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部長  運野 良夫  作者: 犬 文男
1/7

第一話 熱烈デビュー編

君子危うきに近寄らず

これは、借金のカタに

会社を乗っ取ろうとするブラック銀行と、

それを阻止しようとする、ブラウン商事との

戦いの物語である。

 


<ブラウン商事 財務部 事務所>


事務所内の電話が鳴る。

入社3年目の土田ツチダ花子ハナコが電話を取る。


[土田花子]

 はい、ブラウン商事 財務部です。

 あっ、黒田部長、

 いつもお世話になっております。

 運野ウンノですか。


運野、花子に向かって

顔の前で手のひらを振る。


[花子]

 あいにく、運野は

 只今、席を外しておりまして、 


 さあ、それはどうですか。


 はい、はい、・・・・・。


 かしこまりました。

 運野に申し伝えておきます。

 失礼します。

(電話を切る)


[花子]

 運野部長。

 ブラック銀行の黒田融資部長からです。

 明日の返済期限までに

 借入金全額を返済しなければ、契約どおり

 ブラウン商事を乗っ取るとのことです。


[運野ウンノ良夫ヨシオ]

 マズイなぁ。


[花子]

 ブラック銀行に乗っ取られると

 うちの会社、どうなっちゃうんですか?


[運野]

 ブラック銀行の植民地になる。

 給料は下がり、勤務時間は長くなる。

 奴隷のように、こき使われる。

 文句を言う者は、即刻首を切られる。


[花子]

 本当ですかぁ〜?


[運野]

 明日までに、借入金全額を返済

 するのは、100%無理だ。

 何か、別の解決策を考えないと。


土田花子と同期入社の

土山ツチヤマ盛男モリオが発言する。


[土山盛男]

 何か、黒田の弱点を見つけて

 それをネタに

 返済期限を先延ばししてもらう

 というのは、どうでしょうか?


[運野]

 その弱点を見つけないと。


[土山]

 部長、何か知っていること

 ないんですか?

 なにせ、うちの社員の中で

 運野部長が、一番長い時間、黒田部長と

 接しているのですから。


[運野]

 そうだけど。

 でも、俺と黒田部長とは

 対等な関係ではないからねぇ。

 黒田は、我々を

 完全に見下している。

 例えて言えば、我々のことを、

 いくらしつけをしても、

 家の中のあちこちで、

 ウンチやオシッコをしてしまう

 バカな犬猫のようにしか

 思っていない。


[花子]

 それなら、私が、体を張って

 会社を守ります。


[運野]

 えっ?


[花子]

 黒田部長に

 ハニートラップを仕掛けます。


[土山]

 ブー(吹き出す)


[花子]

 なによ、そのリアクション。

 セクハラで、訴えるわよ。


[土山]

 えー、俺、なにも言ってないよ。


[花子]

 本人にその気がなくても、

 相手が不快に感じたら

 セクハラになるんです。

 

[運野] 

 いや、それはセクハラじゃない。

 アニハラだ。


[土山]

 アニハラ?

 兄? アニメ?


[運野]

 アニマルハラスメントだ。


[花子]

 部長ー!

 ちょっとそれ、どういう意味ですかぁ〜?


[運野]

 すまん、すまん。冗談だよ。


[花子]

 もぅー。私は真剣なのにぃ。


[運野]

 冗談言っている場合じゃないよなぁ。

 誰か、この際、どんなことでもいい。

 黒田に関して、何かないか?


[花子]

 そういえば、いつも黒田さんに、電話で

 運野部長が席にいないことを伝えると、

 必ず

 「もしかして、ウンコですかぁ〜?」

 て、ふざけて言うんですよ。

 最初、私がウケちゃったもんですから、

 それ以降、毎回、必ず言うんです。


[土山]

 プー。

 

[花子]

 なによぉー。

 部長が、なんでもいいって言うから

 言ったんじゃない。


[土山]

 だからって、お前なあー。


[運野]

 ちょっと待て。

 それは、使えるかもしれない。

 一か八か、やってみよう。

 


<翌日、ブラウン商事 財務部 事務所>


AM9:30

事務所の電話が鳴る。

事務所内に、緊張感が走る。

いつものように、土田花子が電話を取る。


[花子]

 はい、ブラウン商事、財務部です。


[黒田クロダ宅家タクヤ部長]

 あっ、ハナちゃ〜ん。

 運野部長いる〜?


