第二話 バツゲーム編
君子危うきに近づく?
ブラック銀行融資部に配属となった運野。
黒田の部下という
運野にとって、圧倒的不利な状況の中、
運野と黒田の壮絶な戦いの火蓋が
今、まさに、切られようとしていた。
<ブラック銀行 融資部 事務室>
[黒田]
まさか、お前が、俺の部下に
なるとはなあ。
せいぜい、可愛がってやるぜ。
[運野]
お手柔らかにお願いします。
[黒田]
まあ、どうせ半年後には
お前も、ウチの傘下に入るんだから
それまでに、みっちり
こっちのヤリ方を、学んでおけ。
それでは早速、ブラウン商事に
取り立てに行ってもらおうか。
[運野]
人の嫌がりそうな仕事を
あえて選んで、させる。
それって、パワハラですよね。
[黒田]
また、訴えるとでも言うのか。
そんなのは、ここでは通用しないぞ。
[運野]
いえ、その仕事、やらせていただきます。
ただし、一つ条件があります。
[黒田]
条件? なんだよ。
[運野]
私の遊びに付き合っていただきたい。
[黒田]
どんな遊びだ?
運野、黒田の耳元で、コソコソと説明する。
[黒田]
ワッハッハー。くだらねぇー。
お前の考えそうなことだ。
いいだろう。
上司たるもの、部下の誘いにも
付き合ってやらないとなあ。
こう見えても、俺は高校時代
演劇部にいたんだ。
決して、勉強ばかりしていた
わけではないんだ。
この世界で出世するには、
俺のようなエリートでありながらも、
お前の様なバカなヤツの相手もできる
器の大きい人間でないとダメなんだ。
[運野]
そういうことなら、早速、
お付き合いお願いします。
[黒田]
おう。
運野、500円硬貨を投げて、
両手でキャッチ。
[運野]
表か裏か。
[黒田]
う〜ん。裏だ。
運野、手のひらをゆっくりと開けて
[運野]
残念。表でした。
[黒田]
くっそー。
[運野]
では、お約束のバツゲームを
お願いします。
[黒田]
ああ、やってやるよ。
運野と黒田は、
同じフロアの男子トイレへと向かう。
<男子トイレ内>
[運野]
さあ、お願いします。
[黒田]
個室が一つ、うまっているようだ。
後にしよう。
[運野]
ダメですよ。
すぐにって、約束したでしょう。
それに、このフロアには、
約200人の男性職員が
働いているんです。
ですから、トイレにだれもいなくなる
ことなど、滅多にないと思いますよ。
それとも、黒田さんは、ここでずっと
人がいなくなる瞬間を
待ち続けるおつもりですか。
周りの人から、変に思われますよ。
小便している人がいないだけ、
マシじゃないですか。
個室からは、顔は見えませんから。
[黒田]
わぁかったよ。そんなことで熱弁するな。
[運野]
では、お願いします。
ちゃんと、大きな声で
しっかりやってくださいよ。
[黒田]
勿論だよ。
黒田、中腰で、股割りのポーズをとり、
大声で、
[黒田]
ウンコド〜ン! クッセ〜ェ〜。
二人、トイレを出る。
[運野]
いやー、お見事。
さすが、元演劇部。
[黒田]
そうだろう。
この程度のことは
俺にとっては、朝飯前なんだよ。
[運野]
これが本当の黒田バスーカ。
[黒田]
なんか言った?
[運野]
いえ、なにも。
ところで確か、頭取室も
このフロアでしたよねぇ。
[黒田]
そうだけど。それがどうした。
[運野]
さっきの個室の主が、頭取でなければ
いいなあと思いまして。
[黒田]
んっ?
キサマ、さては謀ったなあ。
[運野]
謀るだなんて、人聞きの悪い。
大丈夫ですよ。
確率は200分の1ですから。
では、お約束通り、
ブラウン商事に取り立てに
行ってまいります。
運野、立ち去る。
黒田、自席に戻る。
[黒田]
200分の1か。0ではないなぁ。
あ〜、気になって仕事が手に付かない。
おのれ〜、運野のヤツ。
<黒田家の寝室 AM1:00>
[黒田]
くっそー、あの事が気になって
眠れない。
あれっ、鬼黒頭取、
こんな時間にどうしたんですか?
