68,死
何もない空間にエガーはゆっくりと倒れる。
それを見てイリアが近づいてきた。
イリアはさっき話していた時よりさらに傷ついている。
「勝ったんだね。流石はシトラとルビア。明らかにこいつは中将クラスだったのに…」
「…まあボロボロに負けても全然おかしくなかったよ。ただ偶然勝てただけ。ところでそっちは?」
「もちろん勝ったよ。まだこの空間を維持するために殺してはいないけど。あと一応スキルブレイクとかもないように気絶させてもない。まああんなの稀らしいから起こんないとは思うけど、」
そう言ってイリアは倒れているカートの方を指指す。そのカートは血まみれで、死んでいると言われても納得できるぐらいだった。
「あれ本当に死んでないの?」
「もちろん。まあどっちももう勝ったし、そろそろ殺す?」
字面だけ見ればイリアがとても怖いことを言う。
「それよりそっちこそルビアは死んでないの?」
と言って氷に包まれたルビアを指差すイリア。
「うん。まあ冷凍保存の完全上位互換みたいな感じ。
じゃあ今からルビア溶かすから、それからあの”ワープ”使いを殺そう。」
「了解。」
そう言ってまずルビアの元に2人。
シトラはルビアを包んでいる氷に触れ、溶かす。
そして今も気絶しているルビアをシトラがおんぶしてカートの元へと向かう。
それを少しニヤニヤして見るイリア。
「何?」
「ああいや、随分仲良くなったなって。」
「別に仲良くなったわけじゃないよ。ただ流石に私の代わりに攻撃受けてくれたりしてて、少しは感謝してるからね。ただそのお礼をしてるだけ。こいつに借は作りたくないから。」
無感情に淡々と言うシトラを見て、少しつまらなそうにするイリア。
「まあいいや。じゃあそろそろ現実世界に戻ろうか。」
そう言って”ライフル”を作り出し、それをカートへ向ける。
「いいよ、じゃあ戻ろう。」
パンッと音がした後に、辺りが一瞬黒くなり、そして戦場のローズン平野へ戻ってきた。
しかし、シトラとルビアは同じ場所にではなく、ゲートに入ったところへ移動したらしく、イリアは自分がいた狙撃地点へ、シトラは大佐達がいる前線へ。それとエガーとカートの死体もゲートに入った地点へ移動した。
「? あれ? イリアは?」
「? あれ? シトラは?」
イリアには返事は無かったが、シトラにはあった。
「……ん? お前はシトラか…?」
話しかけてきたのは、かつてルビアとシトラと一緒に前線に出たが、カートによって分離させられたピース大佐であった。
「! ご無事でしたかピース大佐!」
「…ああ、まあな。そっちこそその背中にいるのはルビアか? 無事なのか?」
「ええ、おそらくもうここでは戦えませんが生きてはいます。それより他の大佐達は?」
シトラがそう言うと、死んだような顔をするピース大佐。そこから数秒沈黙が続く。
それでシトラも何となく察してしまった。
「……………後ろを見てみな……」
シトラが恐る恐る後ろを振り向く。
そこには、血だらけになった敵の2人と…エルヤー大佐、カイラ大佐の姿があった。
察せてはいたが、実際に見る衝撃はかなり大きく、数秒固まるシトラ。そのシトラに後ろから声がかかる。
「………みんな死んでいる…エルヤーさんは……自分ごと敵を巻き込んで…カイラ…は…俺を庇って…」
言いながら泣き出すピース大佐。
その時、シトラはイリアに言われたことを思い出す。
「人は結構簡単に死ぬよ。」
その時、遠いところから凄い爆音が聞こえた。
シトラはおぶっているルビアに無意識に力が入る。