[花子]

 只今、あいにく、

 席を外しておりまして。


[黒田]

 また、ウンコですかぁ〜?


花子が運野に、指でOKサインを出す。


[花子]

 あっ、只今、運野が戻りましたので、

 今、代わります。

 少々、お待ちください。

 (運野に受話器を渡す)


[運野]

 お待たせしました。運野です。

 突然ですが、

 あなたはいつも、うちの社員に、

 私が、ウンコをしているようなことを

 おっしゃっておられるようですね。

 今も、「また、ウンコ」と

 言っていましたよね。

 断っておきますが、私は入社以来、

 これまで、一度たりとも、勤務中に

 ウンコをしたことは、ありません。

 毎朝、快便生活を送っております。

 あなたのせいで、

 私は勤務中にトイレにしょっちゅう

 行ってばかりいるという

 あらぬ噂が社内に広まり

 大変迷惑しております。

 つきましては、あなた個人を

 名誉毀損で訴える所存であります。


[黒田]

 バカバカしい。

 やれるものなら、やってみろ。


[運野]

 いいんですかぁ?

 仮に私が裁判で負けたとしても、

 融資先の社員と、裁判沙汰となっては、

 あなたの、その輝かしい経歴に

 多少なりとも、キズがつくんじゃ

 ないですかねぇ。

  

[黒田]

 (アホすぎて、話にならん。

  こんなのに付き合っていたら

  こっちまで、バカになりそうだ。

  ちょっと危険な程のバカさ加減だ。

  「君子危うきに近寄らず」だ。

  ここは、早々に退散しよう。)


[黒田]

 ちょっと不適切な表現だった

 かもしれない。

 申し訳なかった。


[運野]

 ゴメンで済むなら

 警察はいらないですよ。

 返済期限を先延ばししてください。


[黒田]

 わかった。じゃあ、1ヶ月だ。


[運野]

 6ヶ月にしてください。


[黒田]

 6ヶ月だと、頭取の許可が要る。


[運野]

 頭取に、絶大な信頼を置かれている

 黒田さんなら、たやすいことでしょう。


[黒田]

 なんとか、やってみよう。


[運野]

 よろしくお願いします。


(電話を切る)


[黒田]

 ワッハッハー。

 本当に、バカなヤツだ。

 こっちは、最初から

 6ヶ月延長するつもりでいたのだ。

 頭取の許可も、既に取ってある。

 どうせ、6ヶ月延長したところで

 あの会社に、完済など出来るはずがない。

 だったら、少しでも多く

 借金を返済させた上で、

 会社を乗っ取った方が、得だ。

 利息も増えるしね。

 しかし、今回、延長の件を、あの運野に

 恩着せがましく、ネチネチと

 やってやるつもりでいたのに、

 それができなかったのは

 ちょっと残念だったが。



3日後、

ブラウン商事に、ブラック銀行から

借入金返済期限6ヶ月延長の

正式な通知が届く。


<ブラウン商事 財務部 事務所>


[花子]

 運野部長、

 土屋敷ツチヤシキ社長が、お呼びです。

 今すぐ、社長室へお願いします。


[運野]

 わかった。


[花子]

 今回の件で、栄転ですかね?


[運野]

 だと、いいけどね。



<社長室>

 

[運野]

 失礼します。


[土屋敷ツチヤシキケン社長]

 どうぞ。


運野、社長室に入る。


[土屋敷社長]

 今回は、会社存亡の危機を救ってくれて

 本当にありがとう。

 礼を言うよ。


[運野]

 いえ、とんでもありません。


[土屋敷社長]

 運野君、君に伝えなければ

 ならないことがある。

 これから、私の言うことを

 よく、聞いてくれ。


[運野]

 はい。

 

[土屋敷社長]

 運野 良夫

 本日付きで

 ブラック銀行への出向を命じる。


[運野]

 えっー!


  (第一話 熱烈デビュー編  完)




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[気になる点] [花子]  そういえば、いつも黒田さんに、電話で 運野部長が席にいないことを伝えると、 必ず 「もしかして、ウンコですかぁ〜?」  て、ふざけて言うんですよ。  最初、私がウケち…
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