[鬼黒]
私のウンコは臭いか? 黒田。
[黒田]
いえいえ、滅相もございません。
どうか命だけは、お助けを。
黒田、目が覚める。
[黒田]
なんだ、夢か。悪夢だ。
<翌日、ブラック銀行 融資部 事務室>
入行2年目の黒川 一が黒田に
[黒川]
黒田部長、頭取がお呼びです。
至急、頭取室へお願いします。
[黒田]
わかった。今、すぐ行く。
(まさか、あれか?
いや、そんなハズはない)
<頭取室>
[黒田]
失礼します。
[鬼黒]
入りたまえ。
黒田、入室する。
[黒田]
(あれ、黒岩副頭取もいる。
ブラック銀行の秘密警察長官と
行内で言われている男。
あの男のことだ。
何か確たる証拠を掴んでいるに
ちがいない。
あの男に追及されて、
逃れられた者は、
一人たりともいない。
ここは、尋問される前に、
謝った方が、少しは
罪が軽くなるかもしれない。
それしかない。)
黒田、突然、頭取の前で土下座する。
[鬼黒]
んっ?
[黒田]
申し訳ございませんでした。
頭取のウンコは決して
臭くなんてありません。
あれは、運野に脅されて
無理やり言わされたんです。
どうか、信じてください。
[鬼黒]
どうした。
たぶん、日々の激務で、
疲れてしまっているんだなぁ。
今日は、もういいから、
しばらく、家で、ゆっくり
していなさい。
鬼黒、電話で黒川を呼ぶ。
黒川、頭取室に入る。
[鬼黒]
黒川君、
黒田部長は体調がすぐれない様だ。
悪いが、車で黒田部長を
部長の自宅まで送ってもらいたい。
[黒川]
かしこまりました。
[黒田]
頭取、どうか寛大な処分を〜。
黒川、黒田を連れて、退室する。
[鬼黒]
大丈夫か? アイツは。
[黒岩]
精神鑑定でも
受けさせた方が、よさそうですね。
[鬼黒]
とりあえず、当分の間、
彼を在宅勤務とし、
一旦、全ての担当から外させよう。
せっかく、黒岩さんの後任に
なってもらおうと思っていたのに。
というわけで、黒岩さん、
申し訳ないが、もうしばらく
後任が見つかるまで
ウチにいてもらえないだろうか。
[黒岩]
わかりました。
[鬼黒]
そういえば、さっき、黒田は、
ウンノがどうこう、言ってたが。
[黒岩]
はい、あれは、
ブラウン商事の土屋敷社長から、
返済期限6ヶ月延長のお礼に、
自社で最も優秀な社員を
無償で貸し出したいとの申し出があり、
それで、当行に受け入れた
運野という者のことです。
私が見る限り、
ちっとも優秀なんかじゃない。
[鬼黒]
土屋敷のことだ。
何か企んでいるにちがいない。
[黒岩]
企む?
[鬼黒]
例えば、スパイとか。
[黒岩]
まさか。
そんな高度なことができる様な
ヤツじゃ、ありませんよ。
[鬼黒]
いずれにせよ、
ウチに置いておく必要は、なさそうだ。
今すぐ、ブラウン商事に
返してやってください。
[黒岩]
了解しました。
数日後
<ブラウン商事 財務部 事務室>
[土田花子]
お帰りなさい、部長。
敵の陣中で、敵を倒すなんて、
スゴすぎます。
[運野]
これが、ある意味、本当の
「虎穴に入らずんば虎児を得ず」
だなぁ。
[花子]
キャー、ステキ。
[運野]
照れるなぁ。
[花子]
ところで、部長、もしかして、また、
ウンコネタ使ったんですか?
[運野]
「目には目をウンコにはウンコを」だ。
[花子]
はあ?
[運野]
社長に挨拶してくるよ。
<社長室>
[運野]
失礼します。
[土屋敷社長]
お帰り、糞部長!
[運野]
えー!
私が、営業本部長にですか。
ありがとうございます。
[社長]
ちが〜う。よく聞きたまえ。
君はいつもウンコネタばかりだから、
さしずめ、フン部長だと
言っているんだ。
[運野]
な〜んだ。
[社長]
期待しているぞ。
糞部長 運野 良夫
[運野]
は〜ぁ。
<第二話 バツゲーム編 完>