61,不仲
俺はアドランス家の次男、ルビア・アドランスだ。
俺は歴代のアドランス家の中でも優秀な方の部類に含まれる。そのため、兄を退けアドランス家次期当主の地位を得た。
現当主の父には到底敵わないが、それでも最近はほんの少しだけだが父の本気を出させる程度には成長出来ていた。
そのため同年代には敵はほぼいなかった。
唯一俺に匹敵するかもしれないのが、今俺の横にいるオーケニアス家の次期当主、シトラ・オーケニアスなのだが、実際に実戦を何度かやったことはあるが、”スキル”の相性もあったのだろうが全て俺が勝っていた。そのため、少し天狗になっていたようだ。
俺は超越者というのに会ったことがなかった。
今まで自分が会った中で一番強い人は自分の父なのだが、そんな父も超越者ではないという。しかし、父はどうやら超越者を除いた人間の中では最高峰らしいのだ。
それで、俺は何故か父の少し上ぐらいが超越者なのだと思っていた。しかし…
「ははは、何だあれ。あれが同じ人間か…」
俺は前線にいたため、超越者同士の戦いを見ることが出来た。少しでも余裕がある者は、みんな同じように見ている。それほどまでに凄かった。
まずラスト中将が光の球を作り出したのだが、その威力がおかしいのだ。初めに(多分牽制程度に)放った攻撃は、確かに大した威力だったが、まあそんなもんか程度だった。
だが、その次の次、敵の超越者に放ったのはとてつもない威力だった。しかもその次、ラスト中将がかなり大きめの光の球を作り出したのだが、その威力は先程のものとは比べものにならないレベルだ。超越者同士の戦いに巻き込まれないようにみんな離れているのに、それでも巻き込まれた人がいたぐらいだ。
それに対応している相手の超越者もヤバい。
何か白いのが通ったと思ったら、相手の超越者がすでにいたのだ。どれだけの速さなのか…しかもラスト中将はおそらくそれを避けたのだ。つまり身体能力もとんでもないということ。これほどまでに超越者とそうでない者が違うのか…と思った。
(井の中の蛙大海を知らずとは正にこのことだな。)
しかし、この時ルビアの心の中に生まれていたのは、諦めではなく向上心だった。
(ははは、あんなに上がいるのか。そういえば”スキル”に上限は無かったんだったな。つまりどこまでも俺は強くなれる!!)
「超越者…まさかあれほどとはね……私達も頑張らないとね!」
っと横にいたシトラが言う。
シトラにもまた向上心は生まれていた。
「達ってなんだよ。俺とお前を一緒にするな!」
「別にあんたを含めてないんだけど? あんたを除いたSクラスのみんなでって意味よ!」
俺とシトラが睨み合う。
昔から何故かこいつとは仲良くなれない。
いや、理由は明確だった。
それは親同士の仲が悪いからだ。
だからさっき言った実際の実戦というのは、親同士が「どっちの方が強いのか」とかで競って、俺が勝って、シトラの親が”スキル”の相性不利を言い出すまではテンプレだ。
シトラも連敗続きのせいか分からないが、俺への当たりは最悪だし、そのせいでこっちもシトラを嫌いになって、今ではもうほぼ修復不可能になっている。
「おい、俺達もそろそろ行くぞ。」
上官であるピース大佐にそう言われて、2人とも矛をおさめる。それと同時に、ピース大佐が言った言葉をようやく理解し始めていた。
どうやらそろそろ戦わなければいけないようだ。
シトラとルビアには、緊張は確かにあるのだがそれよりもワクワクが勝っていた。
「おい氷、どっちの方が活躍出来るか勝負だ。」
「は? ふざけてんの? 今はそんなことする時じゃないでしょ?」
「””また””俺に負けるのが怖いのか?」
シトラの頭がプチんっと何かが切れるような音が聞こえたような気がする。
「またって何? 言っとくけどこの”スキル”相性差で圧勝出来ない時点で私の勝ちだからね?」
今にもケンカが始まりそうだ。
ピース大佐は少し呆れて声をかける。
「おい! 真面目にやるぞ!!
戦場舐めてたら本当に死ぬぞ!?」




