71,奇襲
上空を飛ぶ飛行船では、10人程度が集まって会議が開かれていた。何の会議かは言うまでもなく下にいるクラント兵についてだ。
「まず最優先の抹殺対象はラスト・オールダーです。
敵国の超越者は潰せる時に潰しておくべきですから。
もし彼を殺すことが出来たなら、我が国にとってかなりの利益となるでしょう。」
1人の男が立って全員に説明する。
それに答えたのは、ヴァルランダの”身体強化”の超越者であるロード・デイバードだ。
見た目は10代と間違えるぐらいには若い。
「了解した。それで次の抹殺対象は?」
その男が資料をめくる。
「マイク・ワンダーソウルです。この男はクラントにある軍校、ルーグラン校でSクラス1年生の担任をしている者です。”スキル”は”千里眼”と厄介なところが理由です。
それと何故かアルタミラから抹殺対象の最優先候補者でしたので、ラスト・オールダーの次の抹殺対象となりました。」
それに答えたのは、ロードとは別の男だ。
「アルタミラか…何ともよく分からんところだな。
中立国と公言していたにも関わらず今回の戦争で我が国に秘密裏に援助。それに内情がよく分からん。
今更だがアルタミラを信用しても良いのか?
今回の奇襲もアルタミラの協力あってのことだろう?」
「ですが今回の戦争でほぼ無償でこれだけの援助。
もはや我々は信用するしかないでしょう。
現に今だって、この飛行船の”透明化”に協力してくれている。それにアルタミラが我々を裏切るメリットは皆無です。
アルタミラは平和はあれど武力のない国。
もし今回の我々への協力がクラントに知れれば、当然クラントを敵に回す。
つまり我々とクラントを同時に敵に回すことになるのです。
そんなマネはしないでしょう。」
「確かにな。」
この意見には全員が同意している。
「だが、王はあまりにアルタミラを信用し過ぎじゃないか?
今回の奇襲作戦だってアルタミラが裏切れば貴重な超越者を1人失うかもしれんのだぞ?
いや、仮にアルタミラが絶対に裏切らないという保障があったとしても、敵地に1人奇襲など考えられん。」
「貴方達は王のご決断を疑うのですか?
あの暗殺事件で王がおかしくなられたと言う者も多いですが、私は最後まで王は何かお考えがあるのだと信じております。」
部屋に沈黙が訪れる。
ロードが咳払いをして全員の注目を集める。
「とにかく今回の任務はラスト・オールダー、
そしてマイク・ワンダーソウルの抹殺だな?
その後はどうすれば良い?撤退か?」
「いえ、まあこれは出来ればで良いのですが、ルーグラン校生も始末したいのです。将来の脅威になりうるので。
実際にエガー中将がルーグラン校の子供2人に討ち取られています。」
部屋が少しざわつく。エガー中将と言えば、ヴァルランダ軍の中将内では肉弾戦トップクラスの超人だ。中将というだけで破格の強さなのにだ。
「事実です。他にもルクス大佐、ルナ大佐、ナイリ少将もです。中佐以下を除いてもこれだけの数が…
今でも十分脅威なのに、これでは将来どれほどの脅威になるか分かりません。」
「ちなみにこちらは誰か殺したのか?」
「いえ、そういった情報は入ってきておりません。」
また部屋に沈黙が訪れる。
それを破ったのもまたロードだ。
「分かった。出来る限りオレが始末しよう。」
超越者は中将クラスよりも数段上の域にいる。
その超越者が言うことで、安心感が生まれる。
「ありがとうございます。ですがルーグラン校生は出来るならで結構です。何度も言いますが、何よりも優先されるのはラスト・オールダーそしてマイク・ワンダーソウル。
この2人さえ殺せれば、あとは撤退してもらっても何の問題もありません。」
「ああ。」
「その撤退方法ですが、これは前に説明した通り、この飛行船を透明にしているアルタミラの”スキル”使いと、同じくアルタミラの”瞬間移動”の”スキル”を持つ者がロードさんの合図を確認し次第、逃します。」
やはりまだアルタミラを不安視する者はいる。
そんな中、ロードは優雅に立ち上がり、窓を開けろと指示する。
「ロード、やっぱりアルタミラを信用するには早すぎないか?」
そう口にする者がやっぱりまだいる。
「もちろん信用などしていない。しかし命令となればする他ない。もしもの時用に生き延びる方法をしっかりと考えておくさ。」
窓の近くに歩きながら、ロードはそう答える。
そして窓から地上を見下ろす。
「こんなに上空からは久しぶりだな。1500mはあるか?」
そう言って、窓に身を乗り出すロード。
「気をつけろよ、健闘を祈る。」
「ああ。」
そう言ってロードは窓から地上に飛び出した。
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一方クラント兵は、ローズンに向けてまだ移動している最中だった。先頭を行くのはラスト中将を乗せた馬車。
その周りには、周囲の警戒をしている兵が数人。
その内の1人が上空からものすごいスピードで降ってくる何かを目撃した。
急いで知らせなければ、そう思って声を上げようとした瞬間、それはラスト中将が乗る馬車に落ちた。




