土田君と土山君の
活躍のお陰です。
[社長]
このまま順調に進めば、
四ヶ月後の返済期限までに
全額返済も夢ではない。
引き続き、頑張ってくれたまえ。
[運野]
はい。
しかし、このヘルスケアセンターの
盛況ぶりは、
眠れる獅子、ブラック銀行を
奮い立たせることに、なるのであった。
<第三話 ヘルスケア編 完 >