93,種明かし
「アルタミラ人……?」
「そうだ。せめてもの情けで教えてやろう。
俺は今までアルタミラのために行動してきた。
今回の遠征にお前らのようなガキを推したのも、全てはアルタミラの糧となるための実験に利用するためだ。」
「実験…実験って…?」
ラース先生がニヤリと笑い答える。
「ん? そこの資料で読まなかったのか?
お前らのような優秀なガキが1番良い実験体なんだ。」
そう言ってラース先生が指差した方向には、さっきまでオレ達が読んでいた大量の資料があった。
思わず、オレの背中に悪寒が走る。
そこには、残虐な人体実験の内容が書かれていたことを記憶している。
「例えば、アン? 何故今回の遠征に不向きそうな”スキル”を持ってるお前が選ばれたと思う?」
「……え…」
「お前が1番実験体として優秀だと思ったからだ。
痛みに対してかなり強い耐性を持ち、どんなに傷をつけてもすぐ治る。
こんなに良い実験体はない。」
そう言って、アンの目の前に剣を持っていき、ヘラヘラと笑う。
アンの目は、若干恐怖で潤んでいるように見えた。
「ここへ誘導するのにもかなり苦労したぞ?
少しヒヤリとしたことは多々あったが、何とかここへ誘導することが出来た。
しかし…まさかシャーロット家にまで辿り着くとはな、感心したぞ?」
さらにラース先生は言葉を続ける。
「ここほど捕獲に適した所はあまり無かった。
例えば,ウェア。何故ここに窓がないと思う?
お前の”瞬間移動”は視認出来る範囲でしか発動しないからだ。お前らの担任だからよーく知ってるぞ?」
ウェアが悔しそうな顔をする。
「そして最後にリエル。お前に対する対策は…特に無かったが、強いて言うなら数とでも言うべきか、」
「数。?」
「ああ、お前の”サイコキネシス”は操る対象の抵抗する力が強いほど、そして対象が大きければ大きいほど操りにくくなるな?」
「…それがどうした…?」
「ん? お前なら気づいていると思ったんだがな、
この支部を取り囲んでいる兵の数に。」
「…!!」
「気づいたか? 今のお前の力ではどうやってもここからは出られない。」
操る対象の数が多ければ多いほど、体積が大きいことになる。そもそも目の前のラース先生をなんとかしないといけないというのに、状況はますます絶望的だ。
「さて、最後の会話を十分楽しんだし、そろそろいいか。」
そう言ってラース先生は胸元からトランシーバーを取り出して、恐らく部下に来るように伝える。
その隙にオレはウェアと小声で作戦会議だ。
「ウェア,オレが壁を破壊してラースの動きをなんとか抑えてみるから、その隙にアンを救出してここから抜け出すことは可能か?」
「俺は可能…だが、お前はそんなこと出来るのか?
この壁が何で出来てるのか知らないが、相当硬いだろうし、あいつの動きを封じるのも至難だぞ。」
「…そうだな、少し冷静にならないとな…
何とかラースの剣だけ抑え…いや…壁の破壊だけに集中していいか?」
「了解だ。」ウェアが軽く微笑んで言う。
通話を終えたラース先生はオレ達の方に再び向き直る。
「もうすぐお前達とはお別れの時間だが、最後に何か言い残したことはあるか?」
何か言うべきか、何か言うと脱出に役立つかもしれないと数秒思考していると、質問はラース先生の後ろから来た。
「先生…本当に最初から私達を裏切っていたの…?」
アンが泣きそうな声でラース先生に問いかける。
ラース先生はアンの方に向き直り、表情は分からないが恐らく笑って答える。
「最初から…とは少し違うな。最初よりもさらに前…マイナスとでも言うべきか。前の戦争では最優先抹殺対象が”エネルギー”の超越者であるラストだったんだが、その次がお前らの前担任マイクだったんだ。何故だと思う?」
ラースがオレから目を離したらすぐに壁を破壊するつもりだったが、ラースの言葉に数秒思考が止まる。
だが、アンの表情を見て思考を再開出来た。
「それはなぁ、マイクを殺してオレがお前らの———」
オレは後ろの壁に手を向ける。
やはり、壁はかなりの硬度だった。
だがこれなら壊せる…そう思った瞬間だった。
オレは意識が飛ぶほどの痛みを腹部から感じた。
「ガハッ———」次の瞬間オレは血を吐いていた。
ウェアがオレの名前を叫んでいるような気がした。




