73,窮地
「よしじゃあ行こうか。」
ローズンへ向けて全員で出発する。
ここの辺りは、木がたくさん生えていたりするので、少し隠れながら移動する。
恐怖心が強い者や早くローズンへ行きたいなどみんなの考え方は様々だ。それゆえ、全員のスピードが少しずれて、徐々に距離が開いていく。
「おい、早く。」先頭を行くウェアが最後尾にいるティアラに話しかける。
「い、いや…だって、周りを警戒しておくのも悪いことじゃないでしょ…?」
「悪いことだらけだよ。そもそもこっちが警戒していようがいまいが、見つかった時点で終わりだ。
それに警戒して歩くのが遅くなったら、結局助かる確率を減らしてしまうことになるぞ。」
「い、いやまあそれはそうなんだけど……ってうわぁ!!」
ウェアはティアラの手を掴んで引き寄せる。
「とにかく全員俺の近くにいろ。いざとなったら俺の”瞬間移動”で逃げるんだからな。俺は自分に触れている奴、もしくはそいつに触れている奴としか、一緒に”瞬間移動”することが出来ない。しかも目で視認出来る範囲400m以内だ。
だからただの時間稼ぎにしかならないだろうけど、」
「だからこそ急ごう。いつ奴が現れてもおかしくは———」
「———リエル後ろ!!」 「えっ?」
オレが後ろを振り返ると分厚い氷の壁が出来ていた。シトラが作ってくれたのだ。その分厚い壁が出来てすぐに壊れる。
しかし壁があったことで、回避に成功した。
回避したと思ったらウェアがオレに触れてくれて”瞬間移動”する。
かなり移動したと思って後ろを見たら、すぐ近くにもうロードがいた。
殴りかかってくる動作をした気がしたので、咄嗟に顔の前に左腕を持っていくが、左腕を出した僅か0コンマ数秒後、左腕がバキバキに折れた後、後方へ吹っ飛ぶのを感じた。
痛みはその後にやってきた。
オレが吹っ飛んでしまったことで、ウェアが”瞬間移動”出来ずにいる。
それを見逃すはずのないロードは、ウェアに殴りかかる。
それをアンが、自らの身を犠牲に助ける。
すぐにみんながロードから距離をとる。
「…子供にしちゃ良い反射神経だ。殺すのが少し惜しいな。
俺達の国に来ないか? 悪いようにはしない。」
「悪いけどお断りだね。」
いつのまにか”再生”で回復したアンが答える。
「おや? 君はさっきかなりの手傷を負わせたはずだが?」
「そんなことより一つ聞きたいんだけど?」
ティアラが会話に割って入る。
「マイク先生は?」
「あの世で会うと良い。」
表情を変えたティアラがロードの周りにスケルトンを10体以上出現させる。
「ティアラ!!」
「分かってるよ! 私じゃあいつに勝てないことぐらい!!
だから時間稼ぎのつもりだけど…」
ティアラが時間を稼いでくれて、ウェアが逃げるように準備してくれているというのに、オレは放心状態になっていた。
(マイク先生が…死んだ……? 誰のせいで…?
マイク先生は…オレ達を逃がすために……?
じゃあ…オレ達の…オレのせい……?
前にもこんなことがあった気がする…
オレのせいで誰かが…
いつだ…? 誰なんだ…?
前にもこんなことが…)
特別マイク先生が好きだったわけでも、前にオレのせいで誰かが死んだわけでもないのに、オレはそれ以外考えられなくなるぐらいにはなっていた。
「———エル? リエル!! リエル!!」
「…んあっ? ああ…」
アンの叫びで、ようやくオレは目が覚めた。
しかし、目の前ではロードがオレに殴りかかろうとしていた。
オレは腹にそれを食らってしまい、さらに後方へと飛ぶ。
オレは木に打ち付けられ、さらにそのまま頭へ殴られそうになる。
「「リエル!!!」」
みんなが叫ぶ。しかし、オレは意識が朦朧として回避も防御も出来ない。
ウェアが”瞬間移動”で助けに入ろうとするが、間に合いそうにない。
しかし、ロードの拳はリエルにではなく、土で出来た壁に激突した。
その壁は崩れはしたが、一時ロードの攻撃を止めるほどには頑丈であった。
「!!!」
この場にいた全員が驚く。
「危なかった。良かった間に合って…」
その声の主は、ガイア・ラマスター
“地形生成”の超越者だ。




