95,記憶
初めに見た記憶は今のオレより少し年下ぐらいの時のオレが、父親らしき人に庇われているところだ。
その父親はオレを庇ったせいで車に撥ねられ死んでいる。
………何故、その男がオレの父親だとわかったのだろう?
オレには別に父親がいるのに。
いや、そもそも…何故、この光景を見ている者がオレだと分かったのだ…?
オレはこんなこと経験した覚えはないのに。
次に見た記憶には、今のオレより少し年上ぐらいのオレがいた。オレは友達と話しながら学校から帰っている。
そして家に入り、廊下の先に女性が倒れているのが見えた………おそらく母親のはずだ。
オレには何故かそれが分かった。
次はどこかの道を、おそらく恋人と歩いている。
この時のオレは成人しているぐらいだろうか。
その恋人を見ていると、どこか懐かしいようなそんな気がした。
しばらくすると、正面の道からナイフを持った男が歩いていた。だが、オレのこの記憶の中の2人は、話すのに夢中でまだ気づかない。
そして距離が2mぐらいになったところで、ようやくオレが気づいて立ち止まる。それに疑問を持った恋人もようやく気づく。
ゆっくり迫ってくる男、だがオレは恐怖からか動けずにいた。せめて恋人だけでも守ろうと、少し1歩前に出るが、横から押されそのまま倒れる。
オレを押したのは恋人だった。
オレが恋人の方を向いた瞬間、彼女は男に刺されていた………
ここで記憶が途切れている。
そしてこの見たことのない記憶を振り返ったあと、今度は見たことのある記憶が、フラッシュバックした。
オレ達を逃すため、1人超越者と戦うことを選んだマイク先生………
マイク先生が死んだのは誰のせいだ…?
オレ達のせいだ…
つまり…オレのせいだ…
そして今目の前で死んでいるウェアは誰のせいなんだろう?
そう…オレのせいだ…
ここでオレの意識は現実に戻ってくる。
すると、オレははっきりと前が見えないぐらいの涙が溢れていた。
そしてオレは自分の体が妙に傷ついているのに気づいた。
ラースにやられたのか…と思ったが、おそらくこれは自傷だった。
そして次に聞こえたのはアンの悲鳴だ。
オレは急いで、アンの方に目を向ける。
そこではアンを気絶させようと、ラースが剣の峰の部分でアンに切りかかろうとしているところだった。
涙で前がはっきり見えないオレには、峰の部分かを判別することは出来ず、ラースがアンを殺そうとしているように見えた。
「や…やめ……やめろ………」
さっきの自傷で喉が酷く損傷していたオレは、上手く喋ることが出来なかった。そのため、ラースの耳には届かなかった。いや、届いたのかもしれないが、無視された。
そして、ラースの剣は、アンにもうすぐ当たるところまできた。
そのときオレは、今までにないくらい、超高速で頭が動いた。
ああ…アンが死ぬ……アンも死ぬ……
誰のせいだ……? オレのせいか…?
この時オレは、全てが自分のせいなような気がしていた。
ああ…アンが死ぬ…アンが死ぬ…
オレのせいでアンが死ぬ……
またオレは何も出来ない…
何も…
いやだ…アンを死なせたくない…
でもどうしたら…
アンを死なせないためには…
あいつを…あいつらを…殺さないと……




