97,暴走
リエルは発狂した。
自分の”サイコキネシス”を暴走させながら。
リエルがいた建物は、超強固な素材で作られていたにも関わらず、一瞬で全壊。
そして兵士達はそれぞれだ。
はるか上空へ吹き飛ばされる者もいれば、荒縄状に捻り殺された者もいる。瓦礫で潰された者もいれば、仲間同士で凄い勢いでぶつけられた者もいる。
しかし、アンだけは無事であった。
アンも風で飛ばされそうにはなったが、それだけだった。
兵士がとっくに全滅したと言うのに、リエルの暴走は続いている。瓦礫と死体の竜巻がそこら中で発生している。
アンはなんとかリエルを止めたかったが、自分が飛ばされないので精一杯だった。
しかし、リエルの暴走は突然止まる。
不思議に思ったアンがリエルの方を見ると、リエルが倒れていた。
力を使い果たしたのかと思ったアンだったが、すぐにそれを否定する。原因はおそらく出血多量だ。
覚醒前にラースから受けた傷が、リエルの暴走のせいでさらに広がっていた。
アンは急いでリエルの傷口を自身の”再生”の”スキル”で塞ぐ。
アンの”再生”はすでに自己再生の域を超え、他人までも再生できるようになっていた。
しかし、他人に対してはまだ、あくまで応急処置程度しかできない。そのため、リエルはこれ以上出血することはなくなったが、かといって血量が元に戻ったわけではない。
そのとき、アンは後ろの方から人の気配を感じる。
アルタミラの人間かもしれないと思い、臨戦体制に入る。
すると、向こうから声をかけられた。
「そう警戒するな。私は君達の味方だ。」
現れたのはプロフェジア教のキラー・シャーロットだった。
しかし、それでもアルタミラの人間であることは変わらない。アンは警戒したままでいた。
「まあ、確かに警戒するなと言う方が無理な話だな…
話せば長くなるんだが…
とりあえずこれだけ言っておく。
我々の祖先、ミラー・シャーロットはこのことを予言していた。そしてそれはアルタミラには伝えられず、我々シャーロット家だけに伝えられてきた。
つまり我々はアルタミラに完全に組みしているわけではない。
これを信じるかどうかは任せる。
そしてもし信じるなら、警戒を解いて付いてきてくれ。
逃走ルートを確保している。」
そう言ってキラーは後ろの方を指差す。
アンは完全に警戒を解いたわけではないが、臨戦体制を解いてキラーに問いかける。
「……さっき、あなたは私達の味方と言ったけど、それはクラントの味方ということでいいの?」
「やっぱり君達はクラントの人間だったようだな、逃走ルートをクラントにしていて良かった。
もちろんクラントの味方だ…と言いたいところだが、完全に味方というわけではないな。だがまあ、ほぼほぼ味方だと思ってくれていい。
そして君達とはさっきも言った通り完全に味方だ。」
アンは数秒思考したが、ようやく結論を出した。
「分かったわ。あなたを信じる。
というか、信じる以外に道が無さそうだしね…」
「了解だ。付いてきてくれ。」
アンは頷き、リエルを背負って付いていく。




